53. 第二の試練の真の姿
「死ね~! ルナ~!」
今まで俺が殺してきた連中が束になって襲いかかってくる第二の試練。
ゾンビと化した敗北者どもは俺の身体にまとわりつき、動きを封じてくる。
「くそっ! いい加減にしやがれ、この負け犬どもが! 〝マギア・テネブラム!〟」
闇の魔導波を放って、周りにいたゾンビどもを吹き飛ばす。
「あはは~。その人数をいっぺんに吹っ飛ばすなんてやるね~」
「そりゃそうさ。こいつはその魔法の力でアタイたちを無慈悲にも殺したんだからねぇ」
アカネとマキが口々に俺を挑発する。
こいつら……!
いいだろう!
そんなに死にたいのなら、もう一度こいつを浴びせかけてやるぜぇ!
死ね!
「〝ルーナ……〟」
即死魔法を放たんとした、まさにその時!
暗闇の中に誰かの声が響いた。
「ダメ! ダメだよ、ルナちゃん!」
この声は……なゆた!?
何故あいつの声がここに?
この部屋に入ったと同時に姿が見えなくなっていたはずなのに!
「やめてよ、ルナちゃん! 正気に戻って!」
また!
どこだ……?
どこから聞こえるんだ……?
俺は耳を澄ませる。
「ちょっと~。いきなり目を閉じてどうしたの~」
「おらおら、どうしたんだい~? 打てるものなら打ってみなよ~。アタイらを殺した即死魔法をさ~」
アカネとマキの挑発声が邪魔をしてくるが、それを無視して俺は意識を集中させる。
澄んだ魔力が、身体に溢れてくるようだ。
目を閉じていても、辺りの闇が消えていくのがわかった。
「~~~~!」
「~~~~!」
アカネとマキの声がだんだん遠くなり、真実の声がそれに重なる。
「ルナちゃん!」
「ルナさん!」
っ!?
なゆた!? セレナ!?
どういうことだ……。
俺が今まで戦っていたのはアカネとマキではなく、なゆたとセレナだった!?
じゃあ、さっき俺が吹っ飛ばした連中は!?
「ううぅ……ルナ先輩……」
「ルナ……早く正気に戻って……」
っ!?
来果に澪!?
二人共、満身創痍だ。
それにここは暗闇の空間なんかじゃなくて、第一の試練の時と同じただの白い部屋だ!
まさか……。まさか……。
これが第二の試練の正体なのか!
真実に気づいた俺の手からステッキが落ちる。
それと同時に生じる、ひどい自己嫌悪……。
「すまない……。みんな……。俺は……。俺は……」
俺はずっと自分の仲間と戦っていたのだ!
「ルナちゃん!」
「ルナさん! 気がついたんですね!」
なゆたとセレナが俺に駆け寄る。
「ああ。なゆた、お前の声、届いていたぜ。ありがとう、俺を正気に戻してくれて。一人の魔法少女に幻覚を見せ、仲間を敵だと思わせて仲間同士戦わせる――これが第二の試練の真の内容だったんだな?」
「うん。そうだよ。この部屋に入った瞬間に、ルナちゃんの様子がおかしくなって……」
☆☆☆☆☆
ルナの様子がおかしくなったのは第二の試練へと続く扉をくぐった直後だった。
先ほどの部屋と大した変わりがないというのに、物珍しそうに一人であたりをキョロキョロ見回し、どんどん先へと進んでいく。
あまつさえ、なゆた達はずっとそこにいたにも関わらず、まるでその姿が目に入らないかのように、彼女たちの名前を呼んで部屋の中をさまよっている。
その様子を奇妙に思ったなゆたが声をかけると、
「〝ビアブルム!〟」
ルナはいきなりステッキを箒に変えて宙を飛んだ。
「この炎の魔法は……まさか!」
下を見てわけのわからないことを呟くルナ。
誰も炎の魔法なんか使っていないのに……。
「ルナちゃん! どうしたの!? 炎の魔法って何!?」
「アカネ……なのか? 俺が最初に殺した炎の力を持つ魔法少女の?」
「ええ!? アカネって誰!?」
「ちぃ!」
突然舌打ちすると、ルナはまるで見えない攻撃から逃れるかのように箒を旋回させる。
「ふん! もうお前と初めて戦ったときの俺じゃないぜ! あれからセレナや澪をはじめ、何人もの魔法少女と実戦を戦いぬいてきたんだ!」
「ルナさんの様子が変ですよ! まるで私たちのことを敵だと思っているみたいです!」
セレナがそう言った時、この状況を楽しむような声が天から聞こえた。
『〝まるで〟じゃないですよ♪ 今、あの魔法少女には、あなたがたがかつて倒した敵に見えているはずです。相手が自分の仲間だとも気づかずに、襲いかかってきますよ♪』
「っ!?」
セレナたちに衝撃が走る。
『第二の試練の内容、それはその場にいる最も猜疑心の強い魔法少女に幻覚を見せ、仲間と戦わせるというもの! どうです? なかなかよく考えられた試練だと思いませんか?』
「もう一度その身体にルーナ・モルテムをぶち込んでやるぜぇ!」
セレナたちが天の声に耳を傾けている間に、ルナは床に着陸し、次なる攻撃を仕掛けてきた。
「蛇どもよ! あの死にぞこないの亡霊をからめとれ! 〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアア!(久々の出番ありがとうございます、ルナ様~!)」
「みなさん私の後ろに! この蛇の対処方法なら心得ています!」
「〝ウォレ・ロフティオ!〟」
セレナは以前学校の裏山でルナと対決した時と同じ要領で、光の壁をギロチンのように使い、蛇の身体を切断した。
「ギャアアアアアアア!(ひどいや、セレナの姉御!)」
「こ、この魔法は!?」
「ルナさん、この魔法を覚えてますよね!? 早く正気に戻ってください!」
だが、セレナの言葉はルナには届かなかった。
ルナはセレナをマキだと思い込んでいるのだ。
「ルナさん! 私達がわからないんですか!?」
セレナの言葉に、ルナはあたりを見渡した。
「こ、これは……!」
ルナの顔に恐怖が浮かぶ。
「ルナ先輩!」
「ルナ! 正気に戻って!」
彼女の瞳には、来果や澪の姿がかつて自分が殺めた人間に見えただけでなく、実際にはそこに誰もいないにも関わらず、大勢の人間が自分に復讐しようとする幻覚まで見えている。
「ルナさん!」
「はっ! 馬鹿が! そのコマの攻略法なら、前の戦いで取得済みだぜ!」
セレナの呼びかけをマキによる攻撃だと思い込んだルナは石化魔法と闇の魔導波を連続で光の壁に当てて、破壊した。
「やめて! ルナちゃん! 私たちを攻撃しないで!」
なゆたの叫びも、ルナには攻撃の呪文にしか思えない。
「何っ!? ちぃ! 〝マギア・テネブラム!〟」
ドゴォオオオオオオ!
闇の魔導波が、なゆた達の後ろの壁を破壊する。
「ルナ先輩!」
「ルナ!」
来果と澪がルナを止めに、彼女のもとへ駆け寄る。
「ちぃ! こんなロリ体型の美少女にまとわりつくなんて、この変態どもがぁ! 〝マギア・テネブラム!〟」
わけのわからないことを言いながら、ルナは来果と澪に至近距離から闇の魔導波を撃ち込んだ。
「きゃあああああ!」
吹っ飛ばされる来果と澪。
だが、彼女たちは諦めない。
「ルナ先輩……」
「さっさと正気に戻って……。私たちには、あなたの力が必要なんだから……!」
二人は立ち上がったが、ルナにとってそれは逆効果だった。
なぜなら彼女の目には、自分が殺した人間たちがゾンビのように蘇ったようにしか見えないのだから……。
この悲しい試練は、なゆたの言葉がルナに届くまでもうしばらく続いたのだった……。




