25. 救出劇
「カァアアアアアアアアアア!」
ミノリの身体を足で掴んだまま、プテラノドンは咆哮する。
「ルナち~ん! 早く助けて~!」
「待ってろ、ミノリ! 今助けるから!」
……とはいえ、どう攻める!?
敵は大空を自由に飛び回る翼竜。
俺とセレナは現在、箒に乗ってプテラノドンとは対峙状態にある。
……よし、とりあえず、正攻法でいくか。
「セレナ! 俺は時計回り、お前は反時計回りで行くぞ! 全速力でミノリの所まで飛んでいくんだ!」
「はい! わかりました!」
「来果、澪! お前らはもしものことがあった時に備えておけ!」
俺は地上の二人に向かって叫んだ。
来果たちが頷いたのを確認すると、俺とセレナは作戦通り二手に分かれてミノリのもとへと飛んで行った。
ビアブルムの魔法に宿る力を最大限に発揮した突撃。
俺もセレナもミノリを救うために最大限に魔力を使っていた。
しかし……!
「カァアアアアアアアアアア!」
シュピン!
プテラノドンは急上昇した。
俺とセレナの突撃は空振りに終わる。
「は、速い……!」
「まだだ、セレナ! 攻め続けるぞ!」
「わ、わかりました!」
俺とセレナは再び箒を急発進させた。
俺の突撃をプテラノドンがかわすと、そのかわした方向にセレナが待ち構えている。
しかし、プテラノドンはそのセレナの追撃すらさらりとかわしてみせた。
あとは、それの繰り返しだった。
俺とセレナが二方向からいくら突撃しようとも、プテラノドンは俺たちの箒の魔法を上回るスピードでかわし続ける。
「く……ダメだ! ビアブルムのスピードじゃ、あいつに追いつけない!」
「どうします? ルナさん!?」
「こうなったら、遠距離からの攻撃でプテラノドンを倒すしかない! ミノリの安全を確保するために、攻撃を当てるのはプテラノドンの翼か胴体! ミノリが落下した時に備えて、来果たちに救助させるために、プテラノドンが来果たちの真上に来た時に狙う!」
「わかりました!」
「遠距離の攻撃なら、俺の闇の魔導波よりもセレナの光の波動の方が適している! 箒に乗った状態では魔法が使えない! ビアブルムを解除して俺の箒に乗れ!」
「はい!」
セレナは俺の指示通り空中で箒をステッキに戻した。
落下するセレナの身体を俺は箒受け止める。
「よく狙いを定めろよ……」
チャンスは一瞬……。
プテラノドンが来果たちの上空を通りかかった時……。
3……2……1……。
「今だ! セレナ!」
「〝アンデュ・ライティア!〟」
コォオオオオオオオオオオオオオオオ!
光の波動がプテラノドンに迫る!
「カァアアアアアアアアアア!」
プテラノドンは突然急上昇した。
野生動物の勘が危機を察知したのだろう。
セレナの光の波動はプテラノドンの翼をかすめただけで空の彼方へと消えていった。
「く……もう一度!」
「待て、セレナ! 来果たちの上にいる時じゃないと、ミノリが落ちた時に助けられない!」
「そうですね……。……っ! ルナさん、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよ!」
セレナがプテラノドンの方を指して叫んだ。
「カァアアアアアアアアアア!」
プテラノドンは俺たちに背を向け、ミノリを掴んだまま森の奥へと進路を変えていた。
「……そうか! 奴はきっとこの森の奥にいるシャルカとかいう魔法少女のところにミノリを連れていくつもりだ!」
「ど、どうするんですか!? ビアブルムのスピードじゃ、あの翼竜には追いつけませんよ! もしも見失ったりしたら……!」
セレナの言う通りだ。
ミノリは今、ステッキを持っていない。
あのままシャルカのもとに連れていかれたら、ミノリが何をされるかわかったもんじゃない!
何とかして、あのプテラノドンを止めなければ……!
遠距離攻撃はミノリに当たるかもしれない!
ビアブルムでは追いつけない!
どうする!?
考えろ……!
考えるんだ……!
……っ!
そうか!
「壁だ! セレナ! 光の壁で奴の行く手をふさげ!」
「っ! なるほど! その手がありましたね! 〝ウォレ・ロフティオ!〟」
光の壁がプテラノドンの行く手に立ちふさがる!
ドン!
「カァ!」
壁に激突したプテラノドンは苦痛の声を漏らすと、進路を右に変更した。
「よし! セレナ、逃がすな! 左右にも壁を出して逃げ道をふさぐんだ!」
「はい! 〝ウォレ・ロフティオ!〟、〝ウォレ・ロフティオ!〟」
セレナの出した光の壁は、プテラノドンの前左右をふさいだ。
「カァアアアアアアアアアア!」
右側の壁にぶちあたり、怒り狂ったプテラノドンは、俺たちに向かって突進してきた。
そうだ!
それでいい!
怒りに任せてこちちらに向かってくるなら、それは俺たちが攻撃を当てる最大のチャンスだ!
「セレナ、やれぇ!」
「〝アンデュ・ライティア!〟」
「カァアアアアアアアアアア!」
セレナの光の波動がプテラノドンに命中した。
その衝撃で、ミノリの身体を掴んでいたプテラノドンの後ろ足がゆるんだ。
「きゃああああああああああああ!」
ミノリが落下しながら悲鳴をあげるが、大丈夫だ。
なぜなら、その下には……。
「〝デセル・クロノシオ!〟」
ミノリの真下で待ち構えていた来果が時間鈍化の魔法をかける。
魔法の力は物理法則などモノともしない。
ミノリの身体はまるで重力加速度など存在しないかのようにゆっくり、ゆっくりと下に降りていく。
もう一度プテラノドンに捕まったら元も子もないので、空中浮遊の魔法を使った澪がミノリの身体を受け止め、地上に連れ戻した。
これにて、一件落着だ。




