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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第2部>
68/98

2. 外道魔法少女、復活


「ルーニャー、どこだー?」


 飼い猫の名前を呼びながら、近所を闊歩する。


 猫が行きそうなところをかれこれ一時間さがしているが、一向に見つかる気配がない。


 さがしはじめた時間が時間だっただけに、もう既に太陽が半分地平線に沈んでしまっている。


「いねえな……。もしルーニャが家に戻ってきたら、母さんから連絡がくることになっているけど……」


 俺のスマホには、まだ母さんからの着信はない。


 捜索範囲を広げすぎて、繁華街の方まで来ちまったし、ここは家に帰りながら来た道をもう一度さがしてみるか……。


 そう思って、俺が踵を返した時だった。


「ん?」


 目の前を、一匹の猫が走り抜け、道路を横断して路地裏へと消えていった。


 白地にトラ柄の猫……。


 間違いない。ルーニャだ!


「ルーニャ!」


 俺はすぐさまルーニャの後を追いかけて路地裏に入った。


 しかし、猫の足ってのは意外と早い。


 俺が路地裏に足を踏み入れた段階で、ルーニャの姿は遥か前方にあった。


「おい、ルーニャ! なんで逃げんだよ!」


 追いかけながら呼びかけるが、ルーニャは足を止めようとしないどころか、振り向きもしない。


「野郎、飼い主であるルナ様の声を忘れたのか? 帰ったらエサ抜きにするぞ、てめえ!」


 そう脅しをかけたが、ルーニャは走り続けた。


 その姿はまるで、何かから必死で逃げているかのようだった。


 その時――。


「〝ヴィンネンティオ!〟」


 どこからか聞こえてきた女の声。


 日本語には存在しない、まるで呪文か何かのようなその言葉が発せられた瞬間。


「ニャ!」


 ルーニャの目の前のコンクリートがボコボコと隆起し、そこから太い縄のような物体が何本も現れ、ルーニャの行く手を阻んだ。


 縄のように見えたそれらは、よく見ると植物のツルだった。


 『ジャックと豆の木』に出てくる豆の木のようにぐんぐん地面からのびるそれらのツルは、まるで意思を持っているかのようにルーニャに狙いを定めると、ぐるぐるとその小さな猫の体に巻きついていった。


「ニャー!」


 なすすべもなく絡め取られたルーニャは悲鳴ともとれる鳴き声をあげる。


「ルーニャ!」


 俺は叫んだ。


 誰だ……一体誰がこんなことを……。


「あっははははは! やったで! 捕獲完了や!」


 頭上に響く甲高い関西弁。


 見上げると、そこには妙なコスチュームを身にまとった女が宙に浮いていた。手には長い棒……いや、ステッキのようなものが握られている。


「ひ、人が宙に浮いて……!?」


 物理法則を無視した光景に、俺は腰を抜かしてしまった。


「あんた、この猫の飼い主か? ちゅーことは、あなたも魔法少女かいな?」


 宙に浮いた女が俺に問いかける。


 女の年齢は俺と同じくらいだったが、そのギラリとした鋭い目つきは、老練した魔女のように邪悪なものだった。


「ま、魔法少女……? なんだよ、それ……」


 震える声で、俺は言った。


「うーん、どうやらあんた、なんにも知らんようやな。まるで魔力感じへんし、魔法を使う様子もあらへんからな」


「魔力……? 魔法……?」


 頭の中が「?」で埋め尽くされていった。


 一体、俺の目の前で何が起こっているんだ?


 なぜ、この女は宙に浮くことができる?


 どうしてこの都会の街中で、植物のツルがコンクリートの地面を突き破って出てくるんだ?


 こんなの……。


「こんなの……まるで魔法じゃないか……!」


「せやで。魔法や。ウチは魔法が使えんねん」


 随分、簡単に言ってくれるじゃねえか……。


「半信半疑っちゅー顔やな。まあ、わかるわ。ウチも最初はそうやったからな。ええで。これも何かの縁や。詳しゅう説明したる」


 関西弁の少女はそう言って語り始めた。


「まずは自己紹介からやな。ウチの名前は、草薙(くさなぎ)花音(かのん)や。そして、その猫……あんたがルーニャって呼んどったその猫はただの猫やない。この世界とは別の世界……〝精霊界〟から来た精霊や」


「なんだと!?」


 魔法の次は異世界かよ……。


 どんだけブッ飛んだ話なんだ? 


 しかし、今、目の前で起きていることは、それぐらいじゃなきゃ説明がつかない……。


「ルーニャだけやないで。ルーニャの他にも12匹。計13匹の精霊が、この人間界に来とるんや。〝ウォーゲーム〟をするためにな」


「〝ウォーゲーム〟……?」


「早い話が人間界を舞台にした精霊界の代理戦争のことや。ルールは簡単。人間界にやってきた13匹の精霊たちは、それぞれ一人ずつ、人間の少女に魔法の力を与えることが許されるんや。そして、その魔法の力を与えられた魔法少女たちは、その力と引き換えに、他の精霊の魔法少女と殺し合いをしなければならないという宿命を背負わされるんや!」


「っ! つ、つまり、お前がその力を与えられた魔法少女の一人ってわけか!」


「その通りや。ま、そうは言うても、ウチ自身はまだ敵の魔法少女を殺したことはないけどな。……説明に戻るで。戦いに勝った(つまり他の魔法少女を殺した)魔法少女の精霊は報酬として自軍の魔法少女を一人増やす特権が与えられるんやけど、逆に戦いに敗れた側の精霊は魔法少女を殺されてしまったわけやから自軍の魔法少女が一人減ることになるんや。これがどういうことかわかるか?」


「…………」


 最初に存在する魔法少女の数は精霊の数と同じ13人。


 そいつらが互いに殺し合いを始め、勝った魔法少女の精霊は、新たな魔法少女を自軍に加えることができる。


 つまり、13人の魔法少女から1人が消えれば、別の人間が魔法少女になる……。


 1人が消える代わりに、1人が入る……。


 ということは、人間界に存在する魔法少女の数は、必ず13人。


 しかし、この場合、消える魔法少女と入る魔法少女は必ず別の精霊の支配下になる……っ! 


 なるほど! 


 そういうことか!


「精霊は魔法少女の数を競っているんだろう! 政党が国会の議席をどれだけ自分の党の議員で埋められるかを競うように! 13人っていう魔法少女の定員を、どれだけ自軍の魔法少女で埋められるかを精霊は競っているんだ! そして、これは精霊が集める魔法少女のチームを〝国〟、魔法少女の数を〝領土〟に見立てた帝国主義ゲームそのものだ!」


「へえ!」


 草薙花音と名乗った関西弁の魔法少女は感心したような声を出した。


「あんた随分賢いやないか! これだけの説明でウチらの戦いの仕組みを理解するやなんて! その通りやで! そして、手持ちの魔法少女がゼロになった精霊の国は敗戦国となり、最終的に13の魔法少女の枠を全て手中に収めた精霊の国がこの代理戦争の勝者……つまり、精霊界での覇権を握ることになるってことや!」


 なるほど。


 自分たちは決して傷つかず、人間界を舞台に人間の少女に戦争の肩代わりをさせるシステムか……よく考えられてはいるが、精霊って奴はとんだゲス野郎だぜ。


 奴らのやってることは、奴隷同士に殺し合いをさせて、どちらが勝つかを賭けていた古代ローマの野蛮人たちと同じだ!


 ……って、あれ? 


 今と同じようなことを前にどこかで考えたような、言ったような……?


「まあ、これで大体の説明は終わりや。最初は13匹いた精霊も、今はだいぶ数が減っとる。異世界の命運を握るこの戦いも、いよいよ終わりが近づいてきたっちゅーわけや。そこのルーニャは、ウチらの国と敵対する国の精霊でな。とある作戦のために、そいつを捕獲する必要があったんや。せやからウチの国のメンバーで手分けして捜しとったんやが……まあ、見つかってよかったわ。これでウチらの国は絶対的有利に立つで!」


 花音がステッキを握る力を強めると、そのステッキの先端が強く光り、それに呼応するようにルーニャを捕獲していた植物のツルがその締めつけを強めた。


「ニャ~!」


「ルーニャ!」


「はっはっは。ちゅーわけで、この精霊は貰うていくわ!」


 花音が浮遊した状態からゆっくりとこちらに近づいてくる。


 それに対し、俺は……。


「あん? 何のつもりや? あんた」


 ルーニャと自分の間に立ちはだかる俺を見て、花音は目尻をひくつかせた。


「まさか、あんたその猫を庇うつもりかいな? ウチは一般人には手は出さんつもりやったけどな、邪魔するなら容赦はせえへんで。そんな猫一匹のために死ぬなんてアホらしいと思わへんか?」


「…………」


 確かに飼い猫とは言っても、ルーニャとの付き合いはまだ浅い。


 たとえ子供の頃から飼っている愛着のある猫だったとしても、自分の命をかけて守るほど俺はできた人間ではない。


 しかし……。


 なぜだろう。


 なぜだか、こいつにルーニャを渡してしまったら、後々とんでもないことになるような気がする。


 俺の中の何かが、ここはルーニャを守れと告げているのだ。


 俺は……この直感を信じる!


「さあ、さっさとそこをどいてその猫を渡せや!」


「どかねーよ。ルーニャは俺の家族だ」


「そうか。なら、死ねや! 〝ヴィンネンティオ!〟」


 呪文とともに、地面から植物のツルが生えてきて、俺の身体を絡め取る。


「ぐあああああああああああ!」


 胴体をぐるぐる巻きにしたツルが、容赦なく俺の身体を締め付けてきやがる。


「あっはっはっは! どうや? ウチの魔法の威力は! これでトドメや! 〝ヴィンネンティオ!〟」


 再び花音が呪文を唱えると、更に植物のツルが地面から現れ、俺の身体を幾重にも巻き込んでいく。


 ぐっ! ミイラの包帯のように俺の身体をツルで包んで窒息させるつもりか!


「ルナ!」


 誰かが声をかけてくる。


 その主は……。


「ルーニャ……?」


 ツルに絡め取られたルーニャが、俺の方を向いて人の言葉を話している。


 どうやらこいつがただの猫じゃないって話は本当だったらしいな。


 く……やばい、視界がツルに遮られて、意識も段々……。


 こんなところで、俺は死ぬのか?


 こんなわけのわからない状況で……?


「聞くのニャー! ルナ! この状況を打破する力を、ルナは既に持っているのニャー」


 …………チカラ?


「思い出すのニャー! そして、目覚めさせるニャー! ルナの中に眠るマナ・クリスタルを!」


 …………マナ……クリスタ……ル……?


 なんだよ、それ……。


 もうだめだ……意識が……。


 …………死?


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ! 


 俺は、生きる!


 その時だった。


 頭の中に、何かが流れ込んで……いや、脳の奥底から、何かが湧き出てくる!


「うあああああああああああああああああ!」


 思い……出したぞ……!


「知恵と……闇の力を持つ杖よ……汝が主……ルナの名のもとに……その力を示せ!」


 ずっと身につけていたが、どこで手に入れたか忘れていたペンダント。


 その力を開放した途端、俺の身体は光に包まれた。


 その光は徐々にその大きさを増していき、俺の身体を拘束していた植物のツルを押しのけ、引きちぎって四方にはじき飛ばした!


「なんやて!? 何が……何が起こったんや!?」


「こちらの自己紹介がまだだったな、花音。俺の名は芳樹ルナ。メルヴィルの国の第二魔法少女だ!」


「魔力が体から溢れ出とるっ……アホな! さっきまでは何も感じへんかったのに! くそぉ、やっぱりあんたも魔法少女やったんかいな。……まあ、ええやろ。これで心おきなくぶっ殺せるっちゅーもんや! いけ、植物のツル! 〝ヴィンネンティオ!〟」


 呪文とともに、地面から植物のツルが生えてきて、俺に襲いかかってくる。


 だが、もう先程までの俺ではない。


 力を取り戻した俺にとって、こんなものは恐るるに値しない。


「ヴィンネンティオ……植物のツルをロープのように操る攻撃兼拘束用の魔法か。奇遇だな。俺にも同じようなタイプの魔法があるぜ」


 いけ、蛇ども! 


「〝アンギ・フーニス!〟」

挿絵(By みてみん)



「フシャアアアアアアアアアアアア!(訳:我ら、復活の時を待ってました! ルナ様~!)」


 地面から現れたのは、俺の魔力から作り出した何匹もの蛇たち。


「アンギ・フーニスの蛇たちよ! 植物のツルを逆に絡め取り、引き抜いてしまえ!」


「フシャアアアアアアアアアアアア!(訳:御意(ぎょい)!)」


 忠実な蛇どもは俺の指示通りに敵の魔法を処理し、ツルを一本残らず引き抜いた。


「そんな! ウチのヴィンネンティオが!」


「さあ! 蛇ども! 花音を拘束しろ!」


「フシャアアアアアアアアアアアア!(訳:ルナ様の仰せの通りに!)」


 植物のツルを片付けた蛇どもは、花音に向かってその胴体を地面から伸ばしていく。


「くっ!」


 花音は持続中の浮遊魔法フローティアの力により、蛇の攻撃をかわし、上空に逃れた。


「やるやないか、ルナ! でも、ここまでくれば、蛇たちも追ってこれへんやろ! そして、この距離、この角度なら、ウチの最強魔法が最大の効果を発揮できるで! 消し炭にしたるわ! くらえや!」 


 花音のステッキに光のエネルギーが集中する!


「〝カノン・ソレミオ!〟」


 その呪文が、砲撃の合図だった。


 ステッキの先に集中した光が、小太陽のような高密度のエネルギー体になったかと思うと、その巨大な光球はこちらに向かって発射された!


「これで終いや!」


「…………」


 俺はアンギ・フーニスの蛇どもを消し、ステッキの照準を花音の放った光球に合わせた。


「〝マギア・テネブラム!〟」

挿絵(By みてみん)


 俺のステッキから発射された闇の魔導波が、空中で敵の光球と激突する。


 巨大なエネルギー同士の激突。


 その結果は……。


「っ!? アホな! カノン・ソレミオが負けるやなんて!」


 闇の魔導波(マギア・テネブラム)敵の光球(カノン・ソレミオ)を飲み込み、その向こう側にいるカノンに迫っていく。


「アカン……! 魔法の威力が違いすぎる……! 何者や!? 何者なんやコイツは!?」


 それが、花音の断末魔だった。


 カノン・ソレミオを打ち破ったマギア・テネブラムが、花音に直撃。


 飛行中に雷に打たれた雀のように、彼女は黒焦げになって静かに落下していった。


「うぐ…………」


 高所から地面に叩きつけられた花音だったが、直前までフローティアの魔法を使っていたせいか、落下によるダメージを最小限に抑えられたらしい。


 まだ息がある。


「悪いな、花音。これは戦争なんだ」


 そういって、俺は地面に転がる花音にステッキを向けた。


「な、何を……」


「悪いな。俺はアニメに出てくる魔法少女みたいに甘くはないんだ。敵に襲われたときに、その敵を〝お仕置き〟したりなんかはしない」


 そんな甘っちょろいこと、誰がするか。


「〝処刑〟してやる!」


「ひっ………!」


 くらえ! 


「〝ルーナ・モルテム!〟」


 ルーナ・モルテム。


 あらゆる生物の命を一撃で奪う即死魔法。


 その絶大な力により、たった今、一つの命が消えたのだった。


ついに外道魔法少女復活です。

感想、評価などをいただけると大変嬉しいですし、励みになります。

次回の投稿は一週間後を予定しています。

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