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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
46/98

46. 魔法アイテム

 バーナードの国との戦いから一夜が明けた土曜日の朝。


 俺はセレナと来果を自宅に呼びよせた。


 俺を含めてメルヴィルの国の魔法少女三人が一堂に会していることになるが、この場にいる精霊はメルヴィルではない。


「ニャー! 本がいっぱいだニャー! ぬいぐるみがいっぱいのなゆたの部屋とは大違いだニャー!」


 セレナの肩から飛び降りたルーニャは物珍しそうに俺の部屋を眺め、感嘆の声を上げている。


 俺たち魔法少女の戦いにおいて国同士が互いに疑心暗鬼に陥ることなく同盟関係を構築する現状唯一の方法――それがお互いの精霊を交換する〝マスコットキャラクター交換〟だ。


 領土を拡大し、軍事力の強化を図るべく、俺たちメルヴィルの国となゆた達ルーニャの国は昨夜、同盟を結んだ。その結果、ルーニャは俺たちが、メルヴィルはなゆた達がそれぞれ〝飼う〟ことになった。


 とりあえず、昨日の夜はルーニャをセレナに預かってもらっていたのだが……。


「さて、お前らをここに呼んだのはほかでもない。今後の方針についての話し合いだ。俺たちが当面やるべきことは三つある。来果、それがなんだかわかるか?」


 来果は授業中教師に当てられた時のように真っ直ぐ手を上げて、


「はい! とりあえずは、新しい魔法少女を任命することです!」


「そうだ。澪がリカを倒したことで、ルーニャはマナ・クリスタルを一つ持っている。本来なら、これはなゆた達がやるべきことだが、マスコットキャラクター交換により、俺たちが代行してやることになった。逆に、俺がマキを倒したことでメルヴィルもマナ・クリスタルを持っているが、それを使っての魔法少女の任命はなゆた達が代行する。精霊を交換することで同盟関係を維持している以上、魔法少女の任命の度にいちいち精霊を戻していては、体制が安定しないからだ。じゃあ、セレナ。残りの二つのやるべきことは?」


 セレナも来果同様、手を上げて、


「はい。まず一つは、このルーニャという精霊を隔離する場所を探すことです」


「そう。なゆた達と同盟を結んだ以上、あいつらにルーニャの居場所を知られるわけにはいかない。もしも居場所がバレてルーニャを奪還されたら、あいつらは俺たちをいつでも裏切ることができるんだからな。こいつを飼う場所は真剣に検討しなければならない」


 と、まあ、ここまでは前回の復習。


 セレナたちが作戦を理解できているのかの確認みたいなものだ。


 じゃあ、当面やるべきことの三つ目は俺から発表しよう。


「正直、今お前たちが挙げた二つ――魔法少女の任命とルーニャの隔離場所の確保はそこまで急がなくてもいい。任命の期限まではまだ12日以上あるし、なゆたや澪が今すぐここを襲撃してルーニャの奪還を図るとは思えないからな。問題はこいつだ」


 俺は机の引き出しからこぶし大の黒い宝石を取り出し、床に放った。


「この石の使い方が当面の問題だ」


 俺がこの石を手に入れたのは、昨夜のこと。


 なゆたに小学生呼ばわりされてキレかけていた時だった。




   ☆☆☆☆☆




「ルナさん! あれ!」


 なゆたに即死魔法を放たぬように俺を羽交い絞めにしていたセレナが、何かに気づいた。


 彼女と同じ方を向くと、そこには先ほど倒したマキの死体があって、その服から何やら黒く輝く宝石のようなモノが浮き出ていた。


「なんだ、あれは……?」


 マキのマナ・クリスタルは既にメルヴィルが回収したはず……。


 っ! まさか、これは!


『魔法アイテムだワン(ニャー)!』


 メルヴィルとルーニャが同時に叫んだ。


 やはり、そうか! 


 以前、セレナと山で魔法の練習をした時にメルヴィルが言っていたステッキに新たな魔法を登録するのに必要なアイテム!


 セレナが持っていた古めかしい本以外の物を見るのは俺も初めてだが、これがあれば使える魔法を増やせる!


 セレナと来果を振りほどき、一目散に魔法アイテムに駆け寄る。


 が、俺よりも早く、澪の華奢な手が黒い宝石へと伸びた。


「何しやがる、澪! それは俺の!」


「こういうのは早いもの勝ち…… きゃっ! 」


 黒い宝石に触れた澪の手が、まるで静電気を帯びた鉄球でも掴んだかのようにはじかれる。


 宙に浮いた黒い宝石はゆっくりと動き出し、俺の目の前まで来ると、重力があるのを思い出したかのように、ストンと手のひらの上に落ちてきた。


「どうして? 私のほうが早かったのに……?」


 澪は狐につままれたような目で、俺の手に収まった黒い宝石を見つめる。


「ダメだニャー、澪。その魔法アイテムはルナのものだニャー」


「っ!? どういうこと!?」


「魔法アイテムの所有権はそれを最初に見つけた魔法少女にあるのニャー。そして魔法アイテムを所持した魔法少女が殺された場合、その所有権は殺した魔法少女に移転するのニャー」


「つまり、その黒い宝石はマキを殺したルナのものってことだワン」


 二匹の精霊にそう説明され、澪は悔しそうに唇を噛んだ。


「もっとも、所有権の放棄・移転は所有者の自由だワン。だから、ルナが自分の意思でそれを澪に渡すのは全然構わないワン」


 なるほど。つまり、民法的な意味の〝所有権〟と同じってわけか。自分のものである以上、処分は自由ってわけだ。


 だが……、


「澪には悪いが、せっかく手に入れた以上、所有権は手放さないぜ。これは俺のもんだ」


「……好きにして」


 こうして俺はマキを倒した戦利品として、偶然奴が所持していた魔法アイテムを手に入れることができた。


 棚からぼた餅とはまさにこのことである。



   ☆☆☆☆☆




 以上、回想終わり。


 思わぬ魔法アイテムの入手に、昨夜は 諸手を上げて喜んだものだが……。


 実はこのアイテムにはとんでもない欠陥があった。


「さあ、教えてもらおうかルーニャ! この石はどうやったら発動するんだ!」


 そう――。


 昨夜から、握りしめたり、水に浸けたり、ステッキにかざしたりしてみたが、ステッキに魔法が追加される様子は一向になかった。


 つまり、俺にはこのアイテムの使い方が全くわからなかったのだ!


 だからこそ、今日、朝一番にセレナに精霊をここに連れてきてもらったのだが……。


 ルーニャの答えは全く役には立たなかった。


「ごめんニャー。それは俺っちにもわからないのニャー」


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