1 泣いたおっさん
2019年11月27日。
この日をおっさんこと私、瀬川は一生忘れない……たぶん(最近記憶力がヤバい)。20数年ぶりに長編小説を完結させた日。約24万字を仕上げた日。おっさんは、ぼろぼろ泣いていた。
◇
おっさんは、1年半前にどえらい大病になってしまった。詳しくはそのうち書くが、大病は二つセットでやってきて、いきなりいのちが「あぶにゃー」になった。お前は仮面ライダー最終フォームか、ちょっとは段取り考えろと言いたい勢いだった。
いろいろ手を打った後、医者の言った結論だけまとめれば「どっちの病気も治らないよ。発作が起きればさくっと死ぬかもだから気をつけてね。進行性ではないから、節制すれば長生きできるかも」……うっわ超微妙。
で、おっさんは、残った時間(多いのか少ないのか……?)で何をしようかと考えた。
仕事に復帰できるかもそのときは微妙だったし、もう、がんがん仕事人間な生活は無理だ。療養中はヒマだったので、いろいろ断捨離して、身辺整理した。ぽっくり逝ったとき、ゴミがたくさんでは残された人もたまらんだろし…駿河屋さんありがとう。
ついでに、昔書いた小説(短編)とかの整理を兼ねて、なろうに旧作を上げた。
……たぶん、生きた足跡といえるものを誰かに見て欲しかったのだ。
さらに整理していると、4年前にこれは凄いプロットだ!と言いながら、原稿用紙40枚ほどで放置していた「辰巳センセイ」という作品のファイルが出てきた。名作文学のストーリーと重なりながらミステリーが展開し、国語科教師の主人公が、言葉で事件を解決する……これを見たとき「こいつを、書き上げたい」とおっさんは感じた。
おっさんは、そのとき、どれだけ自分が教師の仕事が好きだったか気付いた。
もう、生徒の前に立てないかも知れない。教えてやりたいことはいっぱいあったのに、もう、ここまでかも知れない。
教え子から、スマホに何件も連絡が入っていた。「先生、早く帰ってきて授業やってください」「治ったら部活来てください」……それを見て本当は、こっそり泣いていた。返事はどう書いていいかわからなくて、一件も返してなかった。
そんなときに見つけた「辰巳センセイ」のファイルは、おっさんにとって、先生を続けられる場所に見えたのだった。
当初は、ちょっとひねった、先生ならではのミステリー。そして、国語教科書がキライな生徒に、楽しんで授業を受ける気にさせるための教育的?娯楽作品にしよう……そう思って、プロットを練っていたのに。
書き始めたらどんどん深みにはまった。くそ熱い、熱苦しい、ガチ言葉、ガチ希望の小説になった。先生だからやっぱ説教くさい、ツマンネ……あいつらにそう言われたくない、と思って、とにかく上質なエンタメになるよう、とことん考えた。とことん工夫した。なんだか、授業準備をしてるときみたいな気分になった。
言葉って、すげーんだぞ。だから、大事にしなきゃなんね。人を呪うのも、祝うのも言葉の力だ。希望に繋がるように、言葉を自在に使いこなせるようになれ……生徒にいつも言ってる言葉が、作品のテーマになった。ガシガシ書き進んだ。
夢中で書いて書いて、あっという間の4万字で、最初のプロット「舞姫の時間」が書き上がった。原稿用紙にして、150枚。後半は書きながら泣いていた……良く泣くおっさんだが、歳とると大体こうなるんだ。すまない。
「舞姫の時間」を書いているうちに、ヒロインが可愛くなってしまい、主人公とヒロインを幸せにしてやりたい!と思い始めてしまった。面倒見始めた教え子を卒業まで見守りたい……そんな感情が、転写されてたのかもしれない。
書くからには、ハンパなクオリティじゃいけねぇ……据わった目のおっさんは呟いた。
どうせ、生涯最後の作品になるかもなんだ。俺に書ける最強の一本、最強のラストじゃなきゃ、あの世から書き直したくなっちまう……でも、焦るな。一章ずつ、丁寧に考えて、考えて、書き上げる……途中で倒れたときに、読んでくれた人を裏切らないために「その章まででもばっちり面白い」ヤツに仕上げるんだ……。
◇
10ヶ月が経った。
本当に最終章まで書き上がった渾身の作品「辰巳センセイの文学教室」。読み返しながら、今、おっさんは思っている。
本当に書けちまった……マジか。
はは。俺、結構やるじゃん。
半年前からは仕事にも復帰して、だいぶ周りに配慮してもらいつつも、教壇に立っている。
進路について語り、時間について語り、国語について、文学について、今日もおっさんは語っている。まだ、時間あるのかな。もう少し、作品書けるかな。
なろうに出入りしていた10ヶ月で、沢山の人から応援してもらった。初めての長編なのに、感想は200件を超えて、ありがたすぎてどうやって感謝していいのやら。レビューもファンアートも一杯もらった。サイドストーリーまでいただいた。
全部、おっさんへの心強い応援になって、難しい場面や章を書き切る力になってくれた。おっさんは、感謝でいっぱいになって、次の夢を見てる。
死ぬ前に、どうにかして本にできねーかな、と。
正直、あんまり金はいらない。どうせ使う前に……と思ってしまうし、あっちまで持ってけるものじゃない。印税なんて、ただ同然だっていい。「お金を払っても読みたい作品です」と、認められたい、気持ちがぐつぐつ燻ってる。
そして、自分がこの世界から消えて、何年か経った後にも、この本が子どもたちのところに残ってる、という状態を想像したい……そしたら、やり残し感がもう少し減らせるんじゃないかと思うんだ。
出版社の方、ぜひよろです(宣伝)
いろいろひどいな!(;´Д`)
でも、割と紳士的にやってきた?瀬川が全部ぶちまけるエッセイという感じで。
本音ダダモーレ!マンマミーア!……すいません。
次回、闘病ブログに書こうとしていた病気話。
「もやもやディズィーズ」いってみましょう。
……なんかのコンビ名かよ(※病名です)