8. 再戦! ルナvsセレナ 中編
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝シルディア!〟」
「無駄だ! 威力を減殺していないマギア・テネブラムは、その盾では防げないぞ!」
パリーン!
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「きゃあああああああああああ!」
魔法陣の盾を破砕した闇の魔導波は、その先にいるセレナに直撃した。
攻撃の跡からは、モクモクと土埃が立ち込め、その威力の大きさを物語っている。
「さぁて、あとは気絶したセレナからステッキを奪えば、俺の勝ち……」
俺がセレナの方へ足を進めようとした、まさに、その時――。
土埃の中から、強い光が放たれた。
「〝アンデュ・ライティア!〟」
「何っ!?」
コォオオオオオオオオオオオオオオオ!
光の波動が、俺めがけて突き進んでくる!
まずい! よけられない!
「ぐぁああああああああああああああ!」
アンデュ・ライティアに跳ね飛ばされ、俺の身体は宙を舞った。
地面に叩きつけられた衝撃で危うくステッキを手放しそうになったが、何とかこらえて、立ち上がる。
「く……セレナめ……。マギア・テネブラムをモロに喰らって倒れないとは……」
それどころか、反撃までしてきやがった。
前よりも防御力が上がってやがる……。
「〝アンデュ・ライティア!〟」
っ!?
またか!? ちぃっ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
光の波動と闇の魔導波の激突。
魔法の対戦カードはさっきと同じだが、セレナの呪文は、先程とは比べ物にならないくらい強かった。
「く……! なんだ、この力は……!」
同じ呪文でも、魔力の込め方によって威力が異なるのは知っているが、まさかここまで違うとは……。
ダ、ダメだ! 負ける!
コォオオオオオオオオオオオオオ!
アンデュ・ライティアが、マギア・テネブラムを打ち負かし、再び俺の身体を吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
く、くそ……!
さっきは勝ったのに、今度は負けた!?
セレナの奴、攻撃力、防御力ともに、以前より格段に上がってやがる!
「〝グラディア!〟」
セレナがステッキを剣に変え、こちらに迫ってくる。
マズイ! セレナはトドメを刺すつもりだ!
「ま、負けるかぁ!」
ガキィン!
間一髪、ステッキでセレナの剣を受け止めた。
「ふ、ふん……。甘いぜ、セレナ……。剣の刃を返してさえいなければ、ステッキごと俺を切り裂けたのにな……」
「あくまでも、練習試合ですからね。ルナさんが敵国の魔法少女だったら、今ので死んでますよ……」
グググググ…………。
セレナは全体重を剣にかけて俺を倒そうとしてくる。
一方の俺は必死にそれを防ごうと踏ん張る。
まさに鍔迫り合いだ。
「く……小さいのに、意外と力が強いですね……」
「ふ、ふん……小さいのに、は余計だ……」
「そうですか……なら!」
フシュッ!
っ!? 剣をステッキに戻した!?
やばい! 他の呪文が来る!
「させるかぁ!」
俺はステッキを持つセレナの腕に掴みかかった。
と、同時に、セレナも俺の腕を掴む。
互いに空いている方の手で、相手のステッキを持つ方の腕をつかみ合う膠着状態!
これでは互いにステッキを相手に向けることができない!
ならば、腕力勝負だ!
身長が低い分、俺の方が圧倒的に不利!
だが……!
そんなハンデ、意地と執念で乗り越えてやるぜ!
「ぐおおおおおおおおおお……」
セレナに押さえつけられた腕に力を込める。
少しずつだが、ふるふると震える手で、何とかステッキの矛先をセレナに合わせる。
よ、よし!
射程に入った!
セレナのステッキの矛先は俺からそれている!
反撃の呪文は来ない!
この至近距離から打ち込めば、確実に勝てる!
無論、殺さないように力加減はするが……。
この勝負、俺の勝ちだ!
「〝マギア……〟」
「〝クラルティア!〟」
「〝……・テネブラム!〟」
シーン…………。
夕日の沈みかかった山中を、静寂が支配した。
呪文を唱えたのに、魔法が出ない。
しまった……! これは……!
「甘いですね、ルナさん。ルナさんが教えてくれたんですよ、〝クラルティア〟のこの使い方」
セレナの魔法の一つ、〝クラルティア〟は、姿を消すための魔法で、攻撃魔法ではない。
セレナの身体に触れている仲間の姿も同時に消すことができるが、デメリットとして、その仲間は姿を消している間、他の魔法が使えない。
しかし、そのデメリットを逆用し、今回のような接近戦で使えば、敵の魔法を封じることができるのだ!
「そう。これなら、私に触れている間、ルナさんは魔法が使えない……。そして……!」
「ごふっ……」
セレナの足蹴りが、見事に俺の腹をとらえた。
同時に、セレナの手が、俺から離れる。
これで俺は魔法を使えるようになった。
だが……!
「どこから攻撃してくるか、ルナさんにわかりますか?」
セレナの姿が見えなくなった。
おまけに、術者のセレナ自身はクラルティア発動中でも、他の魔法を使うことができる。
「〝アンデュ・ライティア!〟」
コォオオオオオオオオオ!
「〝アンデュ・ライティア!〟」
コォオオオオオオオオオ!
「〝アンデュ・ライティア!〟」
コォオオオオオオオオオ!
迫りくる、アンデュ・ライティアの連打!
それらの猛攻を、俺は必死によける。
「く……」
まずい!
マジでどこから攻撃してくるか、わからねえ!
何とかしてセレナの居場所を探らねえと!
さっきやったみたいに魔法を連打すれば、いずれ攻撃を当てることができるだろうが……。
ミノリとの戦いで、魔力を使いすぎた!
残りの魔力で撃てそうなのは、弱い魔法が2、3発……もしくは、強い魔法が1発だけ!
とてもじゃないが、魔法の連打なんてできない!
「どうすれば…………ん?」
ふと、俺は自分の足元に、何かが落ちていることに気づいた。
こ、これは……!
そうか、これを使えば!
しかし、これを使うには、いったんセレナにクラルティアを解除させる必要がある……!
なら、イチかバチか……!
「〝アンデュ・ライティア!〟」
今だ!
頼むぞ! 蛇ども!
「〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアア(訳:ルナ様のために~!)」
「蛇どもよ、俺を光の波動が出ているあの場所まで投げ飛ばせ!」
「フシャアア!(訳:御意!)」
クルクルクルクル……ブンッ!
蛇の一匹が俺の胴体に巻き付き、そのままアンデュ・ライティアの射出口――つまり、セレナの現在地まで投げ飛ばす!
いくら術者が透明化しているからって、放った魔法までは透明にできない!
そして、アンデュ・ライティアのような強力な魔法を放ちながらの移動なんて、とてもじゃないが不可能だ!
ようするに、攻撃の軌道をたどれば、セレナの位置はつかめる!
そして、セレナの身体に再び触れることができれば……。
「っ!? ルナさん!? いつの間に!?」
蛇に投げ飛ばされながらも、セレナの背後にうまくまわり込むことができた。
タッチ成功だ。
「どうだ、これで俺が手を離さなければ、不可視の魔法なんて意味がないぞ」
「く……そうですね、なら……」
フシュ……。
クラルティアの効力が消えた!
思い通り! 魔力の節約のため、ここでセレナがクラルティアを解除するのは読めていた!
俺が再び身体から離れたら、もう一度使うつもりだろうが……もう二度とその魔法は使わせん!
ガシッ!
俺はセレナの足元にむかって、先ほど拾った〝あるもの〟を突き刺した!
「っ!? 何を!?」
地面に何かを刺した後、すぐさまその場を離れる俺を見て、セレナは狐につままれたような顔をした。
「せっかく私を捕まえたのに、すぐに離れるなんて……何を考えているんです? これで私がまたクラルティアを使えば、さっきと同じじゃないですか!」
「なら、使ってみろよ! クラルティアを!」
「言われなくても! 〝クラルティア!〟」
セレナは力強く呪文を唱えた。
しかし……!
「っ!? 魔法が発動しない!? そんな!? どうして!?」
「それだけじゃないぜ!」
「……っ!? か、身体が動かない!? なんで!?」
「ふん! 足元をよく見てみろよ、セレナ!」
「こ、これは!?」
自分の足元の影に突き刺さるものを見て、セレナは絶句した。
同時に、来果の箒に乗って空からこの戦いを観戦していたミノリが驚嘆の声をあげる。
「あ、あれは! あたしがさっき出した〝ジバ・パイラス〟の杭!」
そうだ。
俺がセレナの影に突き刺したのは、先ほどの戦いでミノリが出した敵の動きを封じる杭……。
アンギ・フーニスで吹っ飛ばした内の一本が、さっき俺の足元に転がっていたというわけだ。
「おお! 流石、ルナ先輩! あれ? でも、ミノリ先輩の〝ジバ・パイラス〟は動きを封じだけの魔法ですよね? それが何でセレナ先輩の〝クラルティア〟を無効にできるんです?」
「さ、さぁ……。あたしにもわかんないよ」
来果の質問に、ミノリは首をかしげる。
しょうがない、教えてやるか。
「クラルティアは術者のまわりの光を無理やり屈折させて、相手に自分の姿を見えなくする魔法だ! ジバ・パイラスの杭で影を地面に封じ込めた結果、影を作り出す光を屈折できずに、クラルティアが不発に終わったというわけさ!」
「く……。まさか、ミノリさんの魔法に、そんな使い方が……」
ふははははははは!
勝負あったな、セレナ!
もはや、お前はそこから動けない!
残りの魔力を全てつぎ込んだ特大のマギア・テネブラムで、今度こそ勝負を決めてや……っ!?
勝利を確信したその時。
俺の背筋に悪寒が走った。
突然、セレナの身体に流れる魔力の波長が変わったのだ。
「……流石ですね、ルナさん。やはり、あなたはすごいです」
セレナは静かに言った。
「あなたを倒すには、もうこの呪文を使うしかありませんね。見せてあげますよ、ルナさん!」
「っ!?」
「今こそ! 私の最初にして、最強の魔法を!」
セレナのステッキが眩い光を放った。
巨大な魔法陣が、セレナの足元に出現する!
く、来る……!
とてつもなく強力な魔法が!
「〝セレナード・ラ・ライティア!〟」
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