19. ヴァイゼンハウス
大変お待たせいたしました。
「ふむ……。何の変哲もない普通の電波塔だな。特に変わったところもない」
問題の電波塔を見上げながら、俺は言った。
東京スカイツリーの高さには到底及ばないが、それでも50メートル以上はある。
「こんなでかい塔が二つに増えたとなると、さすがに見間違いってことはないよな。目撃者も何人もいるみたいだし……」
「あ! あそこに地元の人っぽい人たちがいるよ! ルナちん、きいてみたら?」
「そうだな……」
ミノリのアドバイスに従って、近くを歩いていた大学生くらいの二人組の女に声をかけた。
俺が当時の状況をきくと、一人の女が塔を見上げながら、
「この電波塔が二つに増えた時の話? ああ、あの時は街中大パニックだったわ。私も見たんだけど、この塔の右側に同じものがズドーンとそびえ立っててね」
「そうそう。私なんか写真も撮ったのよ。ほら」
もう一人の女がスマホを取り出し、写真を見せてくれた。
俺、セレナ、来果、ミノリ、澪の五人は一斉にスマホの画面を覗き込む。
そこには新聞にあったように、二つのタワーがまるで双子のように仲良くそびえ立っていた。
「本当に二つありますね……」
「やっぱり、こんなことができるのって……」
「魔法。それしか考えられない」
セレナと来果の言葉を受けて、澪が結論を出す。
やはり、魔法少女が関わっているのは間違いないな。
「この街に何か不思議な力を持った女の子がいる……なんて話を聞いたことは?」
俺は単刀直入に尋ねた。
「女の子って……あなた達くらいの?」
「そうだ」
「うーん、小学生から中学生くらいの女の子で、不思議な力を持った子ねぇ……」
女は顎に手を当てて考える仕草をした。
さらりと俺を小学生扱いしたことは、本来ならルーナ・モルテムの刑に処す程の重罪にあたるが、ここは貴重な情報提供者であることに免じて許してやろう。
「うーん。ちょっと心当たりないわね。あんたはある?」
「私も小中学生の噂話にはあんまり詳しくないからなぁ。そういう話だったら、街の小中学校で聞いてみたら?」
それもそうだな……。
「ありがとう。そうしてみるよ」
☆☆☆☆☆
それから――。
俺たちは予約しておいた街のホテルに向かってチェックインを済ませた。
小学校の下校時刻まで少しあったので、ホテルの部屋でしばらく旅の疲れを癒した。
頃合いを見計らって全員で街の小学校へと出かける。
日本から持ってきたトランクなどの大きな荷物はホテルの部屋に置いてきたので、先ほどよりはだいぶ身軽だ。
俺たちが小学校へ着くと、ちょうど授業を終えた児童たちがぞろぞろと校門から出てきた。
その中から噂話に精通してそうな高学年の二人組の女の子を捕まえて話をきく。
この学校に何か不思議な力を持った女の子がいないかどうか。
これが質問のメインテーマだった。
「不思議な力を持った女の子? それってシャルカのこと?」
女の子の内の一人が言った。
「シャルカ?」
「うん。ウチのクラスの子なんだけど、昔からあの子には不思議というか……気味の悪い力があったの。動物と話したり、未来を言い当てたり、幽霊が見えたり……」
「それは……いわゆる〝不思議ちゃん〟という奴じゃないのか? 自分にそういう力があるってホラを吹いている、何の力もない馬鹿女じゃ……」
俺がそう言うと、その子は興奮気味に否定した。
「違うの! シャルカの力は本物よ! あの子が話しかけている動物も本当にあの子の言葉がわかるみたいだったし、未来予知も本当に当たった! あの子が被害者の幽霊に聞いたっていう情報で、本当に殺人犯が捕まったりもしたのよ!」
もう一人の女の子の方も、何かを恐れているかのように身体を震わせて、
「そう、あの子の力は本物よ……。だからこそ、余計に気味悪くって……」
「…………。そのシャルカって子に会いたい。今、学校にいるのか?」
俺がそう言うと、最初の女の子は申し訳なさそうに首を振った。
「それが……。あの子、最近学校に来てなくって……」
「っ! 最近っていうのは、もしかしてこの街の電波塔が二つに増えた事件があった頃からじゃないか?」
「あ……言われてみれば……。確かにその頃からだったわ。シャルカが学校に全然来なくなったのは。でも、どうして貴方がそんなこと知ってるの?」
その質問には答えず、俺は逆に問い返した。
「そのシャルカって奴、どこに住んでいるかわかるか?」
☆☆☆☆☆
女の子たちに教えてもらった住所に俺たちは向かった。
「決まりなの? そのシャルカって子が〝13人目の魔法少女〟だって」
道中、澪が俺にそう尋ねた。
「さぁな。ただ、狭い街だ。不思議な力を持った女の子がそう何人もいるとは思えない」
「でも、さっきの子たちが言うには、そのシャルカって子は昔から不思議な力を持っていたんですよね? 〝13人目の魔法少女〟が魔法少女になったのは、最近のことのハズですから、計算が合わない気が」
セレナが言った。
「いや、マナ・クリスタルが自分で選ぶくらいの魔法少女だ。元から何らかの力を持っていたとしてもおかしくない……」
そんな会話をしながら歩いていると、先ほどの女の子たちが教えてくれた住所にたどり着いた。
赤レンガ造りの大きな建物だった。
「大きな家だね! 庭には滑り台やブランコまであるよ!」
「いや、ミノリ、ここは家と言うよりも……」
公道と建物の敷地を区切る塀のプレートに書かれた文字が俺の目にとまった。
Waisenhaus
「なんて読むんですか、これ? ワイセ……?」
「ヴァイゼンハウス……ドイツ語で〝孤児院〟のことだ」
プレートの前で首をかしげるセレナに俺はそう教えてやった。
「孤児院……? じゃあ、あの子達が言っていたシャルカって子はここの施設に入っている子なんですか?」
「だろうな。とりあえず、行ってみよう」
こうして俺たちは孤児院の門をくぐったのだった。
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