4. 呪文封じの呪文
「〝ミノリカ・ケラスペル!〟」
魔法少女に変身したミノリは、いきなり俺に向かって呪文を放ってきやがった。
「くそっ……!」
俺もまさかミノリがいきなり攻撃を加えてくるとは思っていなかったので、回避行動が遅れた。
ミノリのステッキから放たれた緑の光線を避けそこね、胴体にモロに喰らう。
「ぐぁああああああ!」
ちくしょう、やられ…………。
「……って、あれ?」
接触部位に激痛が走るかと思っていたが、なんともない。
出血もないし、痣にすらなっていない。
全くのノーダメージだ。
唯一変化があったといえば、俺の身体に静電気みたいな光がバチバチとまとわりついたことくらいだが、それもすぐに消えてしまった。
「ミノリ……てめえ、いったい何をしやがった!?」
「ふふん。さあ、ルナちん! こっちはこの通り本気だよ! そっちもさっさと変身してよ! そして、早くあたしを倒したいのなら、ルーナ・モルテムを撃ってきなよ!」
「何っ!?」
マジかよ、コイツ……。
わかっているのか!?
ルーナ・モルテムは命中率さえ低いものの、直撃すれば対象の命を一発で奪う即死魔法なんだぞ!?
それをコイツは撃ってこいと言うのか!?
いや、それ以前に、なぜミノリは俺がルーナ・モルテムを使えることを知っているんだ!?
…………そうか。
やはり、そういうことか。
ならば、ここは!
「いいだろう、ミノリ。そんなにお前が死にたいのなら、お望み通りにしてやるさ!」
俺は本物のペンダントを発動させ、魔法少女に変身すると、ステッキをミノリに向けて構えた。
くらえ!
「〝ルーナ・モルテム!〟」
その瞬間。
ギィイイイイイイイイイイン!
胴体を真っ二つにするような形で、緑の魔法陣が俺の体の中から出現した。
その魔法陣が怪しげな光を発すると、それと連動するように今度は俺のステッキが異変をきたした。
まるで機械がショートでも起こしたかのように、ステッキがバチバチと静電気のようなものを帯びている。
そして、本来なら先端の満月の部位から発射されるはずだったルーナ・モルテムがいっこうに出る気配がない。
「こ、これは……!?」
「あはははは! どう? ルナちん。これで、ルナちんはルーナ・モルテムを使えなくなったよ!」
「何!?」
「あたしの魔法、〝ミノリカ・ケラスペル〟はね、相手に当てることで、その相手が次に使う呪文を今後使用不能にする効果があるんだよ!」
「なんだと!?」
「発現魔法――つまり、魔法少女が精霊と契約した時に、ステッキとともに最初に授かる魔法には、ルナちんのルーナ・モルテムみたいに強力なものが多いよね。でも、いくら強力な魔法でも、あたしの発現魔法、〝ミノリカ・ケラスペル〟で発動そのものを封じ込めちゃえば、怖いものなしだよね♪」
ぐ……。
確かにミノリの言うとおり、俺の即死魔法をはじめ、来果の時間操作の結界や澪の絶対零度領域など、魔法少女の発現魔法は、切り札級の威力を持つ強力なものばかりだ。
だが、まさか、呪文の発動そのものを封じる発現魔法があるだなんて……。
「ルーナ・モルテムが使えないルナちんなんて、翼をもがれた鳥! 如意棒の使えない孫悟空も同じ! まったく恐るるに値しないね! アハハハハ!」
野郎……!
舐めるなよ!
ミノリの話を聞く限り、封じることのできるのは、〝ミノリカ・ケラスペル〟を喰らった後、次に唱えた呪文一つのみ!
ルーナ・モルテムが使えなくたって、俺には他にも使える魔法があるんだ!
くらえ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
「うわっと!」
俺は闇の魔導波を放ったが、ミノリはそれを地面に頭から滑り込んでかわした。
ドゴォオオオオオオオン!
闇の魔導波はそのままミノリの後方にあった木々をなぎ倒していった。
「ふぅ~。危ない危ない。あんなの直撃したら、ひとたまりもなかったよ。じゃあ、今度はこっちの番だね、ルナちん♪」
ミノリはこちらに向かってステッキを構えた。
バカが! そう何度も喰らってたまるか!
来るのがわかっていれば、攻撃をかわすことなど容易!
「〝ジバ・パイラス!〟」
ミノリのステッキの先から、杭のような棒がいくつも飛び出てきた。
だが、攻撃が単調すぎるぜ。
俺は後方にジャンプして、その攻撃をかわす。
「はん! 随分ぬるい攻撃してくるじゃねえか、ミノリ!」
「ううん。ルナちん、ハズレだよ」
「何!?」
「だって……それ、攻撃魔法じゃないからね♪」
「っ! まさかっ!」
ハッとなって地面を見た。
俺の影の上に、先ほどの杭が突き刺さっている。
「これは、まさか……っ! う、動けない!」
足に力を入れるが、全く動くことができない!
「あはははは! ようやく気づいた? 〝ジバ・パイラス〟は相手の影に打ち込むことで、相手をその場に拘束しちゃうんだよ! あとは、動けなくなったルナちんに……」
ミノリはニヤリと笑うと、俺にステッキを向けた。
「〝ミノリカ・ケラスペル!〟」
「うわっ!」
再び、緑の光線をモロに喰らっちまった。
マズイ! これで呪文を唱えたら、その呪文も使用不能になっちまう!
「あっはっは! どうする、ルナちん? これでその場を動けないし、呪文も使えないよ! さあ、そろそろトドメといこうかな!」
くそっ! ここで攻撃魔法を出されたら、俺の負けだ!
どうする!?
呪文を唱えても、その魔法は発動しないどころか、以後、使用禁止になっちまう!
逃げようにも、杭の魔法に拘束されていて、この場を動けない!
マジで対抗手段が無いぞ…………ん?
いや! まだだ!
最後の手段になるが、ここは……!
「〝ビアブルム!〟」
「え!?」
俺はステッキを空飛ぶ箒に変える呪文〝ビアブルム〟を唱えた。
当然、〝ミノリカ・ケラスペル〟の効力により、〝ビアブルム〟の発動は封じ込められ、以後の使用は不可能になるが……。
〝ミノリカ・ケラスペル〟で封じることのできるのは、喰らった直後に唱えた呪文ひとつのみ!
これで、他の魔法が使えるようになったぜ!
いっけえ! 蛇ども!
地面に突き刺さっている杭を吹っ飛ばせ!
「〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアアアア!(訳:ルナ様の仰せの通りに~!)」
地面から蛇が出てくるその勢いで、俺の動きを封じていた杭を吹き飛ばす!
これで、身体の拘束も解けた!
「へえ! やるね! さっすが、ルナちん! 弱い魔法を切り捨てて犠牲にすることで、蛇の魔法を出すなんて! おまけに、地面から蛇が出ることを利用して〝ジバ・パイラス〟の拘束まで解除するとは、恐れいったよ!」
「ふん、余裕ぶっこいていられるのも今のうちだぜ! いくぞ、ミノリ! 今度はこっちの番だ!」
動きを封じる魔法には、動きを封じる魔法で対抗だ!
出番だぜ、メドゥーサ!
その眼光で、ミノリを石化しろ!
「〝オクルス・メドウセム!〟」
次回の更新は一週間後を予定しております。
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