11. 13人目の魔法少女
「さて、まずは簡単に現状のおさらいだ」
某県某所。
俺が株で買った別荘にて開かれたメルヴィルの国とルーニャの国による同盟国の魔法少女会議。
「現在、俺たちの戦力はここにいる魔法少女5人。メルヴィルの国がセレナ、俺、来果。ルーニャの国が澪、そして――ミノリ」
「ほーい!」
名前を呼ばれると、ミノリが場違いに明るい返事をした。
そう。
ミノリは俺たちメルヴィルの国ではなく、ルーニャの国の魔法少女である。
これはメルヴィルの国とルーニャの国と同盟を結ぶために、互いの精霊を交換したことが原因。
新たな仲間が魔法少女になるには精霊からマナ・クリスタルをもらい、契約をする必要がある。
そして、魔法少女の所属は契約をした精霊の国になる。
つまり、ミノリを魔法少女にするときに、セレナたちと行動をしていたのがメルヴィルではなくルーニャだったために、ミノリの所属はルーニャの国になったというわけだ。
まあ、だからといって、ミノリが俺たちの敵だというわけではない。
現に、ミノリはルーニャの居場所を知っていながら澪にはそれを教えていないみたいだし、俺たちと戦うつもりもないようだ。
それは澪も同じで、戦力の少ない現状としては、俺たちとの同盟を無理に壊してマナ・クリスタルを手に入れるよりは、このまま共闘を選ぶ方が合理的だと考えているようだ。
問題は…………。
「澪、メルヴィルの行方はやはりわからないか?」
「わからない。あの黒リスの管理はなゆたがしていたから……」
「やはりそうか……」
となると、なゆたの行方がわからない以上、メルヴィルの行方もわからない。
このことから生じる問題は2つ。
1つは――。
「それってやっぱりまずくありません? メルヴィルがいないと、来果たちの側が新たに魔法少女を仲間にできないじゃないですか」
来果の言うとおり、1つ目の問題はそれだ。
魔法少女を任命する精霊が行方不明な以上、俺たちメルヴィルの国はこれ以上仲間を増やすことができない。
「確かにこれはマズイ。ゆゆしき事態だ。なんとしても、なゆた・メルヴィルを見つけ出す必要がある」
俺は言った。
しかし、同時にこうも付け加える。
「だが、まあ、幸い俺たちにはまだルーニャがいる。メルヴィルが見つかるまでは敵を倒したときのマナ・クリスタルをルーニャに回収させて、ルーニャの国の仲間を増やしていけばいい。そうすれば、同盟国全体では兵力を増やすことができる」
もっとも、これをすれば、同盟国内でのパワーバランスがルーニャの国に傾くことになるが、この状況では仕方があるまい。あくまでも最後の手段だ。
「澪もミノリも、それでいいな?」
「……こちらの領土が増える分には、私は構わない」
「右に同じ!」
「よし! なら、もう1つの方の問題だ。実はこっちの方がやっかいで、難しい問題だ」
「ルナさんの言う問題っていうのは、バーナードの国から奪ったもう一つのマナ・クリスタルの使用期限のことですよね?」
セレナが言った。
「そうだ。俺の推理通りなら、メルヴィルはルーニャと違ってバーナードの国から奪ったマナ・クリスタルを使えていない――つまり、あのマナ・クリスタルは13日の使用期限が過ぎて失効しちまった可能性が高い」
「どうして?」という4人の眼差しが俺に突き刺さる。
俺は自分の考えを話した。
「考えてもみろよ。もしもメルヴィルが魔法少女を任命できているなら、その魔法少女はメルヴィルを連れてなんとしても俺たちに接触を図るハズだぜ?」
「あ! 確かに! もしもアタシがその魔法少女なら、なんとかしてメルヴィルの国の仲間と連絡をとろうするだろうね! だって、そうしないと1人で他の国の魔法少女と戦うことになるもん! 心細くてたまんないよ!」
「そうですね。メルヴィルの方も、私たちとの接触を間違いなく助言するハズです。そして、メルヴィルならルナさんの家も私の家も知っているので、接触は容易だったハズ。でも、それが全くないということは、やはりメルヴィルが新しい魔法少女を任命できていないということ」
ミノリとセレナが得心顔で頷く。
だが、違う考え方のやつもいた。
「でも、あの黒リスが敵に捕まっているということも考えられる」
澪が口を挟んだ。
「だとしたら、敵はどこかから適当な人間の少女を捕まえてきて無理矢理あの黒リスと契約させ、その魔法少女を殺してからマナ・クリスタルを奪うという行動にでているはず。少なくとも、私ならそうする」
「うっひゃー! 澪ちん、発想が外道だね!」
ミノリの言うように、えげつない考え方だな、澪。
嫌いじゃないぜ、そういう考え方。
だが…………。
「いや、その心配はないさ」
「どうして?」
「敵の立場に立って考えてみろよ、澪。仮に敵がメルヴィルを捕まえたとして、メルヴィルが未使用のマナ・クリスタルを持っているなんてどうしてわかるんだ?」
「あ……」
澪は口を小さく開けて固まった。
「澪がさっき言ったのは、あくまでもメルヴィルが未使用のマナ・クリスタルを持っているのを敵が知っているときの話だ。そんなもん、メルヴィルを捕まえただけでは知りようがないし、仮にあの馬鹿リスが口を滑らせたとしても、魔法少女との契約は精霊の意思なしではできないんだから、メルヴィルがそれを拒絶すれば済むだけのこと」
「でも、契約しないと殺すって脅されていたらどうですか?」
来果が言った。
「殺すと脅された所で、メルヴィルが死んでもそのマナ・クリスタルの所有権は新しく精霊界から派遣されるメルヴィルの国の精霊のものになるんだぜ? 敵側とすれば殺したら最後。せっかく捕まえた精霊が死んじまった上に、マナ・クリスタルの所有権も得られない。だから、そんな脅しに意味はない。殺す方が敵にとってデメリットになることくらい、いくらメルヴィルでも気づいてるさ。俺が前に教えたからな」
俺の説明に、今度は4人とも納得してくれたようだった。
やがて、セレナがあることに気づいたようだった。
「ちょっと待ってください、ルナさん。メルヴィルが期限内に魔法少女を任命できなかったってことは、つまり――」
俺たちの集まる別荘の食堂の空気が一気に引き締まった。
「そうだ。13日の期限を過ぎた以上、ウォーゲームのルールに基づき、マナ・クリスタルはメルヴィルのもとを離れ、地球上の1人の少女のもとへと飛んだはずだ! どこの国にも属していない、13人目の魔法少女のもとにな!」
俺の言葉に、全員が息を飲んだ。
「つ、つまり、これからアタシたちがやることは……」
「その世界中のどこかにいる女の子を探し出し……」
「来果たちの精霊と接触させて仲間にする……」
「そういうことになりますよね、ルナさん?」
ミノリ、澪、来果、セレナ、計8つの瞳が俺を見つめる。
「そうだ! なゆたの行方がわからない以上、もはや俺たちの同盟が過半数の戦力を握っているという絶対的に有利な状況は終わった! 敵の勢力がどのくらいかはまだわからないが、畢竟この戦い、この13人目の魔法少女と先に契約をした側が有利にことを進められるというわけだ!」
やってやるさ!
なゆた、メルヴィル、そして〝13人目の魔法少女〟!
全員見つけ出してやる!
そして、メルヴィルを〝13人目の魔法少女〟と契約させれば、結局は元通り!
今回懸念した2つの問題を一気にクリアできる!
取り戻してやる!
あのマナ・クリスタルはもともと俺たちメルヴィルの国の物なんだからなぁ!
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