5. 瞬間移動
「〝オクルス・メドウセム!〟」
「メデュゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!」
召喚したメドゥーサの眼光から、紫色の石化光線が発射される!
どうだ、ミノリ!
この光線のスピードは、俺の魔法の中でも最速!
しかも、ミノリにとってこの魔法は初見!
この至近距離ならば、よけられまい!
身体をガチガチに固めて動けなくした後、マギア・テネブラムで吹っ飛ばしてやる!
これで決まりだ…………っ!?
「何ィ……!?」
俺は目を見張った。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
「ミノリが……消えた……?」
そう。
メドゥーサの放つ光線の延長線上――俺が呪文を唱える直前には確かにそこにいたハズのミノリの姿がどこにもなかったのだ。
対象を見失った紫の石化光線は空を切り、そのまま立木に直撃!
その木を石に変えてしまった。
「くそっ! ミノリはどこに……っ!」
その時だった。
「〝ミノリカ・ケラスペル!〟」
背後から聞こえた呪文の声。
っ! まさか!
俺はとっさに地面に滑り込んだ。
バシュッ!
まさに間一髪。
紙一重で背後から襲いかかってきた緑の光線をかわすことができた。
「へぇー。やるね、ルナちん。流石の反射神経だね。背後からの不意打ちをこうも簡単にかわすなんて」
俺の後ろ――つまり、先ほどとは真反対の方向から聞こえるミノリの声。
恐る恐る声の方を振り向く。
確かにそこにミノリがいるのを現認すると、俺は狐につままれたような気分になった。
「そんな馬鹿な……」
俺がオクルス・メドウセムの呪文を唱える前には、確かにミノリは俺の前方にいた。
ところが、俺が呪文を唱えている一瞬の間に俺の後方にまわりこんでいる。
これは、つまり――。
「瞬間移動だと……!?」
あ、ありえない!
た、確かに瞬間移動系の魔法は存在する。
俺たちが前に戦った〝バーナードの国〟のリカが使っていたのが良い例だ。
だが、ミノリの魔法は明らかに〝封呪〟や〝拘束〟といった、相手の呪文や行動を封じるタイプのもの!
とても瞬間移動系の魔法を操れるとは思えない!
いや! それ以前に、だ!
俺たち魔法少女が魔法を使うには、ステッキを握り、呪文を唱えなければならない!
だが、先ほどのミノリには、呪文を唱えた様子などなかった!
「呪文を唱えずに魔法を使うなんて、できるわけが……っ!」
俺は再び目を見張った。
ほんの一瞬。
俺が瞬きをしている間に、またミノリの姿が消えたのだ。
「ボーっとしててもいいのかな、ルナちん♪」
「うわっ!」
背後からの声に、俺は背筋に悪寒が走った!
振り返ると、そこにはミノリが俺をからかうようにニヤニヤ笑っていた。
まただ! また一瞬で背後にまわりこまれた!
「さあ、どうするの、ルナちん?」
まるで拳銃でも突きつけるかのように、ミノリは俺の背中にステッキを突きつける。
「ぐ…………」
万事休すだ!
どうする?
どうすればいい!?
攻撃を当てようとしても、瞬間移動でかわされる。
瞬間移動で不意をつかれ、もしもミノリカ・ケラスペルを喰らえば、直後に唱えた呪文が使用不能になる。
先ほどやったように、いらない呪文を犠牲にして、新たな呪文を唱えれば、魔法を使うことはできる。
だが、既に〝ルーナ・モルテム〟と〝ビアブルム〟が使用不能になっている。
残りの使える呪文の数を考えると、ミノリカ・ケラスペルの解除のために、呪文を犠牲にし続けると、すぐに使える魔法がゼロになっちまう。
ダ、ダメだ……。
勝てない……!
ミノリに勝つ方法が見つからない……!
「ふふん、ルナちんもここまでかな。正直、がっかりだよ!」
「何だとぉ!」
「噂に聞くメルヴィルの国の女帝、芳樹ルナの力はこんなもんなの!? 即死魔法で敵を次々と倒し、悪魔のような知恵で同盟を結んで、領土の過半数を手中におさめたっていう外道魔法少女ルナの力を見せてみてよ!」
野郎……!
言わせておけば……!
いいだろう! 見せてやるよ! 俺の力を!
「〝マギア・テネブラム!〟」
俺は地面に向かってマギア・テネブラムを放った。
砂塵が舞い上がり、俺たちを包み込む。
「ゲホッ、ゲホッ!」
ミノリが激しく咳き込む。
この砂埃の中なら、どこへ瞬間移動しても、俺に狙いは定められまい!
そして……。
ミノリの瞬間移動のカラクリについて……。
俺の頭の中には、今、ひとつの仮説が浮かんでいた。
この仮説を裏付ける事実は、以下の二つ。
①魔法少女が魔法を使うには、呪文を唱える必要がある。
②ミノリは呪文を唱えていない。
この①と②から言えること――すなわち、瞬間移動はミノリの使った魔法ではないということだ!
砂塵に身を隠しながら、俺は通学用カバンを置いた場所までダッシュした。
瞬間移動を実現するには、何もミノリ自体を瞬間移動させる必要はない。
考えてみれば、他にも一つだけ方法があるじゃないか!
急いでカバンの中からスマホを取り出し、身につけていた自分の腕時計と時間を見比べる。
「やはり!」
スマホの方の時刻は、午後5時ジャスト。
それに対して、俺の腕時計の方は、午後4時55分!
今朝、ぴったりスマホの時計に合わせたハズの俺の腕時計が、5分も遅れてやがる!
見つけたぜ、瞬間移動の正体を!
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝マギア・テネブラム!〟」
砂埃の舞い上がる中、俺は四方八方にマギア・テネブラムを打ちまくった。
いるはずだ!
この近く!
俺に魔法をかけられるような距離に!
「〝マギア・テネブラム!〟」
『きゃああああああああ!』
何発目かのマギア・テネブラムが、今まで俺が本当に戦っていた奴らをとらえた。
そう。
瞬間移動の魔法を使わなくても、ミノリが瞬間移動したように見せることはできる。
逆転の発想だ。
ミノリが瞬間移動したんじゃなく、俺の時間が止まっていただけだったんだ!
時間のズレた腕時計がその証拠!
俺の知る限り、こんな時間を操るような魔法を使える魔法少女は、ただ一人!
そして、この場にいることを今まで俺に気づかれないようにするには、『姿を見えなくする魔法』によるサポートが不可欠!
「そろそろ、透明化魔法を解除して姿を現したらどうだ!? もうネタは上がってんだよ!」
俺がそう叫ぶと、砂埃の向こうに、いきなり二つの人影が現れた。
砂の煙が晴れて、二人の魔法少女の姿が西陽の下にさらされる。
「久しぶりだなぁ! セレナに来果!」
次回の更新は一週間後を予定しております。
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