30. 思い込み
「さぁて、後は洗脳魔法で、シャルカを〝俺の奴隷〟にして手駒にするだけだ……!」
この時、俺は勝利を確信していた。
理論上、シャルカにもう手は残されていないはずだった。
ミノリの呪文封じの魔法により、奴は唯一の発現魔法を封じ込められたのだから……。
あとはこのまま俺たちがシャルカを取り囲み、投降を促すか、それに従わない場合は洗脳魔法を使って無理矢理仲間にするだけでいいはずだった……。
だが、結論から言えば、この作戦は失敗した。
ひとえに、それは俺の思い込みによる誤算だった。
いや、俺ばかりではない。
セレナも澪も来果もミノリも、その場にいた全員がある一つの〝思い込み〟に支配されていたのだ。
だからこそ、ミノリの魔法によって〝ルーカ・フェルエム〟を封じられたのを理解したシャルカがとった次なる行動に、俺たちは全員我が目を疑ったのだ。
「〝セイクリッド・シルディア!〟」
呪文と共に、シャルカのステッキが光り、足元に小さな魔法陣が出現した。
その魔法陣の半径がみるみる内に大きくなっていく。
その拡大に伴って、シャルカの傍にいたミノリは魔法陣の外側へと押し出されていった。
「うわっ!」
外側にはじき出されたミノリが尻餅をついた頃には、シャルカを中心とする魔法陣の半径は3メートル以上にもなっていた。
その魔法陣の縁からは強大な魔力を感じる光が放出され、天へと昇っている。
森の真ん中に、巨大な円柱が出現したかのようだった。
「ルナ、あの魔法陣……」
浮遊魔法で上空から魔法陣を見下ろしていた澪が何かに気づいたように言った。
「あの魔法陣、魔女の試練の4つ目の部屋の壁に描かれていたのと同じ……」
「なんだと!?」
俺も慌てて魔法陣を見下ろした。
確かに、澪の言う通りだった。
大地に広がるその魔法陣の紋様は、あの魔女の試練でエスメラルダが施した壁の封印の魔法陣と同じものだった。
――ってことは、今、シャルカが使ったのは、あの時と同じ魔法なのか!?
……その可能性は十分にある。
あの時は部屋に入った時には既に壁に魔法がかかっていたため、俺たちはエスメラルダが呪文を唱えるところは見ていないからな。
仮に同じ魔法ではないにしても、魔法陣が同じである以上、似たような効果を持っているのは間違いない。
おそらく、これは魔法陣内部の術者を外部の攻撃から守る強力な防御魔法なのだろう。防御力、防御範囲ともに通常の〝シルディア〟をはるかに上回る高位の防御呪文だ。
〝ルーカ・フェルエム〟を封じられたシャルカは、身を守るために、この呪文を使った。
そこまではいい……。
だが……。
だが、そんなことよりも問題なのは、なんでシャルカが〝2つ目〟の魔法を使えるのかってことだ!
精霊と契約していない以上、使える魔法は発現魔法1つだけのハズだ!
っ!? まさか! もう既に他の国の精霊と契約を……!?
一瞬、そんな最悪のケースが頭をよぎった。
だが、状況的にその可能性は低い。
もしもどこかの国の精霊と契約しているのであれば、仲間の魔法少女と行動を伴にしているハズだ。
仮に仲間がいて、俺たちをおびき出すための囮としてシャルカを使っているのだとしても、すぐに助けに来られる距離にいないと意味がない。
にもかかわらず、現状この周囲にいる魔法少女は俺たちとシャルカだけだ。援軍が来るような気配はまるでない。
俺たちと出くわしたシャルカの反応から見ても、とても自分以外の魔法少女の存在や、ウォーゲームのことを知っているようには思えない。
シャルカがまだ精霊と契約をしていないのは状況的に明らかだ!
なのに、ナゼこいつは、2つも魔法を使えるんだ!?
頭の中が「?」でいっぱいになった。
「お、おいシャルカ! ひとつ聞かせろ! どうしてお前は2つも魔法を使えるんだ! 魔法少女になった時に使える魔法は発現魔法1つだけのハズだぞ!」
たまらずに、俺はドイツ語で質問を浴びせた。
すると、魔法陣の中心にいるシャルカからは衝撃的な答えが返ってきた。
「1つだけ? ボクがこの力を手に入れた時に使えるようになった呪文は全部で3つだけど?」




