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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
6/98

6. 久しぶりに学校へ

 翌朝。


 いつも通りの時間にベッドから起き上がり、いつも通りの時間に朝食を食べ、いつも通りの時間に家を出た。


 いつもと違うのはここからだ。ネットカフェには行かずに、学校を目指す。


 最後に行ったのは中間テストの時だったから、かれこれ二週間ぶりの登校だ。


 今日、俺が久しぶりに学校に行くことにしたのは、昨日の夜、セレナに次のように言われたからだ。


「明日、学校に行ってください。面白いことがありますよ」


 正直、学校に面白いことなどあった試しがないが、その時のセレナの言い方がどこか意味深だったので、とりあえず行ってみることにしたのだ。


 しかし、学校ってのはやはり嫌な場所だ。校門の前で俺の姿を目にした途端に、生徒たちは街で芸能人でも見つけたかのように、俺に群がってくる。


「芳樹さん、おはよう」


「芳樹さん、いつもテストの日しか来ないのに珍しいね」


「ゲッ! じゃあ、もしかして今日何かのテストなのか? やっべー! 俺、全然勉強してねーよ! 芳樹さん、前みたいにヤマ張ってくれねーかな!」


 と、言ってくる男子生徒たちに対し、


「あはは。テストじゃないよー。たまにはみんなに会いたいから来たんだー。あと、あんまりヤマ張りばっかりに頼ってちゃダメだよー」


 猫を三匹くらいかぶったいつもの(・・・・)営業スマイルで返す。


「ルナちゃん、久しぶり~。元気してた?」


「ルナちゃーん! よかったぁ! 数学の宿題が全然わからないの! 教えてー!」


 こういった女子生徒たちに対しても、


「久しぶり~。あたし(・・・)はいつも元気だよー。数学の宿題? いいよー。あとで教えてあげるね!」


 こんな感じで無難に対応する。


「ふふふ。芳樹さん。この間のテストではまたキミに負けてしまったが、期末ではそうはいかないよ。次こそは勝たせてもらうからね」


 やせ型で丸メガネの滝廉太郎みたいな風貌の男子生徒にいきなり宣戦布告されても、


「え? あ、うん。頑張ってー」


 と、綺麗に受け流す。


「あははー。山田君、そんなこと言って、いっつも負けてんじゃん~」


 ある女生徒がそう言うと、周りの生徒からドッと笑いが巻き起こり、宣戦布告をしてきた男は気恥かしそうに、人垣の外へと消えていった。


 この他にも声をかけてくる生徒は大勢いて、俺は背が低いから、みんなに揉みくちゃにされ、教室に着くまでにはヘロヘロになっていた。


 くそ! だから学校は嫌いなんだ! みんな俺を珍しい動物か何かみたいに取り囲んで撫で回してきやがる!


 というか、さっきの滝廉太郎似の男は誰だ? 山田? 俺はそんな奴は知らない。



☆☆☆☆☆



 セレナの言う「面白いこと」が起こったのは、ホームルームの後の1時間目の数学の授業だった。


 授業の内容は「素数」で、このクラスの数学の授業を受け持つ初老の数学教師が素数の性質について、丁寧な解説をしていた。


「えー、つまり素数とは、1とその数以外では割り切れない数のことを言います。偶数は必ず2で割り切れますから、2以外の偶数は素数ではありません 」


 余談だが、素数って奴はなかなか面白く、奥が深い分野だ。数学の根幹をなすと言ってもいいが、同時に多くの謎に包まれた数字たちでもある。


 なんせ、1から順に数字を数え上げても、素数の出現する間隔は全くランダムに見えるし、素数を求める公式ってのも、現状存在していない。数学界最大の難問とも呼ばれる「リーマン予想」だって、素数関連の問題だしな。


 日常生活でも、素数の性質は生かされている。例えば、クレジットカードの番号なんかのセキュリティには、何百桁っていう超巨大な素数が暗号として使われているが、これはさっきも言ったように、素数を求める公式や関数が存在しない以上、超巨大な数の素因数分解が困難であるということを利用したものだ。


 こんな風に、素数ってのは応用の範囲が広い。


 そして、実を言うと、それは俺たち魔法少女の戦いにも当てはまる。


 セレナにも言ったが、この戦いは、13個のマナ・クリスタルを奪い合う帝国主義ゲームだ。


 この13という数字も素数の一つ……。これが実に厄介な状況を生み出している。


 なぜなら、1と13以外の数字で割り切れないということは、それすなわち、絶対に勢力の均衡が起きないということ!


 例えば、マナ・クリスタルの数が13ではなく12だった場合。残りの国の数が6カ国なら、領土が2ずつという均衡状態が生まれる可能性がある。同様に、残りが4カ国なら、領土が3つずつ。3カ国なら、4つずつで勢力が均衡する。


 しかし、実際のマナ・クリスタルの数は13個! 勢力が均衡しているのは、ゲームのスタート時のみだ! 一つの国が領土を失い、敗北した段階で、この均衡は永遠に失われる! つまり、領土の大きい国と小さい国が常に存在することになる!


 領土を奪うにしても、大国から奪うよりも、小国から奪うほうが遥かに簡単だろう。敵と対峙した時、相手側の兵力が自分よりも少なければ、攻撃を仕掛けるのが無難だし、多ければ逃げるのが得策だ。

 現在、俺たちの国の領土は3……。


 これが果たして大きいのか小さいのか……。


 いずれにしろ、早く三人目の仲間を見つけ、他の魔法少女の国を侵略した方が良さそうだな……。


 と、そこまで考えを進めた時だった。


「芳樹!」


 教師に名前を呼ばれ、咄嗟に我に返る。


「あ、はーい! なんですかぁー」


「あれ? 気のせいか? 今、キミがものすごく邪悪な顔をしていたような気がしたんだが……」


「あはは。そんなぁ、変なこと言わないでくださいよぉ」


「そうよ、ルナちゃんが邪悪な顔なんてするわけないじゃない!」


「芳樹さんに邪悪な顔なんて似合わないよ!」


「ルナちゃんマジ天使!」


 と、俺に続き、他の生徒もそう言ってくれたので、教師は「先生の見間違いかな……」と言って、メガネをみがき始めた。


「よ、よし、じゃあ芳樹、ちょっとこの問題を解いてみろ。少し難しいが、キミなら解けるだろう」


 そう言って、黒板に書かれた問題をコンコンとチョークで叩く。


 面倒だったが、教師の指名なら仕方がない。俺は前に出て黒板に式と答えを書き込んだ。


「うむ。正解だ。流石は芳樹だな」


 教師が赤チョークで丸をつけると、教室がざわつく。


「すっごーい。流石ルナちゃん」


「あんな難しい問題すぐに解いちまうなんて、やっぱ芳樹はすげーや」


「ふふふ。それでこそ僕のライバル。だが、僕は勝つぞ。次のテストでは必ず勝つ」


「おいおい山田~。お前そんなこと言っていっつも負けてんじゃんかよ~」


 その男子生徒の言葉に、クラス中がドッと湧き上がる。


 いや、お前ら。笑うのはいいけど、俺は山田なんて知らないんだぞ。


 というかこの山田なる男子生徒は、俺と同じクラスだったのか……。


 まるで知らなかった。


 だが、俺はこの直後、山田などどうでも良くなるくらいの人間をクラスの中に発見してしまった。


 自分の席に戻ろうとして、何気なく視線を教室の奥の方にやったとき、窓際の一番奥の席のそいつと目があった。そいつは俺に向かってニッコリと微笑み、小さく右手を振ってくる。


 そこにいたのはセレナだった。



☆☆☆☆☆



 休み時間。


 俺はセレナを屋上に連れて行くと、開口一番に問い詰めた。


「何でお前が俺のクラスにいるんだよ!?」


 いくら俺があまり学校に行かないとは言っても、こいつは俺のクラスメイトではなかった。


 それは断言でき……いや、山田の件もあるし、もしかしたら断言はできないかもしれない。


「転校してきたんですよ、私。ルナさんのクラスに。もう一週間になりますかね」


「ひょっとして、俺と接触するためか?」


「ええ。メルヴィルからルナさんが魔法少女に適任だと聞いていたので、最初はクラスメイトとしてあなたとお友達になろうかと。でも、まさか、あなたが滅多に学校に来ない問題児さんだとは思いませんでしたけどね」


「なるほど。いくら待っても俺が学校に現れないから、あんな形で接触したってわけか」


「ええ。 それにしても、ルナさんって意外と人気者なんですね。驚きましたよ」


「自分で言うのもなんだが、俺は可愛いからな。容姿がいいってのは、人間社会で生きていくにはかなり有利なのさ。 顰蹙ひんしゅくを買わないよう、気をつけてもいるしな 。まあ、一部の生徒には、俺の本性を知ってて、性格が悪いと言ってる奴もいるみたいだが」


「あはは。ルナさんの 外面(そとづら)がいいのは見ていてよーくわかりましたよ 。最初見たとき、『あれ? どちら様!?』って感じでしたもん」


「ほっとけ。…… で、一体どういうつもりなんだ?」


「はい?」


 セレナはわざとらしく首を傾げた。


「とぼけんなって。俺をワザワザ学校に呼んだってことは、何か用があるんだろ?」


「あはは。バレてましたか。実はそうなんですよ。ルナさん、放課後は空いてますか?」


「俺はいつも暇だ」


「そうですか。なら――」


 セレナは芝居がかったようにたっぷりと間を空けて、こう言ったのだった。


「放課後、私と魔法の練習をしましょう」


感想・評価などいただけたら大変嬉しいですし、励みになります。

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