23. ギガントピテクスを倒せ!
「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
太古の超巨大類人猿、ギガントピテクスは大地を震わせる雄たけびをあげて、俺たちに突進してくる。
戦闘開始だ!
……とはいえ、この程度の敵なら5人で相手をする程でもない。
「さがってろ、お前ら! ここは俺がやる!」
俺はギガントピテクスの前に進み出た。
「ルナさん! あんなバケモノ相手に一人だなんて無茶ですよ!」
「心配いらねぇぜ! セレナ! 俺に〝あの魔法〟があるのを忘れたか?」
「え? あ……」
セレナは何かに気づいたようにハッと口を開いた。
そう。
いくら巨大な生物だろうと、俺の〝この魔法〟なら一瞬にして息の根を止めることができる!
それが……。
「それが俺の発現魔法だ! くらえ! 〝ルーナ・モルテム!〟」
「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ステッキから出たドス黒い光線がギガントピテクスの巨体に命中する。
使うのは久々だが、この魔法の効果は今更説明するまでもないだろう。
ギガントピテクスは糸の切れたマリオネットみたいに膝から崩れ落ち、二度と起き上がることはなかった。
「ざっとこんなもんだぜ」
「ひぃいいいい! 話には聞いてたけど、これがルナちんの発現魔法〝ルーナ・モルテム〟かぁ! あんな巨大なゴリラを一撃で殺しちゃうなんて、恐ろしい魔法だね!」
この魔法を初めて目の当たりにするミノリは目を見開いて震えていた。
「ふん、いくら巨大生物と言えども、全ての生き物の命を奪うことのできる魔法を持つ俺の敵じゃないさ!」
俺はペン回しみたいにステッキを指でくるくる回転させて、またバシッと掴んだ。
気分は敵を仕留めた西部劇のガンマンだ。
「っ! ルナ! 油断するのはまだ早い!」
澪が珍しく慌てた声を出した。
「どうしたんだ、澪? ……って、何ぃ!?」
振り向いた先にあった光景に俺は我が目を疑った。
ギガントピテクスA:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスB:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスC:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
そこには、さらに3体のギガントピテクスが雄たけびをあげて俺たちを威嚇していた。
「る、ルナ先輩! あっちにも2体いますよ!」
ギガントピテクスD:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスE:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
来果の言葉に振り向くと、確かにそこにはもう2体ギガントピテクスがいた。
いや、それだけじゃない!
ギガントピテクスF:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスG:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスH:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスI:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
・
・
・
・
辺りを見回すと、いつの間にか大量のギガントピテクスに囲まれていた。
こ、こいつら全員にルーナ・モルテムを使うのは無理だ!
魔力と精神力が持たない!
「セレナ! 澪! 攻撃魔法だ! 一斉にいくぞ!」
「わかりました!」
「了解……!」
俺たち3人はステッキを構えて攻撃魔法を放った。
「〝マギア・テネブラム!〟」
ギガントピテクスB:「ギャアアアアアアア!」
「〝アンデュ・ライティア!〟」
ギガントピテクスF:「ギャアアアアアアア!」
「〝ジャベル・アイシア!〟」
ギガントピテクスI:「ギャアアアアアアア!」
俺の闇の魔導波、セレナの光の波動、澪の氷の槍が間近に迫って来ていた3匹のギガントピテクスを吹っ飛ばす。
だが、まだまだ!
まだギガントピテクスはいっぱいいる!
「ルナさん! 危ない!」
セレナが叫んだ。
ギガントピテクスA:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスG:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
振り向くと、2体のギガントピテクスが眼前に迫っていた。
しまっ――。
「〝ジバ・パイラス!〟」
「〝デセル・クロノシオ!〟」
一瞬、死を覚悟した俺だったが、ミノリの拘束魔法と来果の時間鈍化の魔法のおかげで助かった。
1体のギガントピテクスは動きを完全に封じられ、もう1体は動きがスローになっている。
「でかしたぞ! ミノリ! 来果!」
「お安い御用だよ!」
「ルナ先輩を守るのが来果の勤めです!」
と、ミノリと来果はⅤサインを送ってきた。
頼もしい仲間たちだぜ。
だが、安心してばかりもいられない。
ギガントピテクスB:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスF:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
ギガントピテクスI:「ヴォオオオオオオオオ!!!!」
先ほど俺とセレナと澪で倒した3体も起き上がって再び戦闘態勢に入っている。
ちぃ! 攻撃が弱かったか!?
ただ1体、確実に倒したと言えるのは、俺が最初にルーナ・モルテムで葬った奴だが……。
さっきも言ったように、ルーナ・モルテムはそう何度も連発できる魔法じゃない!
残り10数体もいるギガントピテクス1体1体にルーナ・モルテムをかけていたら、倒し切る前に俺の魔力と精神力が尽きちまう!
「どうします、ルナさん!? 一発でかいのをぶつけて、一掃しますか!? 私のセレナード・ラ・ライティアなら……」
「いや、ここは私のミオノ・フリガレイドで……」
セレナと澪がそれぞれの発現魔法を使うことを提案してくる。
「いや。この先、何が起こるかわからない以上、魔力は温存しておくべきだ! 魔力消費の多いセレナード・ラ・ライティアは使わない方がいいし、倒すのに1体ずつ澪が1メートル以内に近づく必要のあるミオノ・フリガレイドでは時間がかかりすぎる!」
「では、どうすれば!?」
セレナに問い詰められ、俺の頭にある考えが浮かんだ。
そうだ、〝あの魔法〟なら……!
「みんな! 俺の周りに集まれ!」
俺は叫んだ。
この魔法なら、ステッキから出る一発だけの攻撃じゃないから、全方位に攻撃が可能だ。
頼むぜ、メデューサ!
「〝オクルス・メドウセム!〟」
「メデュゥアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「メデューサよ、周りのギガントピテクスすべてを石化しろ! 身体を回転させながら全方位に石化光線を放つんだ!」
「メデュゥアアアアアアアアアアアアアアアア!」
俺の指示通り、メデューサは身体をぐるぐる回しながら、全方位に向けて石化光線を放った。
唯一光線が当たらないのは、メデューサの真下にいる俺たちだけだ。
「やった! やりましたね、ルナさん!」
セレナが叫んだ。
俺たちに襲いかからんとしていたギガントピテクスの群れは全て石像と化していたのだ。
「いや、安心するのは早いぜ。石化の効果は1時間だからな。早い所、ここを立ち去って奥に進もう」
☆☆☆☆☆
その頃。
森の奥に姿を潜ませていた少女、シャルカはステッキから自分がかけた魔法の力が途切れるのを感じ取っていた。
「ギガントピテクスが倒された……?」
その足元には、街の図書館から借りてきた、超古代生物の図鑑があった。
そのギガントピテクスのページには、いつでも開けるように付箋が貼ってある。
「こんどの侵入者はなかなかやるみたいだけど……。この神聖な黒い森に踏み込む人は、誰であろうと追い払ってみせる……!」
シャルカはそう言って、ゆっくりと立ち上がりステッキを構えた。
その足元に、魔法陣が出現する。
「〝ルーカ・フェルエム!〟」




