52. 第二の試練
『ゴーレムちゃんを倒すなんてやりますね~♪ でも、まだ第一の試練を突破しただけ。さきはまだまだ長いですよ。では、そこの扉をくぐってくださ~い。第二の試練の部屋へと続いていま~す♪』
天の声と共に角砂糖みたいに白い部屋の中に一つだけあった扉が開いた。
「……行くしかないか」
俺の言葉に残りの四人は神妙な顔をして頷いた。
五人で横並びになって扉をくぐる。
次の部屋に入った瞬間、辺りは一気に闇に包まれた。
『第二の試練:〝怨念の部屋にようこそ~!〟』
真っ暗な空間。
まるで墓場のような重々しい雰囲気。
いつの間にかセレナたち四人の姿は消えていて、俺一人だけがこの真っ暗な空間に取り残されていた。
「っ!? みんなどこにいった!? セレナ―! 来果―! 澪―! なゆたー!」
呼びかけても、返事はない。
次第に目が慣れてきた。
どうやらここも部屋のようだ。
ただし、さっきの真っ白な部屋とは違い、やけに薄暗い。
「……くそ、ここで一体何をしろって言うんだ? 〝怨念の部屋〟って天の声が言うのが聞こえたが、悪霊でも出てくんのか?」
なんて冗談を言った時だった。
「〝ビュレ・フォイエルム!〟」
背後から聞こえた呪文の声。
それと共に迫りくる暗闇を照らす赤い光。
「〝ビアブルム!〟」
間一髪、ステッキを箒に変えて上空に逃げることができた。
下を見ると、さっきまで俺がいた場所には紅蓮の炎でメラメラと燃えている。
「この炎の魔法は……まさか!」
「ちぃ~よけるなんて~。せっかくアンタに殺された恨みが晴らせると思ったのに~。まぁ~楽しみは後に取っておいた方がいいかもね~。あっはっはっは~」
このネチネチとした話し方に醜悪な笑い方……やはり!
「アカネ……なのか? 俺が最初に殺した炎の力を持つ魔法少女の?」
「あっはっはっは~。他に誰だって言うの~。〝ビュレ・フォイエルム!〟」
アカネはためらうことなく上空にいる俺に火炎弾を撃ってきた。
「ちぃ!」
ここ何週間かで鍛えた箒の操縦テクニックを駆使して、迫りくる紅蓮の炎をかわす。
「ふん! もうお前と初めて戦ったときの俺じゃないぜ! あれからセレナや澪をはじめ、何人もの魔法少女と実戦を戦いぬいてきたんだ!」
どうやって蘇ったかは知らねえが、俺の即死魔法で瞬殺されたアカネ如きが今更出てこようが敵じゃねえ!
「もう一度その身体にルーナ・モルテムをぶち込んでやるぜぇ!」
アカネと十分に離れた場所に箒を着陸させ、ステッキに戻す。
まずは即死魔法を確実に当てるためにこいつで動きを封じてやる!
「蛇どもよ! あの死にぞこないの亡霊をからめとれ! 〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアア!(久々の出番ありがとうございます、ルナ様~!)」
はっ! どうだアカネ!
お前の炎の魔法ではこの蛇全てを倒すなんてできやしまい!
「フン、アタイのこの魔法で蛇たちがミンチにされたことを忘れたわけじゃないだろうね?」
っ!?
この声は……まさか!?
「〝マキズ・ドルアムズ!〟」
アカネに向かって突進していた蛇どもに、どこからともなく出現した鋼鉄のコマが立ちはだかる。
「ギャアアアアアアア!」
蛇どもはその鋼鉄の回転体に絡みついたが、身体をすりつぶされてミンチになってしまった。
「こ、この魔法は!?」
「残念だったねぇルナァ! アタイもいるよぉ!」
やはりマキ!
馬鹿な! コイツも俺が殺したハズだぞ!
「アタイやアカネだけじゃないさ。周りをよぉく見てみな!」
マキにそう言われ、俺はあたりを見渡した。
「こ、これは……!」
「ルナ~!」
「よくも俺たちを殺したな~! 」
「復讐してやる! 復讐してやる! 復讐してやる!」
バビロンに、不良どもに、銀行強盗の主犯格!
みんな、俺が魔法少女になってから殺した奴らばかりだ!
っ! そうか! わかったぞ!
この第二の試練の内容が!
これはつまり、今まで自分が殺してきた奴らとの再戦!
自分を殺したことで俺を恨んでいる敗北者たちの怨念との対決!
まさに天の声が言っていたように、ここは〝怨念の部屋〟ってわけだ!
「死にな! ルナァ! 」
蛇どもを潰してまだ勢いが残っていた鋼鉄のコマをマキが俺にけしかけてくる。
「はっ! 馬鹿が! そのコマの攻略法なら、前の戦いで取得済みだぜ! 〝オクルス・メドウセム!〟」
アーンド!
「〝マギア・テネブラム!〟」
ドゴォオオオオ!
石化させて強度を下げたコマを、闇の魔導波で打ち砕く。
「〝ビュレ・フォイエルム!〟」
「何っ!?」
すかさずアカネの方の魔法だと!
「ちぃ!」
「〝マギア・テネブラム!〟」
ドゴォオオオオオオ!
火炎弾と闇の魔導波が衝突して爆発する。
よし、相殺した!
「うおおおおおおおお! ルナァー!」
っ!
今度は不良や銀行強盗が捨て身で突撃してきやがった!
「ちぃ! こんなロリ体型の美少女にまとわりつくなんて、この変態どもがぁ!」
みんなまとめて吹っ飛びやがれ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
至近距離から闇の魔導波を撃ち込む。
だが……。
「うおおおおおおおお!」
っ! 立ち上がった!
こいつら、生身の人間のクセになんで倒れないんだ!
ゾンビか何かか!?
「うおおおおおおおおお! 死ねぇ! ルナァーーーーー!」
ゾンビと化した死者たちが俺に次々にまとわりついてくる。
ぐ……身動きが……とれない……。
なんという因果応報……!
まさか……自分が……今まで殺してきた連中に……やられるなんて……。




