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オーバー・ザ・フロンティア  作者: 六道一真
第一章:世界を越えた物語
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蠢く影

「あんのクソガキがァ!」


 ガン!

 カーディナルの地下。不要なデータをゴミ処理場(消去システム)まで流す為の下水道のようなエリアに、怒号と共に壁を蹴りつける音が響く。


「クソ、クソ! クソクソクソ! あの正義の味方気取りが! 忌々しいったらありゃしねぇ!」


 いつものオカマ口調はどこへやら。ただ怒りに身を任せ、その男――ヴェインは壁に鬱憤をぶつけ続ける。


「おまけにワイバーンまで失うし……。こんなのアイツに知られたら」

「知られたら、どうなるのかな?」


 だが、憂さ晴らしは唐突に止まる。止められる。

 暗闇から浮かび上がるようにして現れた人影によって。


「あ、あら。いたのね、ネメちゃん。こ、声くらい掛けてくれれば良かったのに」

「そう固くならなくていい。ただ、その呼び名は止めてくれ。俺の名はネメシスだ」

「えー、可愛いのに」


 もっとも、本当に可愛いかは分からない。何せ、黒地にライトグリーンのラインが入ったフード付きのコートで、全身をすっぽり覆ってしまっているのだ。

 身体の起伏まで隠れているので、声を聞かなければ女性だなんて分からなかっただろう。その唯一性別を判断出来る要素すらも、大分男勝りな口調だが。


「さて、何があったかはもう把握してる。随分派手にやったじゃないか」


 ネメシスが左手に装着したリンクスに触れると、いくつもの映像が映し出された。

 フロンティアの出来事を流す番組、無料動画サイト。種類は様々だが、扱っている内容は一つ。ヴェインとワイバーンが起こした、ユグドラシルの破壊騒動だ。

 ジーク達以外は強制的にテレポートさせたので、映っているのは騒動の最初辺りだが、それでも既に10を超えるメディアに取り上げられていた。


「けど、収穫はなし。それどころか、折角貸したワイバーンまで撃破されるとはね」

「あ、あれは……」

「まぁ、それは別にいいさ。まさかあのレベルのモンスターを落とせる奴がいるなんて、予想してなかった。完全に俺の誤算だ」


 2人の関係は、一言で言えばビジネスパートナー。依頼人がネメシスで、請け負ったのがヴェインだ。


(まぁ、この子達のネームバリューに惹かれて近づいたのはアタシだけど)


 隠密に済ませるよう指示を受けていたので、これだけ大事にした叱責、最悪ワイバーンを失った件も併せて賠償を求められると思っていた。だがそれも、ネメシス本人が非を主張してお咎めなし。

 デスペナでほとんどのアイテムを失っていたヴェインには、正直有り難い話だ。


「けど、プリンセスを確保出来なかったのは痛い」

「ッ……!」


 投影した映像を握り潰すようにして消すネメシスに、ヴェインは思わず息を呑む。

 肌に突き刺すような空気は、明らかにさっきまでとは違う。にもかかわらず、声は変わらず粗暴でありながら落ち着いていて、逆に不気味に感じる。


「あれが長時間同じエリアにいるなんて滅多にない。だから、ようやく補足したこのチャンスを活かしたかったんだが」


 口では惜しんではいるものの、やはりそこに悔しさはない。ただの事実確認だ。


「それと今回乱入したあの男、いや女かもな。どっちにしても、結構腕が立つみたいだし、次も邪魔してくるとなると面倒だな」

「はぁ!? 何言ってるのよ、ネメちゃん! アイツはレベル53の雑魚よ! そんなのに、アタシが手こずるワケないじゃない!」

「その雑魚にいい様にやられたのは、一体どこの誰かな?」

「う……!」


 図星を突かれ、言葉を詰まらせるヴェイン。

 言い訳なんて出来るはずもない。トドメを刺したのはターゲットだったとしても、あの男にいい様にされたのは事実だ。


「しかし、あれで53か。それであの身のこなし……。有力候補は一通りチェックしたつもりだったが、世界は広いな」

「それはアタシも思ったわ。明らかにレベルと動きが合ってなかったし……ひょっとしたら、前は別のアバターでプレイしてたんじゃないかしら? ほら、よく一人二役やってる人っているじゃない?」

「フロンティアでは禁止されてるけどね。まぁ、裏技を使えば有り得ない話じゃないし、一応調べとくか」


 俺がやる訳じゃないけどね、と悪戯っ子のようにネメシスは舌を出した。


「まぁ、今回は無視でいいだろう。ただの通りすがりみたいだったし、そう何度も巻き込まれたりはしないはずだ」

「そ、そう。借りを返したかったから、ちょっと残念ね」

「仕事の後にいくらでも返してくれ。ただし、やる事はやってもらうよ」

「はいはい、分かってるわよ。けど、肝心のお姫様の居場所が分からなくちゃねぇ」

「そこはウチのスキャンに引っかかるのを待つしかない。その間に、俺達は次の手を講じるとしよう」

「次の手?」

「使えるものは何でも使うって話さ」


 彼女が、彼女達がそれを言うと妙に説得力がある。

 ここは彼等のテリトリー、使えないものなんて有りはしない。


「君にも手伝ってもらうよ、ヴェイン。このまま依頼失敗でタダ働きなんて嫌だろう?」

「分かってるわよ。全く、前払いにしとけば良かったわ」

「話が早くて助かる。そのくらい、仕事もスムーズにこなしてくれると助かるんだけどね」


 さっきのヴェインの敗因を言っているのだろう。つくづく痛いところを突いてくる。


「い、言わないでよもう! 今回は油断しただけ。次こそは――!」

「心配してないさ」


 名誉挽回に燃えるヴェインに、あっさり返すネメシス。

 その時、ずずず……と奥の暗闇が蠢く。そこから感じられる気配は、一つや二つじゃない。

 得体の知れない何かがいるのは明白。だが、ネメシスは気にせずに暗闇の方へと進み、


「次は俺も出るからな」

感想・評価・誤字報告、お待ちしています!


次回予告

混乱、混乱、混乱。何が起きたのか、全く分からない。

世界を越えた少女を前に、少年が導き出す答えは。

次回、『交わる2人』

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