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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
55/98

55. その一点を見据えて

 第三の試練。


 その内容は百メートル程の通路を渡るという単純なもの。


 だが、その通路の横の壁からは様々な形をした刃が高速で出入りを繰り返している。


 歩いて進んだりしたら間違いなく八つ裂きにされちまう。


 さて、どうするか……。


「よーし! こういう時こそ来果の時間操作魔法の出番ですよー!」


 来果が腕まくりの仕草をしながら前に進み出る。


「どうするつもりだ? 来果」


 俺は不安げに尋ねた。


「何って時間を遅くする魔法(デセル・クロノシオ)をあの刃にかけて、動きを鈍らせるんですよ。そうすれば楽に進めます!」


『はぁー……』


 来果以外の四人のため息が重なる。


「あれ? 先輩方どうかしましたか?」


「あのな、来果。俺も確かにそのやり方は最初に考えたさ。でも、この注意書きを忘れてもらっちゃ困るぜ」


 俺はスタート地点の壁に貼られていたプレートを指し示した。


 そこには精霊界の文字でこう書かれている。


 通路を進め。


 ただし、この部屋では魔法少女は一人につき一つしか魔法を使うことができない。


 一度スタートしたら後戻りはできない。


 スタートしてから30秒以内に渡りきらないとゲームオーバー。


「ここに書かれている通り、魔法少女は一人につき一つしか魔法を使えない。来果が時間を遅くする光線(デセル・クロノシオ)を当てることができる刃は一つだけ。しかも、お前の魔法は効果を持続させるために、対象に光線を浴びせ続けなきゃいけない。つまり、デセル・クロノシオじゃ、一発で全ての刃の動きを鈍らせることなんてできないんだよ」


 俺がそう言うと、そこから更にセレナが付け加えた。


「しかも、制限時間は30秒しかありません。この通路の長さは約百メートル。私たちの足なら全力で走ったとしても余る時間はほんの少しです。時間的にも全ての刃に魔法をかけるのは厳しいかと……」


「あ、そっか……」


 がっくりと肩を落とす来果であった。


「そんなにしょぼくれんなよ。俺にいい考えがあるぜ」


「え! 流石ルナ先輩! 聞かせてください!」


 俺は注意書きのプレートの下を指さした。


 そこには異なる形の図形が描かれたパネルが20個ほど埋め込まれている。


「見ろよ。これは多分、壁の横から出ている刃の形だ。あの刃はどれも通路全体を攻撃対象にしているわけじゃない。例えばこの三角形の奴は刃が全部突き出た状態でも、通路を斜めに区切った上半分は刃が通過しない箇所……すなわち安全地帯ってことになる」


「あ、そっか。つまり、その安全地帯を通るようにすれば簡単に抜けられるってわけですね!」


「そういうこと……だが、問題が一つある」


「え? 問題って?」


 来果は不思議そうに首をかしげた。


 その問いに答えたのは澪だった。


「見て。壁から突き出る刃は高速過ぎて形の判別ができない。しばらく見ていれば安全地帯の把握くらいはできるかもしれないけど、それだと時間が足りない」


 そう、澪の言うとおり。


 制限時間30秒で、突破しなければならない刃の数が20ということは、刃一枚あたりにかけられる時間は1・5秒しかない。


いや、通路を渡るのにかかる時間も考えると、それ以下か……。


 ともかく、そんな短時間で刃の形が20パターンある内のどれかを判断し、安全地帯を見つけてそこを通るなんて芸当、できるわけがない。


「来果ちゃんって時間の魔法が使えるんだよね? 時間を加速させる魔法って持ってないの? それを私たちにかけて、とっても速く動けば突破できるんじゃない!?」


 なゆたが指をパチンと鳴らして発言する。


 しかし、来果はうつむいたまま首を振るしかなかった。


「確かに来果は時間加速の魔法(クセル・クロノシオ)を持ってますけど、この魔法は一人にしかかけられないんです。ごめんなさい、なゆた先輩」


「あ! ううん! 気にしないで! 言ってみただけだから!」


 なゆたは来果を必死に慰めている。


 どこまでも優しい奴だ。


「うーん、私たちにこの状況を突破できる魔法があればいいんですけど」


「特定の魔法を持ってないと攻略できないなんて不公平」


 セレナと澪が口々に不平を述べる。


 ……確かに、こいつらの言うとおりだ。


 これはウォーゲームのボーナスステージのはず。


 特定の魔法がないと突破できない試練を課すとは考えにくい。


 第一の試練も、第二の試練も、特定の属性の魔法を使う必要などなかった。


 この第三の試練だけ特別な魔法が必要になるってのは不自然だ。


「きっと何か突破する方法はある……。考えろ……。考えるんだ……」


 俺はルールの書かれたプレートとその下にある刃の形を描いたパネルとにらめっこしながら頭をひねった。


「使える魔法は一つ……。制限時間は30秒……。20種類のやいば……」


 っ! この刃の形! まさか!


 俺の頭の中で稲妻が走った。


「セレナ、ちょっと肩を貸せ!」


「うわっ! ちょ、ちょっとルナさん!?」


 いきなり肩によじ登って肩車を強行する俺に、セレナは戸惑いの声をあげた。


「いいから、そのまま前を向いてじっとしてろ。澪、セレナの身体を支えてやってくれ!」


「……わかった」


 澪は半信半疑な様子だったが、言われたとおりセレナの後ろにまわって背中を支えた。


 来果となゆたも、何事かとセレナの肩の上に立つ俺を見上げている。


「じー…………」


 俺は目を凝らし、第四の部屋へと続く通路を見つめる。


 高速で突起・埋没を繰り返す20個の刃の残像が重なり合い、刃の通過する〝軌跡〟を作っていく。


 それはすなわち、パネルに描かれた20個の図形を全て重ね合わせた図形に等しい。


 普通なら20個もの図形を重ね合わせれば全部塞がってしまうんじゃないかと考えるかもしれないが、そこがこの試練の罠だ。


 さっき俺が頭の中で重ね合わせた結果が正しければ、必ず……。


「っ!」


 やはり! 通路の天井付近にぽっかりと穴があいている!


 そこから第四の部屋へと続く扉が丸見えだ!


 つまり、あの場所は20種類の刃の内、どの刃も通過しない究極の安全地帯ってわけだ。


「ふははははははは! 俺としたことがこんなチャチな引っ掛けに頭を悩ませていたとはな! だが、これなら使う魔法がひとつに限定されていたのもうなずける。最初からその魔法しか使う必要はなかったんだ!」


 俺はそう叫ぶと、セレナの肩から飛び降り、試練突破のための指示を出した。


「セレナになゆた、箒の魔法(ビアブルム)を使え! 来果と澪をそれぞれ後ろに乗せて、俺の後について来い! 通路の真ん中、天井付近がどの刃も通過しない安全地帯だ!」


 こうして俺たちは第三の試練を無事に突破した。


 来果と澪の魔法を温存させたのは、もしかしたら、刃をくぐり抜けた先にまだ何かあるかもしれないと思ったからだ。


 しかし、通路を渡り終えると普通に扉が開いたので少々拍子抜けしちまった。


 次はもっとやりがいのある試練を頼むぜ、天の声さんよ。


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