17. ドイツへ到着
前回の更新から一ヶ月も経ってしまい、申し訳ありあせん。
comicoでの商業用作品の読み切りがあると、どうしてもこちらの方がおろそかになってしまいますので、ご容赦ください。
鵺明けの読み切りは2、3ヶ月に1度できたらと考えているので、今後もこういうことがあるかと思いますが、よろしくお願い致します。
ハイジャック犯の仕掛けた爆弾を解除した後は特に何も起こらず、俺たちを乗せた飛行機は無事にドイツの地に降り立った。
ドイツ。
正式名称はドイツ連邦共和国。
2度の世界大戦に敗北しながらも、戦後の復興はめざましく、経済力ではヨーロッパ1位。世界でも4位に入る程の豊かな先進国だ。
中世の魔女狩りの時代、この国には多くの魔女伝説があった。
そんな歴史的経緯から〝魔女の国〟なんて呼ばれることもある。
魔法少女を探すのに、これ程うってつけの国は他にないだろう。
俺たちが降り立ったのはそんなドイツ南西部に位置するフランクフルト空港。
ドイツ最大規模の国際空港だ。
飛行機を降りるなり、すぐに俺はハイジャック犯どもを警察につきだした。
当然ながら、犯人を引き渡したからといって、「はい、ご苦労さん」と解放されるわけはなく、俺たちは空港の別室に隔離され、事情を聞かれることになった。
しかし、こんな所でちんたら時間を取られている暇はないし、魔法で捕まえたなんて言えるわけもない。
そこで、話せるとこまで話した後は強硬手段に出ることにした。
「ウント ダン ネヒスト……(じゃあ、次に……)」
空港の警官がそうやって口を開いたのを制止するように、俺はステッキを向けた。
「〝ルーナ・インスディラム!〟」
その場にいた警官3名に同時に魔法をかける。
すると、3人はまるで催眠術にかかったかのように目をとろんとさせた。
その様子を確認すると、俺はドイツ語でこう告げた。
「イーァ ザイト 〝マイネ スクラーヴェン〟!(貴様らは、〝俺の奴隷〟だ!)」
すると、次の瞬間には、彼らは立ち上がって俺にひざまずいた。
「ヤー……ヤー! ヴィーァ ズィント イーレ スクラーヴェン!(そうだ……そうだ! 我々は、あなた様の奴隷だ!)」
そして、俺がさっさと解放する旨、調書には俺たちの名前は出さない旨をドイツ語で伝えると、
「ヤー! ハイル ルナ!(わかりました! 偉大なるルナ様のために!)」
と、ひざまずいたまま頭を深々と下げ、地面に額をこすりつけたのだった。
こうして、俺たちはあっさりと解放された。
☆☆☆☆☆
空港を出てすぐのバス停で、俺たちはバスを待っていた。
ここから目的の町まではバスやら電車やらを乗り継いで数時間はかかる計算だ。
「いやぁー、それにしても流石はルナさんです。まさかドイツ語までしゃべれるなんて」
バスが来るまで暇なので、適当に適当に話をしてると、ふとセレナが感心したような声をだした。
「前にドイツ語圏の国に住んだことがあるんですか?」
「いや、こっちに来る前にちょっと勉強したんだ。だから、まだ日常会話くらいしかできないぜ」
「いやいや! さっき警官と通訳なしでペラペラしゃべってたじゃん! あたしたち、何言ってるかチンプンカンプンだったんだからね、ルナちん!」
と、ミノリは目を丸くする。
「お前たちも勉強すればあのくらいはできるようになるよ。あの程度の会話なら、初級ドイツ語の応用で何とかなる範囲だ」
「そうなんですか?」
と、セレナは半信半疑だ。
「英語がわかっていればドイツ語なんて簡単だよ。同じゲルマン系の言語だから、似通ってる部分が多いんだ」
「私は英語も苦手……」
と、澪はボソッと言った。
澪はパッと見、勉強できそうなキャラに見えるんだが、そうでもないのだろうか?
「ドイツ語ペラペラなルナ先輩、かっこいいです! 来果はますます尊敬します!」
と、来果がいつものように腰に抱きついてくる。
こいつは俺が石を蹴っただけでも「石を蹴るなんてルナ先輩、カッコイイ!」とか言ってきそうで怖いぜ。
「ドイツ語ができるくらい大したことねーよ。語学に関しちゃ、俺よりすごい奴はいっぱいいるよ。聞くところによると、日本には高校1年で五カ国語を操る女がいるらしいぜ。まあ、いつも変な人形持ち歩いている変な女らしいけどな」
語学なんかよりも、俺の武器は魔法だ。
特に、飛行機の中で手に入れた新魔法、ルーナ・インスディラムはかなり使える。
この魔法は相手に強力な暗示をかけ、相手に〝俺の指定した属性〟が自分にあると思い込ませることができる。
俺が〝豚〟と言えば、相手は自分が豚だと思い込んでブーブー鳴き始めるし、さっきみたいに〝奴隷〟だと言えば、何でも言うことを聞かせられる。
ちなみに、あの後、残りのハイジャック犯どもにも全員この魔法をかけて、〝俺の奴隷〟にしておいた。
俺たちのことや魔法のことは決して口外するなと命じておいたから、たぶん大丈夫だろう。
「でも、どうしてルナさんの指輪だけが発動したんでしょう? 私たちの指輪には何の反応もないのに」
セレナが言った。
その左手薬指にはエスメラルダからもらった〝魔女の指輪〟がまだはめられている(ちなみに、俺の指輪は発動とともに、消えてなくなった)。
俺はしばらく考えてから、
「おそらく、強力な魔法になればなるほど、その魔法を目覚めさせる魔法アイテムには特殊な条件が必要なんだろう。今のところわかっているのは、その魔法を必要とする何か強い気持ち」
ヴァールーナの時も、今回のルーナ・インスディラムの時も新しい力を俺が欲した時に魔法アイテムは応えてくれたからな。
「あと考えられる条件としては、魔法少女の魔力がその魔法を使えるまでに高まっているかという点だろうな」
セレナとメルヴィルに最初に聞いた話だと、ステッキに登録できる魔法の数は有限。
だとしたら、その限界値は術者の魔力が上がれば上がるほど増えると考えるのが自然だ。
最初、俺が登録できた魔法はルーナ・モルテムを含めて5つで、それが目いっぱいだったけど、今ではそこからさらに強力な魔法が2つ増えている。
このことからも、やはり戦いなどを通じて魔力が上がれば、ステッキに登録できる呪文も増えると考えることができる。
精霊の意見も聞いてみたいが、ルーニャは今、長旅で疲れたのかセレナの持ってる猫用のケージの中で寝息を立てている。
メルヴィルといい、こいつといい、本当に精霊は肝心な時に役に立たない。
もっとテレビの魔法少女アニメのマスコットキャラクターを見習ってほしいとつくづく思う。
「あ、バスが来たよ!」
ミノリが嬉しそうにはしゃいだ。
さぁ、いざ魔法少女探しの旅に出発だ!




