56. 第四の試練
ルナたちが第三の試練を突破するのを見ている者がいた。
彼女たちにこの試練を課した張本人――〝天の声〟だ。
「むぅ~。第一の試練といい、今の第三の試練といい、やっぱりあのルナって子は頭がキレますね~♪ 知略と戦術がモノをいう、この魔女の試練においては一番厄介なタイプです~♪」
これはあくまでも独り言。
この声はルナたちには聞こえていない。
「で~も♪ 次の第四の試練は果たして突破できますかね~♪ なにせ次の試練は今までとは違って力こそが試される例外的な試練なんですから♪ その内容は――。おっと、それは見てのお楽しみにしておきましょう♪」
☆☆☆☆☆
第三の試練を突破し、第四の試練へと続く扉の前に立った俺たちに、例のごとく天の声が語りかける。
『みなさーん♪ 残す試練もあと二つ♪ せいぜい死なないように頑張ってくださいね~♪』
物騒なことを随分と明るく言う奴である。
「おい、貴様! 第五の試練までたどり着ければお前に会えるんだったよな?」
『そうですよ~♪ 第五の試練では、この私が直々にあなた方のお相手をします♪』
「ふん。じゃあ次の第四の試練さえ突破すれば、少なくともお前のブサイクなツラを拝めるってわけだ」
『大した自信ですね♪ では、第四の試練ではあなたのご活躍をお祈りすることにしましょう♪ でも一つだけ訂正させていただきます♪』
訂正?
なんだ……? まさか、ルールの変更でもあるのか!?
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
『私はブサイクではなく、結構美少女なんですよ~♪』
「…………」
一瞬の間が開いた。
「いや、お前の顔見たことねえから知らねーよ!」
『おっと、そういえばそうでしたね♪ ではちゃっちゃと第四の試練を突破してこのハイパー可愛い私のお顔を拝みに来てください♪』
ガァー、と音を立てて第四の試練へと続く扉が開いた。
扉をくぐると、そこはまたもや白い部屋だった。
ただひとつ違うのは、正面の壁には次の部屋へと続く扉がないことだ。
その代わり、白亜の壁にはまるで厳重な封印でも施しているかのように一面に巨大な魔法陣が描かれている。
『さて、あなた方のリーダーは誰ですかぁー?』
突然、なんの脈絡もないことを尋ねる天の声。
ほかの四人が俺の方を見た。
俺は別にこいつらのリーダーになったつもりはないんだがな。
ご指名とあれば仕方がない。
「俺だ!」
一歩前に進み出る。
天の声は俺が出てくることがわかりきっていたのか、無感動な声のトーンで、
『そうですか♪ では、ほかの四人には黙って見ていてもらいましょうか♪』
その声と共にセレナたちの足元から透明な筒のようなモノがそびえ立ち、四人をその中に閉じ込めた。
「きゃあ!」
「なんですか、これは!? ルナ先輩、助けて!」
「……っ!」
「ええ!? なんで私達がこんな目に!?」
セレナたちは自分を閉じ込めた透明なシリンダーを手で叩いて抵抗したが、当然
そのくらいでは脱出することはできなかった。
「く……それなら!」
澪はステッキを握り締め、呪文を唱えた。
「〝ミオノ・フリガレイド!〟」
しかし……。
シーン……。
「っ! どうして魔法がでないの……」
『無駄ですよ~♪ そのシリンダーの内部では魔法を発動することはできませんし、外からの魔法も弾いてしまうんです♪』
なんだと!?
「てめえ! セレナたちをどうするつもりだ!?」
声を荒らげる俺に対して、天の声は冷淡なものだった。
『別に♪ 第四の試練はあなた一人でやるんです♪ だから他の皆さんには手を出せないように動きを封じさせてもらいました♪』
「だったらとっととその第四の試練を始めやがれ!」
『ふふふ♪ もう試練は始まってますよ♪ 目の前の壁を見てください♪』
言われたとおり、前を見る。
そこには入った時に見たように、何かの封印を施したような魔法陣が壁一面に描かれている。
『そこには第五の試練――つまりは私のもとへと通じる扉が封印されています♪ 封印を解くにはその魔法陣に一定以上のダメージを蓄積させる必要があります♪』
「……つまり、あの壁に向かって攻撃魔法を放ち続ければいいんだな?」
『その通り♪ でも、これだと時間さえかければ誰でも突破できますよね♪ だから制限時間を儲けることにします♪』
制限時間?
「きゃあ!」
セレナが驚声をあげた。
「っ!? セレナ! どうした!?」
「いえ、ただ、上から水滴が……!」
「ルナ先輩、来果たちも上から水滴が落ちてきてます!」
来果たち三人も、シリンダーの中でジタバタしている。
水滴? ……まさか!
『そうです♪ その水滴は一定の感覚で落ち続けます♪ シリンダーいっぱいに水が溜まったらどうなるかはわかりますよね♪ それが制限時間で~す♪』
っ!
つまり、俺が失敗したらセレナたちが溺れ死ぬってことか!
「貴様ぁ……。覚えてやがれよ! この試練をクリアしたら真っ先に貴様に即死魔法をぶち込んでやるからなぁ!」
『おお~♪ 怖い、怖い♪ では頑張ってくださいネ♪』
ちっ……とりあえず魔法陣に攻撃をぶつけて結界を破るしかないか。
「ふう……」
精神を集中させ、魔力を練りこむ。
最大までパワーを溜め込んで、俺は魔法を放った。
「〝マギア・テネブラム!〟」
ドゴォオン!
闇の魔導波が魔法陣に直撃し、炸裂する。
しかし……。
「っ! 全く壊れる気配がない!?」
魔法陣は消え去るどころか、傷一つつかずにその堅牢さを維持している。
馬鹿な! マギア・テネブラムは俺の最大の攻撃魔法だぞ!?
フルパワーで撃ったそれが直撃したってのに、ここまでダメージが無いなんて!
『ぷぷぷー♪ 残念でした♪ その魔法陣は特別高度な結界の魔法です♪ 〝その程度〟の攻撃では壊すのにあと千回は必要ですね♪』
「千回!? 馬鹿な! そんなに魔力が持つわけねえだろ!」
かといって、魔力の回復を待ってたら、セレナたちが溺れ死んじまう!
一体、どうすれば……。




