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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
51/98

51. 真理と死

「ゴォオオオオオオオ!」


 氷の拘束をいとも簡単に打ち破り、ゴーレムは雄叫びをあげる。


「く……。マジかよ。こんなバケモノ、一体どうやって倒せってんだ!?」


 人間界を舞台にした精霊界の代理戦争、ウォーゲームの隠しステージ。


 その第一の試練は即死魔法も物理攻撃も一切きかない不死のゴーレムを倒すというもの。


 物理敵に倒せないのなら氷漬けにして動きを封じるまでと考え、澪の魔法で凍らせたが、こうも通用しないとなると、絶望を通り越して逆に笑えてくるぜ。


「ゴォオオオオオオオ!」


 足を拘束していた氷を蹴破ると、ゴーレムは攻撃の矛先を自分を氷漬けにした澪に向けた。


 岩のように巨大な拳が澪に襲いかかる。


「く……〝シルディア〟」


 澪は攻撃を防ぐべく、盾の魔法を出した。


 だが……。


「ゴォオオオオオオオ!」


 ゴーレムの拳が当たるや否や、澪の出した盾はガラスが割れたような破砕音と共に、あっけなく砕け散った。


 っ! シルディアが破られた!?


 澪っ!


「きゃああああああ!」


 衝撃で後方に飛ばされる澪。


 その威力は凄まじく、澪の華奢な身体が遥か後ろの白い壁にめり込んでいた。


「澪ちゃん!」


「澪さん!」


 近くにいたなゆたとセレナがすぐに澪のもとへ駆け寄る。


 く……俺もすぐに駆け寄りたいが、その間、ゴーレムを野放しにするわけにもいかない。


 下手すりゃ、みんなまとめてお陀仏だ!


「来果、とりあえず時間停止であのバケモノの動きを止めろ!」


「はい! ルナ先輩! 〝ライカン・クロノシオ!〟」


 来果の時間停止の結界が発動したのを見届けると、俺もすぐに澪の元へと急いだ。


「大丈夫!? 澪ちゃん!?」


「く……大丈夫……。盾が砕けた衝撃で飛ばされただけ……。直撃は、避けた……」


 なゆたに抱きかかえられ、澪はそう呟いていたが、もはや虫の息なのは明白だった。


 額から血を流し、顔には死相が出てきてやがる。


「待ってて! すぐに回復させてあげるから!」


 なゆたは先日海辺の倉庫街で俺にやったように、ステッキを澪の身体に向けて呪文を唱えた。


「〝ニル・ヒーリア!〟」


 ステッキの先から出た暖かい色の光に包まれ、澪の身体はみるみる内に回復していった。


 顔には生気が戻り、額の出血も止まっている。


「すごい……。あれだけのダメージをまるで無かったみたいに……。こんな高度な回復魔法は初めて見ました」


 セレナが感嘆したように呟く。


 セレナ自身も、自己回復魔法(レフェクティオ)を持っているが、あの魔法ではここまでの回復力は見込めないだろう。他人にも使えることも含め、間違いなく、なゆたの魔法の方が能力は上だ。


 だが、セレナは一つ重大な勘違いをしている。厳密に言えば、なゆたのコレは回復魔法ではないのだ。


「いや、〝まるで〟じゃないな。本当にダメージを無かったことにしているんだ。そうだろ? なゆた」


 俺がそう言うと、なゆたは少し驚いたような顔をして、


「う、うん。そうだよ。私のこの魔法は受けたダメージを無かったことにできる魔法なの。でも、どうしてルナちゃんそのことを知ってるの?」


「簡単なことだ。お前の魔法の属性は〝虚無〟。敵の魔法を打ち消したりできるのなら、ダメージを無かったことにする魔法くらい使えるはずだからな」


「な、なるほど。やっぱりルナちゃんって賢いね。その通りだよ。だから私のコレは回復魔法っていうよりは虚無の魔法の一種って言った方が正しいかな。魔法自体に治癒の効果があるわけじゃないからね」


 と、なゆたが丁寧な説明をしていると、来果の叫び声が白い部屋に響いた。


「ルナせんぱ~い! このゴーレムを抑えるには、そろそろ来果の魔力が限界です~!」


 く……チクショウ!


 現状唯一あのゴーレムの動きを封じることができていたのが来果の時間停止の魔法……!


 しかし、当然だが来果の魔力が切れれば、もはや動きを封じることができない!


 ライカン・クロノシオは超強力な時の魔法!


 それに加えて、あのゴーレムの巨体を封じるために、いつもよりも結界の範囲を大きくしている!


 必然的に来果の魔力切れが早くなるとは思っていたが、もう限界が近いなんて!


 ただのパンチでシルディアをガラスみたいに砕くあのバケモノが本気で襲いかかってきたら、いくら5対1でもこちらに勝ち目はない!


 早く対抗手段を見つけなければ!


 どうする!?


即死魔法(ルーナ・モルテム)は最初に撃ったが効かなかった!


 闇の魔導波(マギア・テネブラム)光の波動(アンデュ・ライティア)などの物理攻撃では、再生能力のあるゴーレムは倒せない!


 動きを封じようにも、澪の氷の魔法は通用しなかった!


 ならば、俺の石化魔法(オクルス・メドウセム)で石にしちまうか?


 ……いや、元々土や石で出来ているゴーレムに石化魔法は全くの無意味!


 最近では俺の中で万能魔法の地位を築いていた石化魔法も、今回ばかりは役に立たない!


 あと俺が使える魔法は蛇の魔法(アンギ・フーニス)箒の魔法(ビアブルム)だが……。


 蛇どもじゃ、あのゴーレムの馬鹿力で引き裂かれるのがオチだし、この状況で飛行魔法なんか使ったって、何の意味もない!


 やばい……! 本格的にやばい……!


 対抗手段が、まるで思いつかない!


 マジで万事休すだ!


「澪! なゆた! お前ら、この状況を打開できる魔法を何か持ってないのか!?」


「……残念だけど、ない」


「私もだよ! というか私、相手を傷つけるような魔法は全然持ってないの!」


 くそう! 一体どうすりゃいいんだ!


「ルナせんぱ~い! もうヤバイです~!」


 ステッキを握る来果の腕が震え、額には脂汗が浮かんでいる。


 もう本格的に限界が近そうだ。


「くっ! 頑張れ来果! 必ず俺がそいつを倒す方法を見つけ……っ!? なんだアレは!?」


 時間停止の結界に包まれるゴーレムを見て、俺はあることに気づいた。


 ゴーレムの二の腕――右肩のつけ根あたりに、何か文字のようなものが刻まれていたのだ。


 近づいて目を凝らすと、それは精霊界の文字だった。


 人間界の文字に置き換えると、アルファベットで5文字。


 EMETH


「エメト……。確か、ヘブライ語で〝真理〟とかいう意味だったな。しかし、なんでそんなもんがゴーレムの身体に…… っ! 」


 俺の脳裏に稲妻が走った。


「そうか! わかったぞ! こいつの倒し方が!」


 ならば、俺が使う魔法はこれしかない!


「〝ビアブルム!〟」


 ステッキを空飛ぶ箒に変え、そして――。


「セレナ!」


「は、はい!」


「俺の後ろに乗れ! これからあのバケモノに攻撃を仕掛ける!」


「何か考えがあるんですね? わかりました!」


 セレナは俺に絶大な信頼を置いているのか、特に何か質問することもなく、俺の箒に跨った。


 二人乗りの状態で、離陸。


 天井ギリギリまで飛ぶと、俺はセレナと下にいる来果に指示を出した。


「セレナ、剣の魔法(グラディア)を使え! 俺が今から言う箇所をそれで攻撃するんだ! 来果ぁ、お前は俺が合図したら時間停止の結界を解除しろ!」


『わかりました!』


 二人の了解の声が重なる。


「〝グラディア!〟」


 指示通り、セレナは自分のステッキを長い剣に変えた。


 俺は箒を操縦し、ゴーレムに近づく。


 目的の場所を狙える絶好の位置でホバリングし、セレナに最後の指示を出す。


「セレナ、狙いは奴の右肩に刻まれた精霊界の文字! その頭文字を剣で削り取れ! それがこのバケモノの弱点だ!」


「わかりました!」


「よし、行くぞ! 来果ぁ! 今だぁ!」


「結界、解除!」


 ゴーレムを包んでいたオレンジ色の結界が解かれる。


「ゴォオ?」


 時間を止められていたゴーレムは何が起きたのか分からずにポカンとしている。


 セレナが目的の場所を攻撃するには十分な隙だった。


「てりゃああああ! 」


 ゴーレムの右肩のつけ根に刻まれた精霊界の文字の最初――人間界の文字に置き換えたときには、EMETHの頭文字Eにあたる部分に、セレナの剣が突き刺さる。


「ゴォオオオオオ…………!」


 攻撃を受けたゴーレムは断末魔の叫びをあげ、その場に崩れ落ちる。


 白い部屋の中央に倒れた巨大な土の人形はやがて土とも砂ともつかぬものに変わり果て、二度と復活することはなかった。


 これには下にいた澪やなゆた、結界を解いてへばっていた来果、そして攻撃をしたセレナ自身でさえ半信半疑な様子だった。


「勝った……?」


「でも……」


「いったい……」


「どうして!?」


 よしっ!


 やはり俺の思った通り!


「ヘブライ語で〝真理〟を意味するEMETHから、頭文字Eを取り除けばMETHになる。METH……ヘブライ語で〝死〟のことだよ! 不死のゴーレムの倒し方にしちゃ、つまんねえ言葉遊びだったなぁ! フハハハハハハ!」


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