16. 逆転の魔法
遅れてすみません!
パソコンの不具合がありまして、、、。
「俺たちは革命組織〝銀の月〟だ! この飛行機は俺たちが乗っ取った! 日本政府に政治犯の釈放を要求する!」
いきなり飛行機のファーストクラスに乗り込んできた二人組の男。
その手に握られているのは……まぎれもなく本物の拳銃だった。
「これって……」
「もしかして……」
「ハイジャック!?」
セレナ、ミノリ、来果が目をひんむく。
「そうだ! お嬢ちゃん達には難しくてわからないかもしれないが、俺たちは日米の資本主義に反対し、日本に労働者のための革命を起こすことを目的に活動している! 今日は日本政府に捕まった仲間の釈放を求める為、この機を乗っ取った! 悪いがお嬢ちゃん達には人質になってもらうぜ!」
先ほど威嚇で銃をぶっぱなした男の主張をセレナたちはポカンと聞いている。
まあ、確かに女子中学生に理解しろって方が無理な話だな。
だが、俺には大体の事情が呑み込めた。
どうやら、こいつらは左翼の革命集団らしい。
ようするに、暴力による革命で現在の政府を転覆させ、資本家の支配を打ち崩し、労働者のための国づくりをするっていう考えを持った団体だ。
俺としては、思想信条は個人の自由だと思っている。
どんな考えを持とうが、そいつの勝手だ。
だが、他人に危害を加えるようなことをするとなれば話は別だ。
ましてや、仲間の政治犯釈放の為にハイジャックをするなど、許し難き狼藉!
運が悪かったなぁ! 革命集団〝銀の月〟!
この飛行機にはもっとタチの悪い外道魔法少女集団が乗ってんだよ!
「ひぃ! こわいよぉ! 助けてぇ!」
俺は顔を手で覆ってメソメソと泣く真似をした。
当然、ハイジャック犯たちの注意は俺に向く。
「泣くな、ガキ! ぶっ殺すぞ!」
「よせ。俺たちの目的はあくまで革命だ。むやみな殺生はやめろ」
血の気の多い若い男を、もう一人の年配の男が制止する。
犯人の二人が今……セレナたちに背を向けた。
……今だ!
「〝アンデュ・ライティア!〟」
『ぎゃああああああああああああ!』
一瞬で魔法少女に変身したセレナが背後から光の波動でハイジャック犯たちを吹っ飛ばす。
続いて澪の攻撃!
「〝スティリア!〟」
床から氷の柱が出現し、ハイジャック犯たちの拳銃を串刺しにした。
これでもう銃は役に立つまい。
これでこのファーストクラスのハイジャック犯は殲滅した。
……と、思ったその時だった。
「ちっ! なんなの! あんた達!?」
俺たちと同じ人質だったハズのキャビンアテンダントの女がいきなり立ち上がって懐から銃をぬいた。
しまった! こいつもハイジャック犯の仲間か!
「死にな!」
「危ない! 〝デセル・クロノシオ!〟」
女がセレナたちに銃弾を放ったのと、来果が呪文を唱えたのがほぼ同じだった。
来果のステッキから出た時間の動きを鈍らせる光線は女の銃に命中!
そこから放たれた弾丸はまるで宙を泳ぐようにノロノロと進むことしかできなかった。
よくやったぞ、来果。
ナイス魔法だ。
「くそ、なんで……」
バン! バン!
女は銃を連射するが、デセル・クロノシオの効果を受けた拳銃ではどうやっても遅い弾しか発射できない。
「ちぃ!」
女は銃を投げ捨て、駈け出した。
ふん、ビジネスクラスやエコノミーにいる仲間のもとへ逃げるつもりか?
そうはいくかよ!
「ミノリ!」
「ほいよ、ルナちん! 〝ジバ・パイラス!〟」
ミノリのステッキから魔法の杭が発射され、逃げ惑う女の影に突き刺さる!
「う、動けない! なんなのよ、これは~!」
「魔法だよ。銃なんて小さい力を振りかざしてイキガってるテメーらにはもったいない力さ」
そう言いながら、俺はゆっくりと席から立ち上がった。
「〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアアア!」
蛇どもを召喚した俺はハイジャック犯どもに告げた。
「さぁーて、革命家気取りのお馬鹿さんたちを、正義の魔法少女が成敗してあげようかな~♪」
☆☆☆☆☆
その後、俺たちはセレナの透明化魔法でビジネスクラスやエコノミーを占拠していた犯人の仲間に近づき、他の乗客に気づかれないよう、そいつらを成敗した。
そして現在。
ハイジャック犯を一網打尽にした俺たちは、捕縛した犯人一味を全員ファーストクラスの客室に集めていた。
「機長には話をつけた。飛行機はこのままドイツに向かう。貴様らのくだらんハイジャックのせいでドイツに行けないのはナンセンスだからな。ドイツの空港に着き次第、警察に貴様らの身柄を引き渡す。俺たちと戦って命があるだけ感謝しろ」
ファーストクラスの客席にふんぞり返った俺は、縛り付けて床に正座させたハイジャック犯たちに告げた。
犯人たちは、こんな中学生の女の子に自分たちの計画を潰されたショックと現状の屈辱的な状況にむせび泣いている。
そんな中、リーダー格らしき男がゆっくりと口を開いた。
「お前ら、俺たちに勝ったと思ってるだろ?」
「この状況を見て、俺たちの勝ち以外の結論があれば教えてほしいもんだが」
「……確かに武器を全部取り上げられた挙句、俺たちはこうして全員捕えられ、リーダーの俺もこの有様さ。……だけどな、俺たちにはまだ最後の切り札があるんだぜ?」
「何を負け惜しみを――」
「負け惜しみじゃない。いいか、よく聞けよ? この飛行機には爆弾を仕掛けてある」
「なっ!?」
「いざという時に自決しようと仕掛けた爆弾さ。さっきお前らが俺たちを捕まえた時にスイッチを入れた。あと数分で爆発する。そうなりゃ、この飛行機は木っ端みじんだ!」
「なんだと!?」
この自信……。
まさか、本当に爆弾が仕掛けてあるのか!?
「教えろ! 爆弾の場所はどこだ!?」
俺はリーダーの男の胸ぐらをつかんで詰め寄った。
「誰が教えるかよ。諦めな。こうなったら、死なば諸共ってやつだ。俺たちの計画を邪魔したお前らが悪い。この飛行機の乗客全員、地獄へ道ずれだ! はっはっはっはっは!」
く……!
まずい……!
まずいぞ、これは……!
飛行機が爆発したら、全員助からない!
しかも、タイムリミットはあと数分!
そんな時間じゃ、どこかの空港に不時着することもできない!
「ルナさん!」
「ルナ先輩!」
「ルナ……!」
「ルナちん!」
四人の仲間が心配そうに俺を見つめる。
……ダメだ。
この中の誰の魔法を使っても、爆弾の場所を突き止めることなんてできない!
爆弾の場所さえわかれば、澪の氷の魔法で爆弾を凍結するなり、来果の時間停止の魔法をかけるなりして爆弾を止めることができるのに……!
「はっはっはっはっは! さっきまでの威勢はどうした! 表情が曇ってるぞぉ?」
リーダー格の男の高笑いがファーストクラスの客室に木霊する。
ちくしょぉおおおおおおおおおお!
こいつに爆弾のありかを喋らせることさえできれば!
力が欲しい!
この状況を打破できる力が!
この憎き男を黙らせるだけの力が!
仲間たちの命を救うだけの力が!
その時だった。
コォオオオオオオオオオオ!
「ルナさん、手が……!」
「え?」
セレナの言葉に自分の手を見ると、俺の左手がまばゆい光を発していた。
いや、違う!
光っているのは俺の手じゃなくて、薬指にはめた指輪だ!
この指輪は、魔女の試練をクリアした時にエスメラルダから貰った……!
まさか……!
まさか……!
…………もう、これに賭けるしかない!
頼む!
俺たちはこんな所で死ぬわけにはいかないんだ!
魔女の指輪よ!
俺に逆転の呪文を授けろ!
コォオオオオオオオオオオ!
俺の思いに応えるように指輪が光を放つ。
「なんだ……なんなんだ、その指輪は……!」
ハイジャックのリーダーが狼狽えた表情をみせる。
「おい、ハイジャッカ―。光栄に思え。お前を俺の七番目の魔法の実験台にしてやる」
ヴァールーナの時と同じように、すでに呪文は俺の頭の中に浮かんでいた。
くらえ!
「〝ルーナ・インスディラム!〟」
呪文とともに俺のステッキから黒い光線が出た。
「…………?」
その光線を浴びたリーダーの男は呆けたような状態になった。
「私は……? 私は一体何者なんだ……?」
「教えてやろう。貴様は……貴様は〝俺の奴隷〟だ!」
「私は……あなたの……奴隷……。そうだ……私は、あなたの……ルナ様の奴隷だ!」
「そうだ! 貴様は俺の奴隷。故に、俺の言うことには絶対に逆らえない!」
「おお……! ルナ様……我が主……! 何なりとご命令ください!」
「爆弾の場所を教えろ!」
「はい! エコノミークラスのトイレの中です!」
「よし! 来果、澪! 急いで爆弾の解除に向かえ! 時間停止の魔法をかけた上で、冷凍光線で凍結するんだ!」
「はい!」
「わかった……」
来果と澪は爆弾の解除に急いだ。
☆☆☆☆☆
こうして、俺たちは無事に危機を脱することができた。
ルーナ・インスディラム。
相手に強力な暗示をかける催眠魔法。
暗示の内容は自由自在。
俺が〝豚〟と言えば、かけた相手は自分を豚と認識するし、〝犬〟と言えば犬になってしまう。
この力で俺はリーダーの男に、自分は〝ルナの奴隷〟だという暗示をかけた。
おかげで奴は主である俺の言うことに逆らえず、爆弾の場所を教えたというわけだ。
ふはははははは!
ドイツに着く前に、これは思わぬ収穫だ!
新しい魔法を目覚めさせるきっかけを与えてくれるとは、あのハイジャック犯どもには感謝しないとなぁ!
さぁ、次はいよいよドイツだ!
待ってろよ、13人目の魔法少女!
ルナ呪文集
1ルーナ・モルテム
2ビアブルム
3アンギ・フーニス
4オクルス・メドウセム
5マギア・テネブラム
6ヴァールーナ・イーマ・エッサイム
7ルーナ・インスディラム ←new!




