49. 第一の試練
目が覚めると、そこは白い部屋だった。
天井も壁も床も、全てが真っ白だ。
窓はなく、ぴったりと閉じたドアが前方にひとつ見えるだけ。
「ここは……どこだ……?」
俺たちは確か、みんなで山奥の遺跡にいたハズ……。
なのに、何だってこんな近代的な白い部屋の中にいるんだ?
「あ……」
俺はそばに他の四人――セレナ、来果、澪、なゆたも倒れているのに気づいた。
四人とも、まだ意識を失っている。
「おい、お前ら起きろ」
俺はすぐに彼女たちの身体を揺すった。
みんなはすぐに目を覚ましたが、
「あれ? ここは……?」
「何ですか? ここ!?」
「どこ……?」
「ええ!? 私たち、さっきまで遺跡にいたよね!?」
と、混乱の声が渦巻くだけで、何の解決にもならなかった。
「ルナさん、ここどこですか!? 何で私たちはこんなところに!?」
セレナはパニックになりかけていた。
「俺だって知らねえよ。気づいたらこの白い部屋の中にいたんだ」
くそっ! 一体どういうことだ!?
確か来果が遺跡に足を踏み入れたとき、地面に巨大な魔法陣が現れて、そこから湧き出た光に俺たちは包まれて……。
そういえば、あの時、何やら妙な声が聞こえたような気がする。
そう、確か、試練の扉がどうしたとか……。
その時だった。
遺跡で聞いたのとは少し違った、子供のような声が白い部屋の中に響いた。
「『五人の魔法少女の皆さん!』」
『!?』
全員が、一斉に声のした方――天井を見上げる。
スピーカーでも設置してあるのかと思ったら、そうではない。
そこにはただ白い天井が広がっているだけで、他には何もなかった。
まるで、天から声が降ってくるみたいだ。
天の声は言葉を続ける。
「『精霊界の代理戦争・ウォーゲームの隠しステージにようこそ!』」
「何!? 隠しステージだと!?」
俺は思わず叫んだ。
それに今、この代理戦争のことを〝ウォーゲーム〟と言ったな。
確か俺が最初に倒した精霊・バビロンがこの戦いのことをそう呼んでいたから、それが正式の名称だとは何となく気づいてはいたが……。
って、今はそんなことどうでもいい!
問題はこの隠しステージとやらがどんなモノなのか、だ!
俺は天からの声を聞き逃さないように精神を集中させた。
「『ここではあなた方に五つの試練を課します。五つすべてをクリアできれば、素敵な魔法アイテムをプレゼントします。それがあれば、今後の戦いを有利に進めることができるでしょう』」
何っ!? 魔法アイテムがもらえるのか!
そうか、わかったぞ! つまり、これは魔法アイテムを手に入れるためのボーナスステージってわけだ!
「『ただし!』」
天の声が語気を強めた。
「『強大な見返りには、必ず強大なリスクが付きもの! これから行われる五つの試練は、それぞれ 死人が出てもおかしくない程の危険なものです! くれぐれも注意してくださいね! なお、ここであなた方が死んでも、マナ・クリスタルはあなた方の精霊のもとに戻るだけなのでご安心を!』」
……つまり、考えたくはないが、ここで死人が出ても、国の領土が減るわけではないらしいな。
「どうします? ルナさん」
セレナが不安そうな顔で訊いてきた。
「どうするって何が?」
「この試練ですよ! 受けるべきだと思いますか?」
「愚問だな。魔法アイテムが手に入れば、それだけで戦いは断然優位になる」
「ちょっと待って! 私は反対!」
なゆたが割って入ってきた。
「これはあくまでもボーナスステージなんでしょう? 本来の戦いとは関係がないじゃない! 魔法アイテム欲しさにそんなに危険な試練を受けるなんて間違ってるよ!」
「そうです! 私もなゆたさんの意見に賛成です!」
「セレナちゃん、ありがとう!」
「いえ、そんな……」
ちっ、セレナとなゆたは穏健派同士、気が合うってわけか……。
「お前らはどうなんだ?」
俺は残りの二人――来果と澪に尋ねた。
「来果はルナ先輩にどこまでもついて行きます!」
「私はどっちでも。ただ、魔法アイテムは欲しい。この戦いを早く終わらせるためにも……」
そんな風に、俺たちが試練を受けるか否かの話し合いをしていると、天の声はそれをあざ笑うかのように、
「『あはははは。相談しても無駄ですよ。ここに入った時点であなた方に拒否権はありませんから』」
『っ!?』
……どうやら、逃げ道はないらしいな。
「お前たち、覚悟を決めろ! ステッキを出せ!」
俺の合図と共に、皆が変身の呪文を唱える。
「知恵と闇の力を持つ杖よ、汝が主、ルナの名のもとに、その力を示せ!」
「希望と光の力を持つ杖よ、汝が主、セレナの名のもとに、その力を示せ!」
「純真と時の力を持つ杖よ、汝が主、来果の名のもとに、その力を示せ!」
「合理と氷の力を持つ杖よ、汝が主、澪の名のもとに、その力を示せ!」
「友愛と虚無の力を持つ杖よ、汝が主、なゆたの名のもとに、その力を示せ!」
変身、完了。
全員戦闘モードだ。
「行くぜ、お前ら!」
『おお~!』
「『それでは最初の試練、いきますよ~!』」
天の声と共に、部屋の中央に魔法陣が現れる。
そこから出現したのは――。
「ゴォオオオオオオ!」
雄叫びをあげる巨体。
身長はおそらく3メートル以上あるだろう。
腕も、脚も、胴体も、岩のようにゴツい。
「こ、こいつは……!」
「『第一の課題:このゴーレムちゃんを倒してくださ~い!』」




