64. 屋上の決戦
更新遅れて申し訳ありません。
後半部分の構成の見直し&鵺明けの読み切りの準備で忙しかったもので……。
「更新されないな……」とお思いになったら、メッセージ等で催促いただければ、出来るだけ早く更新するように努力いたしますので、遠慮なくご連絡ください。
静まり返った教室に、カリカリとシャーペンの筆記音だけが響く。
みんな一斉に今日のために詰め込んだ知識を解答用紙にぶつけている。
「(え~と、次が最後の問題か)」
問10:右の絵はスペインでおきた内戦をテーマに描かれた「ゲルニカ」という作品です。作者を答えなさい。
問題文の右には黒と白で描かれた子供の落書きみたいな絵がプリントされている。
「(簡単すぎるな。ゲルニカの作者なんて小学生でも知ってるぞ)」
あくび混じりに、カリカリと解答用紙に答えを書き記す。
「(パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ――と)」
よし。終わった。終わった。
これで最後の科目である美術の解答も終わり。
あとは試験終了を告げるチャイムが鳴るのを待つだけだが、なんとあと三十分以上もある。
どうせ順位は国数英理社の主要五科目でしか発表されないし、見直しするだけ時間の無駄だな。
このまま息の詰まる空気の中にいるのも面倒だ。
よし、ここはいつもの手で……。
「ん? どうしましたか、芳樹さん」
黙って挙手をした俺のもとに、試験監督の教師がやってくる。
「すみません~。なんか徹夜で勉強しちゃったので気分が悪くて~。てへっ。保健室に行ってもいいですか~」
「別に構いませんが、一度教室から出ると、もう試験には復帰できませんよ?」
「はい。大丈夫です~。この答案で構いません~。自信ないですけど~」
嘘八百並べ立てて教室から脱出する。
もちろん保健室などには行かず、いつものサボり場――屋上へと向かった。
「ふう」
屋上からの景色はいつ見ても綺麗だ。
自分の背が低いせいか、高いところに立つと妙な高揚感を覚える。
あの遺跡での〝魔女の試練〟から数日。
俺たちはいつもどおりの生活に戻っていた。
まだ新しい魔法少女の任命はしていない。
それが最優先課題だってのはわかっているが、俺たちも中学生。
その前に超えるべき壁――つまりはこの度の期末テストがあるってことをすっかり忘れていたのだ。
「セレナや来果は騒いでいたが、終わってみればそんなに気にするほどのことでもなかったな。アニメに出てくる魔法少女は学校と魔法少女の両立が難しくて、学校の勉強がおろそかになるってのが王道パターンだが、まあそんなのはアニメの中だけで、実際は中学の勉強程度なら他にもう二、三何かやったところでおつりがくるな」
こんなことなら俺ひとりでルーニャを連れて魔法少女捜しに出かければよかったか?
……いや、一人でルーニャを連れ歩いて敵に襲われたんじゃ本末転倒だ。
このブレスレット(同じものを既に澪となゆたにも渡してある)につけた発信機でピンチになれば仲間が駆けつけるとはいえ、それまでの間はひとりで持ちこたえなければならないから、そういう事態にならないようにすることに越したことはない。
まあ、期限まではまだ日にちがある。
「今日テストが終わったらすぐにでも行動すれば大丈夫か」
「そんなに余裕こいていて大丈夫なのぉ?」
「っ! 誰だ!?」
声のした方を振り向く。
だが、そこには誰もいない。
いや、いるはずがない。
ここは屋上だ。しかも、今は全クラスがテストの真っ只中。
俺が来た時には誰もいなかった。
唯一の出入り口はさっき俺が使ったあの扉のみ。
誰かが開ければ必ず音で気づくはず。
ならば……。
さっきのが空耳じゃないとすれば……。
上だ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
一瞬でペンダントをステッキに変化させ、闇の魔導波を打ち込む。
が……。
「〝ステール・シルディア!〟」
宙に浮いていた雲が銀色の球体に包まれた。
マギア・テネブラムはその堅牢な球体の盾にはじかれてしまう。
攻撃を防ぐと、役目を終えた銀色の盾は消え去り、再びドス黒い雲がむき出しになった。
「へぇ。敵とみるや躊躇いなく攻撃なんて流石は戦いに慣れてるようねぇ」
雲の中から声がする。
くそ……。
マギア・テネブラムをはじく程の全方位シールド……。
明らかにシルディアの強化版の上級防御魔法。
間違いない。
姿こそ見えないが、こいつは敵国の魔法少女だ!
ならば……。
俺はブレスレットの装飾部分を押し、セレナたちに招集をかけた。
セレナと来果はテスト中だが、背に腹は代えられない。
あいつらなら二分もあれば屋上までやってこれる。
なゆたと澪も現在地にもよるが、すぐに飛んでくるだろう。
「あなたの手首のそれ……。ふうん、見たところ、仲間を呼ぶための発信機ってわけねぇ。そんなものまで作っているなんて、抜け目ないわぁ」
「ぬかせ! 仲間が来る前にお前をその雲の中から引きずり出してやるぜぇ! 行っけえ! 蛇どもぉ!」
「〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアアアアアアア!(ルナ様のために~!)」
屋上のコンクリートの床から生えた蛇どもは勇猛果敢に雲に向かって突撃する。
「〝ステール・シルディア!〟」
先ほどの同じ、鋼の全方位シールド。
蛇どもはなんとか中の敵を攻撃しようとするが、蛇のムチでは球体の盾を攻略できない。
縛っても、すぐにスルリと抜けられてしまうだろう。
球体相手では縄状の武器は相性が悪い。
ならば、ここは一旦蛇どもを戻して……。
「地面に戻れ、蛇ども!」
だが、敵は俺が蛇を戻した一瞬の隙を見逃さなかった。
「甘いわぁ! この盾は攻撃にも使えるのよぉ!」
鋼の盾が、そのままこちらに突進してくる。
「うわっ!」
ドスン!
かろうじて避けられたが、その威力は絶大で、屋上のコンクリートが陥没してやがる。
跳ね返った鋼のボールは、まるでビリアードの球みたいに空宙を複雑に駆け回り、再び俺に狙いを定めた。
「ふふふ。死になさぁい!」
「なめるなよ! 例えどんなに硬い物質だったとしても、俺にはそれを無効にできる魔法があるんだよぉ! 〝オクルス・メドウセム!〟」
メデューサの石化光線で、鋼の球体の材質を石に変える。
「〝マギア・テネブラム!〟」
続けて放った闇の魔導波。
さっきははじかれちまったが、今度は相手が脆くなっている分、効果は抜群だ。
ドゴォオオオオオオオオ!
身を守っていた盾が砕かれ、ドス黒い雲は後方に吹き飛ばされる。
「ぐ……。まさかこの鋼の盾が砕かれるなんて……。油断したわぁ……」
「観念しな。もうじき俺の仲間がやって来る。そうすりゃ、お前に勝ち目はないぜ。とっととその雲の中から出てこい」
「そうねぇ。そうなるととっても面倒だわぁ。だからぁ、その前にぜぇんぶ破壊してやるわぁ!」
雲は急上昇し、屋上全体――いや、校舎全体を射程にとらえる。
何か馬鹿デカイ魔法を使うつもりか!?
「〝グリエルガ・オズ・ボルマーズ!〟」
ドゴォオオオオオオオオオ!
影が校舎を覆う程の超巨大な球体のエネルギー波。
「あんなもんを落とされたら、校舎にいる人間がみんな死んじまう……!」
アンギ・フーニスやマギア・テネブラムでは対抗できない!
あれを防ぐには、この魔法しかない!
「悪魔神よ! 我が領域に降臨せよ! 〝ヴァールーナ・イーマ・エッサイム!〟」
「ヴァーーーーーーーーーーーーーーーール!」
校舎の上空数十メートル。
巨大なエネルギー波と悪魔神が激突する。
「いっけええええええええええええええええ! ヴァールーナァアアアアアアアアアア!」
「ヴァーーーーーーーーーーーーーーーール!」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
上空で起こった巨大な爆発。
轟音を立て、大地を震わせるそれは異常を他の人間に知らせるには十分だった。
何事かと一斉に窓が開き、生徒たちが空を見上げる。
が、そこにはもはや昼間に打ち上げ花火をしたような弱い煙が広がるだけで、敵の姿はどこにもなかった。
力は、こちらが勝っていた。
ヴァールーナは落とされたエネルギー波を敵の元まで押し戻し、相手の胸元で爆発させたハズだ。
あいつは消し飛んだのか? それにしてはマナ・クリスタルが見当たらない。
攻撃が当たる直前に逃げたか……。
「ルナさん!」
「ルナ先輩! 大丈夫ですか!?」
屋上の扉が開き、セレナと来果がようやくやって来た。
「遅ぇよ、お前ら……」




