12. 魔法少女の見つけ方
日曜日の早朝。
俺の通う紫苑中学校近くの採石場にて。
俺と澪は互いにステッキを向けて対峙していた。
「お前と最初に戦ったのはここだったな、澪」
「昔話はいい。さっさと始めましょう」
「そうだな。じゃあ……いくぞ!」
一拍置いて、俺たちは互いに呪文を唱えた。
「〝ジャベル・アイシア!〟」
「〝マギア・テネブラム!〟」
闇の魔導波が氷の槍と激突する。
マギア・テネブラムのエネルギーが氷の槍の先端を徐々に砕いていくのがステッキ越しに伝わってくる。
ドガシャアアアアアア!
闇と氷、二つの魔法は俺と澪の中間地点で爆ぜた。
「はっ! やるじゃねえか、澪!」
「そんなこと言ってる余裕はないはず……」
澪はステッキを俺が立っている地面に向けた。
「〝スティリア!〟」
っ! この呪文は……!
「〝ビアブルム!〟」
とっさの判断で俺は箒で空へと飛び上がった。
その直後、俺のいた地面から巨大な氷の柱が飛び出す!
あぶねえ、あぶねえ。
危うく氷柱で串刺しになるところだったぜ。
「〝フローティア!〟」
澪は空中浮遊の魔法で俺を追いかけてくる。
「〝ギアル・フリジア!〟」
「うおっ!」
澪が放った冷凍光線を何とかかわす。
「くそ……」
〝フローティア〟は〝ビアブルム〟ほどのスピードは出ないが、ステッキを箒に変える必要がない分、空中にいながらにして別の魔法が使える。
このままじゃ、俺が圧倒的に不利だ!
「ならば……!」
俺は容赦なく後ろから襲いかかってくる澪の攻撃をかわしつつ、猛スピードで空を切る箒を操り地面へと舞い戻る。
箒をステッキへと戻し、澪に攻撃をしかける。
いっけぇ! 蛇ども!
「〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアアアアア!(訳:ルナ様の為に~!)」
「アンギ・フーニスの蛇どもよ! 澪を拘束しろ!」
「フシャアア!(訳:御意!)」
地面から空中に身体を伸ばした蛇たちは澪の右足に絡みついた。
「く……」
「フシャア!(訳:捕らえた!)」
そのまま蛇たちが澪の左足、右腕、左腕、そして胴体に絡みつく。
「よし! そのまま澪を地面に叩きつけろ!」
「させない!」
澪はステッキをギュッと握り締めると、呪文を唱えた。
「〝ミオノ・フリガレイド!〟」
その瞬間、澪の身体が青色の球体に包まれる。
その球体の内部は、-273.15°の絶対零度空間。
その中にいる澪以外のモノはたちまちその冷気で凍りついてしまう!
「フシャ…………」
それは俺の蛇どもも例外ではなかった。
一瞬にして氷の塊となった蛇どもは、まるでもろくなった壁紙が剥がれ落ちるようにボロボロと地面に落下していった。
「はーい、そこまでです!」
頭上から声がする。
見上げると、そこにはそれぞれの箒に乗ったセレナと来果とミノリがいた。
「ハァハァ……。腕はなまってないようだな、澪」
「それは……こっちの……セリフ……」
互いに息を切らせながら、俺と澪はステッキの武装を解除したのだった。
☆☆☆☆☆
「ぷはぁ! 特訓の後のジュースはうまい!」
採石場から場所を移動し、俺たちは街の図書館の前にいた。
そこの自販機で買ったジュースで、喉を潤す。
「澪、礼を言うぜ。練習に付き合ってくれて」
「別にいい。私もいい練習になった。やっぱり、魔法の特訓には実践訓練が一番」
「もう。練習相手なら私がいつでも引き受けますのに……」
「お前とはこの前やっただろ、セレナ。色々なタイプの魔法の対処法を練習しときたいんだよ」
「じゃあ次は来果とですね、ルナ先輩! この中でルナ先輩と戦ったことないのは来果だけですし!」
「時間を止めて変態行為をするお前なんかとは絶対に戦わん!」
「そんな! ひどい! 前に来果が動きを遅くする魔法をルナ先輩にかけて胸を触ったのを、まだ怒ってるんですか!?」
「いやいや、来果ちん。それは誰でも怒るって。まあ、ルナちんの場合、揉むほどの胸は無いから…………あ、いや、ゴメン! 何でもない!」
俺が怒りの形相でステッキを構えるのを見て、ミノリは震え上がった。
「で、今日はどうするんですか、ルナさん。私たちをこんな所に連れてきて。ここってただの市立図書館ですよね?」
「別荘での会議で言っただろ。俺たちの次の行動目的のひとつは〝13人目の魔法少女〟を見つけ出すことだって。今日はその手がかりを探しに来たんだ」
「でも、どうやって見つける気? 仮にあなたが言うように〝13人目の魔法少女〟がいるとしても、その子がこの地球上のどこにいるのかまではわからない。それを探そうとするなんて、そんなの雲を掴むような話」
澪が珍しく長いセリフを喋る。
他の奴らも、その意見に賛同するようだ。
「そうですよ、一体どうやって探すつもりなんですか、ルナ先輩」
「教えてよ、ルナちん」
「そうですよ、図書館なんかで一体何をするつもりなんです?」
来果、ミノリ、セレナにせがまれたので、俺は自分の考えを話した。
「期限を過ぎたマナ・クリスタルが精霊のもとを離れた場合、そのマナ・クリスタルは地球上のどこかにいる少女のもとへランダムに飛んでいき、その子がどの精霊にも属していない新たな魔法少女になる。ここまではいいな?」
そう俺が言うと、四人は黙って頷いた。
「ここで、その少女の立場になって考えてみよう。魔法少女になるということは、その子は当然魔法を使えるわけだ。しかし、ここで俺たちとその少女が決定的に違うのは、その少女には魔法の使い方を教えてくれる仲間も精霊もいないということ。当然、この精霊界の代理戦争であるウォーゲームのことも知りようがないし、自分が狙われている立場だということも気づかない。つまり、魔法少女になる上で、デメリットとなる部分についてを一切知らずに、ただ魔法の力だけを与えられたという状況にあるハズなんだ。もしも、お前らがそんな立場に置かれたら、どうする?」
「そりゃあ、私ならその魔法の力を使って何かをしますよ。力を見せつけて人に自慢したりはしないでしょうが、影でこっそりと魔法を使って何かをするハズ…………あ、そっか!」
セレナは俺が何を言いたいか気づいたようだった。
「つまり、こういうことですね、ルナさん! その〝13人目の魔法少女〟が何も知らずに魔法の力だけを手に入れたのなら、その魔法を使って何かをしているハズ! だったら、この約二ヶ月の間に世界中で起きた、魔法でしか説明できないような不思議な現象を探していけば……!」
「そう! その不思議な現象が起きた場所の近くに、〝13人目の魔法少女〟はきっといる! この図書館のパソコンには世界中の新聞のデータベースが入っている。今からこの五人で手分けして過去二ヶ月分の世界中の新聞を調べる。そうすれば、この地球上のどこかにいる〝13人目の魔法少女〟の痕跡が見つかるはずだ!」
次回の更新は来週の日曜日を予定しています。先週はお休みしてしまい、大変申し訳ありません。休載の情報などは活動報告でしていますので、よろしければ今後はそちらをご覧ください。
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