表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
61/98

61. 試練の目的

 ウォーゲームの隠しステージ。


 通称〝魔女の試練〟。


 それは五つの試練をクリアすれば、魔法を増やすことができる魔法アイテムが手に入るというもの。


 セレナ、来果、澪、なゆた、そして俺の五人は力を合わせて四つの試練を辛くもクリアしてきた。


 そして、迎えた最後の試練。


 絶大な力を持つ魔獣ケルベロスを前に、俺の仲間は次々に倒されていった。


 そんな中、俺たちに試練を課した張本人――時空の魔女エスメラルダが俺にした提案。


 それは――。


「あなたが後ろの四人を殺せば、あなただけは助けてあげましょう。特別賞として、魔法アイテムも差し上げます。あなたが仲間を殺しても、国の領土が減るわけではありません。マナ・クリスタルがあなたの精霊に戻り、新たな魔法少女を任命すればそれで元通りです。どうです? なかなかいい取引だとは思いませんか?」


「…………」


 こいつは俺に仲間を殺せというのか……。


 確かに俺にとっては合理的な提案ではある。


 だが……。


「なぜ、圧倒的にそっちが有利な状況でそんな取引を持ちかける? さっさと俺を殺せばいいだけじゃないか」


「確かにその通り。でも、この〝魔女の試練〟の本当の目的は、真に魔法少女にふさわしい者を選抜し、ふさわしくない者を排除することなのです」


「ふさわしい者を選抜し、ふさわしくない者を排除……?」


 どういう意味だ?


「考えてもみてください」


 エスメラルダは静かに言った。


「本来、魔法少女とは、魔女の見習い。その昔、魔女とは狡猾で老獪ろうかいで、人間社会に災厄をもたらすものでした。つまり、魔法少女とは、いずれは魔女として人間に恐れられるべき存在なのです」


「…………っ! まさか……」


 俺はあることに気づいた。


 いや、それは可能性としては考えていたことだったが、あまりにも荒唐無稽な話なので、ありえないと思っていたものだった。


「まさか、おとぎ話や昔の民話に出てくる魔女っていうのは……」


「流石に察しがいいですね。その通りです。人類の歴史上、魔女と呼ばれていた存在は、あなたたち魔法少女が最終的に行き着く姿。つまり、ウォーゲームに勝利した魔法少女たちが戦争終結後、成長して大人になってからも魔法の力を自分のために使っていたというだけの話」


「…………」


「おとぎ話や民話の中の魔女たちが邪悪な存在として描かれているのは、実在の魔女たちがそういう存在だったからです。つまり、ウォーゲームの勝者になるような魔法少女は皆、邪悪で無慈悲で鬼畜だったというわけです。ちょうど今のあなたのようにね」


「……なるほど。邪悪で狡猾な性格じゃないと、この戦いは勝ち抜けない――正確に言えば、そういった性格の魔法少女ほど、この戦いを勝ち抜く可能性が高いってことか。だから、お前たちはこの試練を通して、そういった性格の少女を選抜しようとしている」


 道理で試練の内容が知恵と力を試すものばかりだった筈だぜ。


 そういった試練をクリアできる魔法少女を選抜したかったと考えれば説明がつく。


「ってことは、お前はメルヴィルの国かルーニャの国のまわし者か? わざわざ別の国の奴らがそんな選抜をするわけがないからな」


「さあ。それについては答えられません。企業秘密とでも言っておきましょうか」


 エスメラルダは人差し指を口に当てて「うふふ」と笑った。


 コンニャロめ……。


「話を戻しましょう。逆に言えば、それとは正反対の性格の魔法少女――つまりは心優しくて、頭が悪いけれども、誰からも好かれるような明るい性格の女の子は、戦いに敗れていきました。皆、純真すぎて敵に騙されたり、罠に引っかかったりして殺されていったのです」


「ふん。俺に言わせればそんなのは当たり前の結果だな。戦争だけじゃなく、現実の社会だってそうさ。結局、優しさや為人ひととなりなんてものは、弱肉強食の競争の前じゃ何の意味もなさない」


「全くもってその通りです。ところが、時代が進むにつれて、そういった戦争や競争に向かない性格の女の子がどんどん多くなってきたのです。近代教育の影響で、道徳や倫理というものが広がり、それが子供たちの人格形成に大きな影響を与えたのが原因だと私たちは考えています。特にこの日本という国は最悪ですね。個性というものをまるで尊重せず、大人は皆、子供に『理想の子供像』を押し付けます。少女の憧れの的である魔法少女アニメの主人公なんて、そんな正義の味方ばかりじゃないですか。さくらとか、なのはとか、まどかとか。平仮名三文字の魔法少女にロクな人間はいません」


 なんでこんなに魔法少女アニメに詳しいんだ、こいつ……。


「と、まあ要するに、この試練の目的はそんなエセ魔法少女を排除し、我々にとっての『理想の魔法少女』を選抜するためのものなので、ここであなたに死なれるのは大変惜しいのですよ。今までの四つの試練を見ていて、あなたが我々の理想に極めて近い邪悪な外道魔法少女だということは確実です」


 褒められているんだか、けなされているんだかよくわからんな……。


「さあ、外道魔法少女ルナ。後ろにいる四人の仲間を殺しなさい。そうすればあなたの命は助けてあげましょう。試練が終わったら、四つのマナ・クリスタルを使って、あなたにふさわしい邪悪で外道な真の仲間を見つけるのです」


「…………」


「どうしたんです? まさか、あなたともあろうものが、そんな馬鹿な仲間たちに未練があるのですか?」


「…………馬鹿、か。エスメラルダ、確かに俺は馬鹿が嫌いだ。セレナは変なところで融通が利かないし、あいつがいなけりゃ、そもそも俺がこんな戦いに巻き込まれることもなかった。澪はクールな割にどこか抜けてるところもある。来果に至ってはアホな上に俺のパンツを盗むような変態で始末に負えない。そして極めつけは、なゆただ」


 俺は背後でセレナたちに回復魔法をかけているなゆたを指差して言った。


「あいつには呆れて物も言えない。優しさを美徳にして、馬鹿な行動を正当化するような典型的な魔法少女アニメの主人公みたいな奴だ。俺はそういった連中には虫唾が走ると思っていたよ。俺とは考え方が合わないし、あの追い詰められた状況でなければ、絶対に仲間にはしたくないタイプには違いない」


「だったら……」


「だがな! 戦いに勝つために一時的にとはいえ、仲間になり、今回の試練を一緒に戦ってわかったことがあるぜ!」


「何がです?」


「なゆたは確かに馬鹿で愚かだけどな……」


 これだけは間違いなく言える。


「お前なんかよりも、あいつの方がよっぽど好感が持てる人間だってことだよぉ!」


 俺のステッキが一気に輝きを放った。

 

 エスメラルダと会話している隙に練り込んだ魔力を、一気に爆発させる。


 くらえ!



「〝ヴァールーナ・イーマ・エッサイム!〟」


挿絵(By みてみん)


「お前の提案なんか誰が受け入れるかよ! 行けぇ! 悪魔神ヴァールーナ! ケルベロスをぶっ倒せぇ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ついにここまで追いつきましたか! お疲れ様です! やっちゃえ、ヴァールーナ!(「やっちゃえ、バーサーカ」的なノリ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ