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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
60/98

60. 取引

「〝ルーナ・モルテム!〟」


 俺の放った即死魔法が真っ直ぐにケルベロスへと向かう。


 よし! 


 そのまま……!


 いっけええええええええ!


「グゥオオオオオオオオオオオ!」


「よし! 直撃した!」


 ルーナ・モルテムは当たりさえすれば、どんな生物をも即死させる呪文!


 これを喰らったからには、このケルベロスも……っ何ィ!


「グォオオオオオオオオオオオ!」


 ケルベロスが雄叫びをあげてこちらを睨んでいる。


 馬鹿な!


 どうしてルーナ・モルテムを喰らって生きていられるんだ!?


 く……。


 これでルーナ・モルテムが効かなかったのは二回目。


 最初は第一の試練でゴーレムに撃った時。


 だが、それはゴーレムが魂のない土人形――つまり、生き物じゃなかったからだ。


 今回の場合、このケルベロスは完全に生き物!


 あの毛で覆われた皮膚の下に、機械や歯車が入っているとは考えにくい。


 じゃあ、どうして……?


「〝ギアル・フリジア!〟」


 ケロベロスの気を俺たちから逸らそうとしたのだろう。


 セレナの箒に乗った澪がケルベロスの側面から二度目の冷凍魔法を放つ。


 澪のステッキから出た青色の閃光はケルベロスの胴体に接近し……。


「グゥオオオオオオオオオオ!」


 バシュッ!


「……っ! 今のは!」


 俺は見逃さなかった。


 確か今、ケルベロスの身体に触れる前に澪の出した光線がはじかれた。


 そういえば、さっき澪が冷凍光線を放った時も、ケルベロスの身体は凍りつく気配すらなかった。


 てっきりエスメラルダが言うように、炎の属性を持っているから体温が高い――故に氷系統の魔法が効かないんだとばかり思っていたが……。


「間違いない。こいつは全身に炎のバリアをまとってやがる……」


「炎のバリア!? それってどういう意味なの、ルナちゃん」


 傍にいたなゆたが訊いてきた。


「最初に採石場でお前たちと戦った時、絶対零度の魔法(ミオノ・フリガレイド)を使った澪にルーナ・モルテムを撃ち込んではじかれたことがあった。それと理屈は同じだよ。澪があの呪文で全身にまとった冷気がバリアの働きもするように、あのケルベロスがまとっている炎のオーラがバリアの働きをしているんだ」


「ほう♪ もう気づくなんて流石ですね♪ その通りです♪ さあ、これであなたの得意な即死魔法や炎の魔法に弱いあの氷の魔法少女の魔法は、このケルベロスちゃんには効きませんよ~♪」


 俺たちにケルベロスをけしかけた張本人である時空の魔女エスメラルダは明るい調子で言った。


 そうかよ……。


 なら、その余裕綽々(しゃくしゃく)な顔を吠え面に変えてやるぜ!


「澪、セレナ、こっちに戻れ!」


 空中から地上のケルベロスと戦っていた二人をこちらに呼び戻す。


 これから撃つ魔法はデカすぎてあいつらまで巻き込んじまう可能性が高いからな。


 セレナたちが自分の後ろに移動したのを確認して、俺はケルベロスを討ち滅ぼすための呪文を唱えた。


「悪魔神よ! 我が領域に降臨せよ! 〝ヴァールーナ・イーマ・エッサイム!〟」


 さあ、悪魔神ヴァールーナよ!


 ケルベロスをぶっ倒せ!


「…………って、あれ?」


 俺は我が目を疑った。


 頼みの綱である悪魔神召喚魔法が発動しない。


 ヴァールーナ本体はおろか、それを召喚するために現れる魔法陣さえも出現していない。


「なんだ? 何で出ないんだ!?」


「もしかして、魔力が足りないんじゃ……」


 セレナが言った。


「いや、それはない。俺はさっき来果の魔法で魔力を十分前の状態に戻してる。その時はまだ第四の試練でヴァールーナの呪文を使う前――つまり、魔力がまだ十分にある状態のハズだ。回復してから今までに使った呪文はさっきのルーナ・モルテムのみ。いくらルーナ・モルテムが魔力を多く消費するとしても、一発でヴァールーナが使えなくなるほど減るとは考えにくい」


 などと呑気に分析をしている場合ではなかった。


「グォオオオオオオオオオ!」


 ケルベロスの前足の爪が、すぐそこまで迫っていたのだ。


「く……」


「〝アンデュ・ライティア!〟」


挿絵(By みてみん)


 セレナが咄嗟に光の波動で押し返そうとするが……。


「グォオオオオオオオオオ!」


 ケルベロスの爪が、いとも簡単に光の波動を切り裂いた。


 そのままの勢いで、鋭利な爪がセレナに迫る。


「〝シルディア!〟」


挿絵(By みてみん)


 とっさに防御魔法を唱えたが、無駄だった。


 急にこしらえた盾は魔力が十分に練りこまれておらず、無残に砕け散ったのだ。


「きゃああああああああああ!」


 盾が砕けた衝撃で、セレナは後ろの壁へと吹っ飛ばさた。


「まずは一人♪」


 エスメラルダが楽しげに口ずさむ。


「く……よくも! 〝ミオノ・フリガレイド!〟」


 怒りに身を任せ、絶対零度領域を身にまとった状態でケルベロスに突撃する。


「ダメだ! 澪! お前の魔法じゃそいつには!」


 俺は止めたが、その時には澪は既に敵に飛びかかった後だった。


「ふふふ♪ お馬鹿さんですねぇ♪ あなたの魔法が通用しないってことがまだわからないんですか♪」


「グォオオオオオオオオオオ!」


 ケルベロスが吐いた高温の炎が、澪を包み込む。


「きゃああああああああ!」


 セレナ同様、澪も壁に吹き飛ばされた。


 冷気が多少なりともバリアになったのだろう。


 幸いなことに、全身黒焦げにはなっていない。


 それでもひどい火傷を負ったようで、立ち上がることはできそうもない。


「ふふふ♪ これで二人目♪ さあ、次は誰が吹き飛ばされたいですかぁ♪」


「グォオオオオオオオオオオ!」


 ケルベロスの爪が、今度は俺を狙っている。


 く……。


 ダメだ! 対抗手段が間に合わない!


「ルナ先輩! 危ない! 〝ライカン・クロノシオ!〟」


 来果が俺の前に出て、ケロベロスを時間操作の結界の中に閉じ込め、その動きを封じる。


 だが、それも一瞬のことだった。


 第一の試練でゴーレム相手に魔力を使いすぎたのが原因だろう。


 魔力切れを起こし、来果の結界が消え去ったのだ。


「グォオオオオオオオオオ!」


「きゃあああああああああ!」


 ケロベロスの爪が、逃げようとした来果の背中を引き裂く。


 傷口から、鮮血が吹き出ていた。


「来果!」


「来果ちゃん!」


 俺となゆたは迷わず駆け寄った。


「すみません、ルナ先輩……。失敗しちゃいました……」


「来果……」


 幸いまだ息があるようだったが、この出血ではいつまで持つか……。


 それに、セレナと澪も……。


「あはは♪ これで残りは二人ですねぇ♪ まあ、よくここまで来たと褒めてあげますよ♪」


 エスメラルダの高笑いに、俺はゆっくりと立ち上がった。


 人間、怒りが頂点に達すると、不思議と冷静になるもんだ。


「なゆた、来果たちに回復魔法(ニル・ヒーリア)を。今、こいつらを救えるのはお前の魔法しかない」


「うん。それはわかるけど、ルナちゃんはどうするの? まさか、一人で戦うなんて言うんじゃ……」


「いいからとっとと後ろに下がれ! 早く回復させないと来果たちが死んじまうだろうが!」


 俺が怒鳴ると、なゆたはゆっくりと頷き、来果を抱えて後ろに下がった。


 三人を頼んだぞ、なゆた……。


「ふふふ♪ 今回も一人でなんとかなるとお思いですか? 賢いあなたならわかるでしょう? もう勝目なんかないってことが。でも、正直ここまで来るとは予想していませんでした。そこで、どうです? 私と取引しませんか?」


「取引だと?」


「このままではあなた方は確実に死にます。ですが、ここまでの試練は殆どあなたの力で突破したようなものじゃないですか。ずっと見ていた私にはわかります。あなたは優秀。他の四人はせいぜい数合わせでしかない」


「何が言いたい、エスメラルダ?」


「あなたの魔法で後ろの四人を殺しなさい」


「なんだと!?」


「聞こえませんでしたか? あなたが後ろの四人を殺せば、あなただけは助けてあげましょう。特別賞として、魔法アイテムも差し上げます。あなたが仲間を殺しても、国の領土が減るわけではありません。マナ・クリスタルがあなたの精霊に戻り、新たな魔法少女を任命すればそれで元通りです。どうです? なかなかいい取引だとは思いませんか?」


「…………」

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