9. 再戦! ルナvsセレナ 後編
数ヶ月前――。
「〝セレナード・ラ・ライティア!〟」
セレナが魔法少女になった時に初めて唱えた呪文。
その絶大な威力と引き換えに、当時のセレナの魔力ではこの魔法を制御するのは不可能だった。
セレナの意思とは無関係に、魔法は暴走を続ける。
ようやくそれが収まったのは、魔法がセレナの魔力を吸い尽くした時だった。
残されたのは、瓦礫の山と、そこらかしこで燃え立つ炎……。
その惨状を見た精霊メルヴィル曰く、
「その魔法は、今のセレナの魔力で扱うのは困難だワン」
「…………はい」
「いいワンね? 今後、その魔法は絶対使ってはいけないワンよ」
「…………しょうがないですよね、この有様じゃあ」
「その代わり、ステッキには下級の呪文をたくさん登録しておくのがいいワン。発現魔法が使えないのは魔法少女にとって大きなハンデになるワンが、それを多数の魔法でカバーするしかないワン」
「…………魔法もロクに使えないなんて、私って〝出来損ない〟ですかね?」
「そうかもしれないワン。でも、セレナ。キミがその魔法を使いこなせるようになった時は誰にも負けない魔法少女になれるかもしれないワンよ」
その後、ルナを仲間に迎え、来果を仲間に迎えてからも、セレナがこの発現魔法を使うことはなかった。
唯一、使おうとしたのは、あの時――。
バーナードの国との戦いで敵の魔法少女リカの強力な魔法に対抗すべく、セレナは発現魔法を使う覚悟を決めた。
あの時は、もう一人の敵の魔法少女マキの乱入で使わずに済んだが、もしもあの時使っていれば、セレナの魔法は敵味方の見境なく、全てを滅ぼしにかかっただろう。
セレナはできればこの魔法は使いたくなかった。
しかし――。
――ルナさんの記憶がなくなってからは、頼れる人がいなくなった。それまで、メルヴィルの国は、ルナさんの指揮によって負けずに生き残ることができていたようなもの。でも、そのルナさんの記憶がなくなって、戦線を離脱した以上、私がメルヴィルの国を引っ張っていかなければ!
この二ヶ月、セレナは修行に明け暮れた。
血のにじむ様な特訓。
そして、その果てに。
セレナはようやく自身の発現魔法を操ることができるようになった。
☆☆☆☆☆
<そして、現在……>
「あなたを倒すには、もうこの呪文を使うしかありませんね。見せてあげますよ、ルナさん!」
「っ!?」
「今こそ! 私の最初にして、最強の魔法を!」
セレナのステッキが眩い光を放った。
巨大な魔法陣が、セレナの足元に出現する!
く、来る……!
とてつもなく強力な魔法が!
「〝セレナード・ラ・ライティア!〟」
「ラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
呪文とともに、魔法陣から現れたのは、白い竜だった。
セレナの身長の何倍もあろうかというその巨大な身体と、背中からはえる大きな翼、そして何より全身からほとばしる強大な魔力……。
「なんて神々しい竜……! セレナっちがこんなすごい魔法を隠してたなんて!」
「すごいです、セレナ先輩!」
上空でミノリと来果が驚嘆の声をあげる。
確かにミノリの言うように、なんて神々しさの竜だろうか!
静けさの中に、強大な魔力を秘めるその姿は、まさに神獣そのもの!
この魔法……俺が今まで戦ってきた中で、間違いなく最強だ!
「さあ、光の神竜セレナード! 今こそルナさんとの戦いに決着を!」
「ラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
セレナの命令のもと、召喚された白龍はその気高くも威圧的な目を俺に向ける。
これがセレナの発現魔法か…………ふん!
「おもしれぇじゃねえか! そうだ、それでいい!」
「っ!?」
「それでこそ、この俺が本気で戦う価値がある! そして、俺にこの魔法を使わせるだけの価値がある!」
最強の魔法に立ち向かうには、最強の魔法しかない!
いくぞ、セレナ!
「〝ヴァールーナ・イーマ・エッサイム!〟」
「ヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!」
「さあ行け! 悪魔神ヴァールーナ! セレナの白龍をなぎ倒せ!」
「負けないでください! いけ! 神竜セレナード!」
「ラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
『いっけええええええええええええええええええええええ!』
光と闇、二つの究極魔法が山の中腹で激突する!
大地は震え、ほとばしる魔力の波動が木々をなぎ倒す!
『きゃああああああああああ!』
空中にいた来果たちまでもその巻き添えで吹っ飛ばされてしまう。
そして――――。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオン!
混ざり合った力が臨界点を超えて起こった大爆発。
巨大なクレーターが残された爆心地からはヴァールーナとセレナードの姿が消えていた。
「く……相殺……! まさか俺のヴァールーナと同等の力を出せるなんて……!」
「まだ、です……!」
粉塵の向こうから、セレナの声がした。
「何っ!?」
「まだ、終わらせるわけにはいきません! あなたとの決着をつけないと、前には進めないんです!」
「く……!」
「〝アンデュ・ライティア!〟」
光の波動が大地を駆け抜け、こちらに迫ってくる!
「ヴァールーナを使った後なら、もうこれを返せるだけの魔法は撃てないでしょう! 私の勝ちです!」
そうかよ、セレナ。
俺も、お前と同じだぜ。
そして、この状況も……。
「あの時と同じだな!」
「え? …………あ! あの時も、確か……!」
そう。
俺たちが最初にここで戦った時も、お前は「私の勝ちです!」って言ってその魔法を撃ってきたんだよな。
引き分けに終わったあの時の勝負……その決着をつけるには、あの時と同じ魔法でなければ意味がない!
そのために俺も残りの魔力をセーブしておいたぜ!
この魔法でお前に勝つためにな!
闇の魔導波よ! 今こそ光の波動を突き破れ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!
「く…………さっきよりもパワーが上がってる!?」
「俺もお前と同じさ、セレナ! お前との決着をつけないわけにはいかないんだ!」
突き抜けろ!
マギア・テネブラム!
今の俺の魔力を、全てお前にくれてやる!
いっけええええええええええええええええええ!
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「きゃあああああああああああああああああ!」
マギア・テネブラムはアンデュ・ライティアを突き破り、その先にいたセレナに直撃した。
セレナの手からステッキが離れ、宙を舞う。
バシッ。
俺はそのステッキを掴むと、地面に倒れるセレナの方へ歩を進めた。
「俺の勝ちだな、セレナ」
「ええ。私の負けです。でも、どうしてでしょうね。勝てなかったのに、ずっとあなたに勝ちたかったのに、なんだかとっても満ち足りた気分です」
「そうだな……」
と、俺は空を見上げた。
いつの間にか陽は落ち、夜空に星が瞬いていた。
「俺もだよ、親友」
次回の更新は一週間後の土曜日を予定しております。
感想・評価・レビューなどをいただけると、大変うれしいですし、励みになります。
これからもどうぞ『外道魔法少女ルナ』をよろしくお願いいたします。




