18. シュバルツ・バルト
大変長らくお待たせいたしました。
フランクフルト空港からバスで移動し、電車に乗り換える。
俺たち五人が全員座れる席は空いていなかったので、二手に分かれて座った。
二手というのは俺・セレナ組と澪・来果・ミノリ組である。
セレナと二人で四人掛けのボックス席に座って話をしていると、目の前に座っていた老夫婦の夫の方がドイツ語で話しかけてきた。
「キミらはどこから来たんだね? 日本か? それとも中国? アジア人はどうも皆同じに見えていかん」
「日本だ」
俺は答えた。
「すると、キミも日本人か? 見たところ、金髪に青い瞳だから、キミだけは西洋の人間だと思ったが。だからこそ私もドイツ語では話しかけたんだ」
「母方に西洋の血が入っているんだ。だけど、生まれも育ちも日本だよ」
「そうか。しかし、私は日本があまり好きじゃない」
「あなた、そんなこと言ってはダメよ」
と、隣に座っていた奥さんがたしなめた。
しかし、夫の方は構わずに続けた。
「だって、不公平じゃないか。同じ第二次世界大戦の敗戦国でありながら、俺たちはつい最近までベルリンの壁で国を二つに割られていたんだぞ。それなのに、日本は戦後ちょっとだけアメリカに緩く占領されただけで、すぐに独立して経済発展しやがった。そしてドイツを追い抜いていった……。時計も自動車も……。私はセイコーやトヨタが嫌いだ……」
「まあまあ、あなたったら。せっかく日本から来てくださったお嬢さんにそんなことを言ってはいけませんよ。ごめんなさいね、お嬢さん。私は日本が好きよ。前に一度だけ行ったことがあるけど、世界最先端の文明の中に、古き伝統が根付いているとてもいい国だわ。ほら、見て。私の時計もセイコーなの。丈夫だし、一度も狂ったことないもの」
このように、この夫婦は日本についてそれぞれ違う印象を持っているようだった。
「あの、ルナさん。さっきから一体何を話しているんですか?」
ドイツ語がわからないセレナはポカンとしていた。
俺が夫婦の主張を要約して説明すると、
「へえ。このご夫婦は違う日本感を抱いているんですね」
「もっとも、夫の意見の方がドイツでは主流だぜ」
「え? それってつまり、だいたいのドイツ人は日本が嫌いってことですか? ヨーロッパの人って、日本が好きな印象があったんですけど」
「それはフランスやイギリスの話だ。ドイツにとって日本は経済的なライバルだし、旦那の方が言っていたように、同じ敗戦国でありながら国を分断されずに発展した日本にやっかみみたいな感情を持つドイツ人は多いよ。もっとも、日本人の多くはそんなことは知らずに、なんとなくドイツが好きだって人間が多いんだけどな」
「それは……なんだか切ない片思いですね」
「だな。俺に言わせりゃ、全ての間違いはヒトラーを信用しちまったってことだ。この点じゃ、戦前の日本もドイツ国民も同じ責任がある。第二次世界大戦当初のナチス・ドイツの快進撃に惑わされずにいりゃ、大日本帝国は今もまだ不敗の帝国として世界に君臨していたかもしれないのに。もちろん、それが良い事なのか悪い事なのかは別問題だけどな」
☆☆☆☆☆
その後、電車をいくつか乗り換え、俺たちはようやく目的の町にたどり着いた。
シュバルツ・バルト。
それがこの町の名前だ。
これといった観光名所もない、名前も知られていない田舎町。
先月、この町で電波塔の隣にもう一つ別の電波塔が現れ、ちょっとした騒ぎになっている。
そのもう一つの電波塔はすぐに消えたそうだが、写真を撮った人間もいるみたいだし、これが事実なら、魔法の仕業としか考えられない。
俺たちはとりあえず、その電波塔に行ってみることにした。
駅前で適当に目に入った青年に声をかけ、電波塔の場所を尋ねた。
「電波塔? そんなに立派なものじゃないが、あるにはあるよ。ちょうどこの道をまっすぐ行けば行きあたるよ。少し距離があるけど、観光がてら歩いてみるといい。キミたちどこから来たの? え? 日本!? 日本からわざわざあんな電波塔を見に? 変わってるね!」
青年のアドバイス通り、歩いて向かうことにした。
初めて訪れるドイツの町に、セレナたちは大興奮だった。
特に、来果は歩きながらキョロキョロと辺りを見回して、
「石造りの道に、木組みの家! 町の中に中世のお城や教会までありますよ! これぞドイツの田舎町って感じですね!」
と、キャッキャと飛びはねていた。
〝少し距離がある〟という青年の説明はアバウトでアテにならないものだった。
着くには着いたが、電波塔にたどり着くまでに1時間半もかかった。
まあ、途中で小物店などを見て回っていたから、俺たちにも非があるのだが……。
さて、とりあえず電波塔に到着だ。
とりあえず、現地調査を開始するか!




