9. 魔法対決! ルナVSセレナ 後編
「〝アンギ・フーニス!〟」
セレナではなく、地面にステッキを向ける。
すると、そこから無数の蛇の頭が現れ、地面から胴体を伸ばし続けながら、セレナに向かって突進した。
「 フシャアアアアアア!(訳:ルナ様の為に~!)」
「〝ビアブルム!〟」
今度はセレナが飛行呪文を使う番だった。箒で空に逃げ、間一髪で蛇たちをかわす。
「逃がすかよ!」
俺はステッキをセレナの方に向けた。それに連動するかのように、蛇どもは進路を空中に変え、セレナに向かっていった。
「フシャアアアアアア!(待て~!)」
「くっ……!」
セレナは巧みに箒を操縦し、蛇たちの猛追を回避していたが、ついに一匹の蛇が彼女の右足に絡みついた。
「 フシャアアアアアア!(訳:捕えた!)」
「きゃあああ!」
縄のような蛇の体で右足をぐるぐる巻きにされ、セレナは宙吊りになる。
「ふん。思った通りだ。ビアブルムは、杖を箒に変える呪文。故に、一度空中に逃げたら、飛行中は次の呪文は撃てない!」
「ええ。でも、それはルナさんの言うように飛行中だけの話ですよ!」
そう叫ぶと、セレナは右手で持っていた箒をステッキに戻し、呪文を唱えた。
「〝グラディア!〟」
ステッキが今度は剣に形を変え、セレナはまず自分を拘束していた蛇を切り刻んだ。
そして、落下しながらも、残りの蛇を次々と切り倒していく。
「ギャアアアアアアア!(訳:ギャアアアアアアア!)」
「〝ビアブルム!〟」
地面に落ちる直前、セレナは再びステッキを箒に変え、ギリギリの所で再び急上昇。
箒の軌道で綺麗な放物線を描いた後、ゆっくりと着地した。
「くそ……!」
ならば、もう一度だ!
俺の蛇は不死身!
呪文を唱えれば、何度でも蘇る!
「〝アンギ・フーニス!〟」
間髪を入れず、俺はもう一度、セレナに蛇どもをけしかけた。
「フシャアアアアアア! (訳:ふっか~つ!)」
「同じ手は二度は通じませんよ! 〝ウォレ・ロフティオ!〟」
「っ!」
あの呪文は確か、目には見えない光の壁を作る魔法!
壁で蛇の進路を遮るつもりか?
ふん、無駄だ!
俺の蛇の動きは自由自在!
そんな壁程度、回り込むことなど造作もない!
そうやって俺が高を括っていると、セレナは予想外の行動に出た。
ステッキを握る両手に力をこめると、頭上まで振り上げ、一気に振り下ろしたのだ!
「 やああああああああ!」
その刹那――。
「ギャアアアアアアア!(訳:ギャアアアアアアア!)」
「な……」
思わず、あんぐりと口を開けて固まる。
いきなり俺の蛇たちが、胴体を真っ二つに切断されて息絶えたのだ。
くそ! 一体何が……っ! そうか!
「ふん。やるじゃないか。そびえ立たせた壁を宙に浮かせ、ギロチンの要領で蛇どもの身体を切断するとは」
「関心している場合じゃありませんよ! 〝アンデュ・ライティア!〟」
セレナのステッキの先から再び放出される、光の波動。
すさまじい威力を持ったそれは、先程の透明な壁を破壊し、真っ直ぐ俺に襲いかかってきた。
「うおおおお!」
たまらず、俺は真横にジャンプして、それを間一髪でかわす。
……滑り込みセーフってやつか?
だが、土埃でセレナにこっちが見えていない今がチャンスだ!
くらえ! 二つ目の新呪文!
「〝オクルス・メドウセム!〟」
「メデュァアアアアアアアアアアアアアア!」
俺のステッキの先から召喚されたのは女だった。
しかし、ただの女じゃない。
髪の毛が蛇になってやがる。
その禍々しい姿は、まさにメデューサそのものだった。
そのメデューサの両目から紫の閃光が発せられ、真っ直ぐにセレナへと向かう。
セレナはそれに気づき、すぐにジャンプして避けようとしたが、遅かった。
光線が足に直撃し、彼女はその場に崩れ落ちた。
「きゃああああ! あ、足が……」
彼女は自分の足を見て愕然とする。
彼女のスラリとした両足は、石化してガチガチに固まっていた。
「石化呪文ですか……。また魔法少女らしくない呪文を使いますね……」
「ふふん。心配するな。石化するのは光線に触れた部分だけだ。それに一時間もすれば、もとに戻るよ。だが、これで動きは封じた! 他の部分も石化させて、ステッキを奪ってやる!」
「く……」
「とどめだ!」
もう一度だ! メデューサ!
「〝オクルス・メドウセム!〟」
「メデュァアアアアアアアアアアアアアアア!」
「なーんて! 私にはまだ見せていない呪文があるんですよ!」
何!?
「〝ミラ・シルディア!〟」
呪文と共に、セレナの前に、彼女の身体がすっぽり隠れるくらいの盾が出現した。
その盾の表面は鏡のように磨かれており、俺が放った石化呪文はそれに触れるや否や、何と、こちら側にハネ返ってきた!
「うわああああ!」
予想外のことに、避けるのが遅れた。
全身石化こそ免れたものの、光線は俺の下半身に直撃し、膝から下が完全に石になってしまった。
なんとか立つことはできるが、歩くのは無理そうだ。
「ぐ……。くそ……。下半身が重い……。全く動かねぇ……」
「どうです? 光属性専用の反射防御魔法です。あらゆる光線系の魔法をハネ返すんですよ」
「くそ……ん? ちょっと待て! お前の持ってる防御呪文は〝シルディア〟だけだって、昨日は言ってたじゃないか!」
「ふふふ。ルナさんとの練習試合に備えて、昨日の夜に入れておいたんですよ。闇属性の魔法には、今の石化魔法のように、特殊光線系の魔法が多いですからね」
畜生め……。意外と策士じゃないか、こいつ……。
「昨日魔法少女になったばかりにしては、すごかったですよ、ルナさん。よく頑張りました。でも、この勝負、これで終わりです!」
セレナは勝利宣言をすると、今日3発目となるあの呪文を唱えた。
「〝アンデュ・ライティア!〟 」
光の波動が、身動きのとれない俺に襲いかかる!
しかも、今までのやつの中で一番大きい!
同じ呪文でも、魔力の込め方で威力がこうも違うのか!?
「残りの魔力をすべてつぎ込んだ本気のアンデュ・ライティア……。これはいくらなんでも防げないハズ……。ごめんなさい、ルナさん。いくら練習試合でも、魔法少女の先輩として、簡単に勝ちを譲るわけにはいかないんです。私の勝ちです! ルナさん!」
「まだだ! 俺だって、 まだ 最後の呪文が残ってるんだ!」
セレナが全力で来るなら、俺も全力で迎え撃ってやる!
俺は負けるのが大嫌いなんだよ!
闇の魔導波よ! 光の波動を突き破れ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
『いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええぇ!』
互いが全力で放った一撃。
光と闇、二つの強力な攻撃魔法。
轟音と共に空気を震わせる〝それら〟は俺とセレナの中間地点で激突!
光と闇の力は互いに混ざり合い、超高密度のエネルギー体となって、爆発した。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!
「うわああああ!」
「きゃああああ!」
呪文の激突による爆風で、足の自由が利かない俺とセレナは逆方向に吹っ飛ばされた。
数メートル後方に飛ばされた所で、地面との摩擦により、ようやく身体が止まる。
追撃の呪文を唱えるべく、ステッキを構えようとしたが、さっきまで右手に握られていた筈のそれが無かった。
急いで辺りを見回すと、随分先の草むらの中に突き刺さっているのを発見した。
取りに行こうにも、足が石化したままなので、動くことができない。
「ぐ……俺の負け……か……」
「いいえ。そうとは限りませんよ」
土埃の向こうで、セレナの声がした。
「私のステッキも、ルナさんのステッキの隣に突き刺さってます。取りに行こうにも、足が石化しているので動けません」
「奇遇だな。俺もだよ」
「引き分け、ですね」
「そうだな」
「強いですね、ルナさん。とても昨日魔法を使えるようになったばかりだとは思えません」
「お前も、な」
俺たちは互いに健闘を讚え合うと、仲良く気を失ったのだった。
・これ以後、レビュー解禁となります。次回の更新は一週間後となります。感想・評価・レビューなどいただけると、大変嬉しいですし、励みになります。
・オマケ:呪文紹介コーナー
アンギ・フーニス: 地面から大量の蛇を出現させ、相手にけしかけるぞ。
(使用者 芳樹ルナ)
オクルス・メドウセム: 呪文が当たった部分を石化させるぞ。
(使用者 芳樹ルナ)
ミラ・シルディア: 光線系の攻撃を反射させる盾を出すぞ。
(使用者 柊セレナ)
マギア・テネブラム: 強力な闇の魔導波を発射するぞ。
(使用者 芳樹ルナ)