54. 第三の試練
俺が正気を取り戻してからしばらくして、天から例の胸糞悪い声が降ってきた。
『第二の試練をクリアするなんてやりますね~♪ これも魔法少女同士の友情ってやつですか~♪ ああ~、気持ち悪~い♪』
「貴様……!」
俺は天の声に向かって怒りをぶつける。
「よくも俺に幻覚魔法をかけて仲間どうし戦わせやがったな! いつまでも隠れてないで出てこい! このルナ様がてめぇの息の根を止めてやるぜぇ!」
『おお~、怖い怖い♪ 私には嫌でも会えますよ♪ 第五の試練までたどりつければネ♪』
こいつ……。
いいだろう!
その挑発に乗ってやる!
必ず第五の試練までたどり着いて、てめぇのクソブサイクなツラを拝んでぶっ殺してやるぜ!
『ではお進みください♪ 第三の試練が行われる部屋へと続く扉です♪』
例によって、白い部屋の扉がガーっと音を立てて開く。
だが第三の試練に進む前に、外道魔法少女といえども果たすべき道理を果たしておかなければな。
「セレナ、来果、澪それに、なゆた」
俺は四人の仲間に向き直る。
「さっきは済まなかった。こんな俺でよければ、もう一度一緒に戦って欲しい」
「もちろんですよ、ルナさん」
「来果はルナ先輩にどこまでもついて行きます!」
「……次にあなたがおかしくなったら、私が力づくでも正気に戻させる」
「終わったことは気にしない、気にしない。力を合わせて次の試練にチャレンジだよ、ルナちゃん!」
……こいつら。
幻覚を見せられていたとはいえ、さっきまで俺はこいつらを本気で殺しにかかっていたってのに……。
安易にルーナ・モルテムを撃たないで正解だったな。
もしもこいつらの内の誰かを殺していれば、流石の俺も良心の呵責って奴に押しつぶされていただろう。
……って、いかんいかん。
セレナと来果はともかく、澪やなゆたにまで情が移り始めてきてやがる。
同盟関係を結んでいるとはいえ、こいつらは最終的には敵になるかもしれないってのを改めて肝に銘じておかなければな……。
「よし、お前ら。第三の部屋に進むぞ!」
俺は四人を先導して、第三の部屋へと続く扉をくぐったのだった。
「これは……」
扉をくぐり抜けた先にある光景を目にして、俺は慄然とした。
三つ目の部屋は、相変わらず白いという点では共通しているものの、それまでの二つのような立方体ではなく、直方体だった。
部屋というよりも、大きめの通路だと言った方がわかりやすいだろうか。
百メートル程先にはおそらく第四の部屋に続いているであろう扉がある。
「ようするに、ここを渡ればいいんですね? 簡単じゃないですか!」
「待て来果。うかつに進むな」
お気楽に進もうとする来果の襟を掴んで止める。
「ぐえっ! 何するんですかルナ先輩!」
「いいから見てろ」
俺は一度変身を解き、ポケットからシャーペンを取り出すと、通路に向かって放り投げた。
ザシュッ!
宙に放られたシャーペンがいい感じの音を立てて真っ二つに切断される。
通路の横にある溝から鋭利な刃物が突き出たのだ。
それを合図に、およそ5メートルおきくらいに様々な形の刃物が出たり引っ込んだりを繰り返す。
どれも、ものすごいスピードだ。
「ひえええええ……」
来果が驚いて腰を抜かす。
俺が止めていなかったら、来夏の身体はズタズタになっていただろうからな。
「これじゃ渡れないよ。ルナちゃん、どうするの?」
なゆたが訊いてくる。
「簡単なことだ。攻撃魔法で突き出てくる刃を破壊すればいい」
「いいえ、それは無理みたいですよ」
セレナが俺の作戦に待ったをかけた。
「どういうことだ?」
「見て、これ」
と、澪が壁に貼られたプレートを指し示す。
そこには精霊界の文字でこう書かれていた。
〝通路を進め。
ただし、この部屋では魔法少女は一人一回しか魔法を使うことができない。
一度スタートしたら後戻りはできない。
スタートしてから30秒以内に渡り切らないとゲームオーバー。〟
その下には、壁から突き出る刃物の形が描かれたパネルもある。
その数は全部で20個。
一人一つずつしか魔法が使えないのに、刃の数は全部で20個あるのか……。
「なるほど。攻撃魔法でいちいち一つずつ破壊していこうにも、五人だと魔法の数が足りないってわけか」
……こりゃ、使う魔法を慎重に選ぶ必要がありそうだな。
しかも時間制限ありの一発勝負かよ……。
難易度高すぎだろ。
どの魔法い、どういう策でこの試練を突破すべきか。
それを最初によーく考えないとな。




