41. その手があったか
「なぜだ!? どうしてあの二人はルナの味方をしている!? この戦いにおいて、違う国の魔法少女同士が手を組む要素なんて無いハズなのに!」
マキは額から汗を流して固まっている。
まあ、無理もない。
マキはステッキが壊れて魔法が使えないし、なゆたと澪がこちら側についたこの状況では、実質的に5対1!
この人数を相手にリカ一人ではどうすることもできない!
バーナードの国は殆ど四面楚歌だ!
こうなってしまえば俺の思惑の半分は完成。
こいつらがこの後、どういう行動に出るかは手に取るようにわかる。
「……ちぃ。癪だが、ここは逃げるしかないね」
マキはリカの傍まで行くと、彼女の手を握った。
やはり、そう来るか。
だが、逃がさないぜ!
「ふん。逃げられるとでも思っているのか?」
「ははは。忘れたのかい? このリカには瞬間移動の魔法があるんだよ。いくらアンタらが五人いようが、一瞬で離れたところに移動されたら追ってこれないだろぉ!」
「そういうこと☆ 残念でした☆」
勝ち誇ったように哄笑する二人に、俺は言い放つ!
「ふははははははは! やっぱり、馬鹿だよ。お前ら」
「何だとぉ!」
「マキ、お前が犯した最大のミスを教えてやる。それは、これだぁ!」
憤るマキに対し、俺は澪の方を指差した。
「…………」
澪は無言のままで、左手で鷲掴みにした「それ」をマキたちに見せつける様に突き出した。
『っ!?』
マキとリカに動揺が走る。
「ば、バーナード!? 何やってんだいアンタ!?」
「ピィー……。ごめんっピー。掴まってしまったっピー」
この鳥型の精霊を捕獲したのは俺の指示だ。
なゆた達に作戦を話す直前に逃走しようとしたので、澪に捕まえるように頼んだ。
「どうだ? これでも逃げることができるか?」
「あはははははは! それで勝ったつもりかい、ルナァ? 笑わせんじゃないよ! 人質……いや、鳥質のつもりだろうが、残念だったねぇ。あんたらは知らないんだろうが、この戦いでは精霊が殺されても、その精霊の国から、代わりの精霊が派遣されることになってるのさ。つまり、ここでバーナードが殺されようが、アタイやリカは全く困らないってことだよ。新しく派遣された精霊が代わりになってくれるからねぇ。煮ようが食おうが、焼き鳥にしようが好きにするがいいさ」
「そういうこと☆ まあ、バーナードには気の毒だけど、ここは見捨てる以外の選択肢はないって感じ~☆」
「そ、そんなっピー! お前ら酷いっピー!」
バーナードが鳴きわめく。
同情するぜ、クソ鳥。
だが……、
「勘違いするなよ、お前ら。誰がこの鳥を殺すと言った?」
「何!? どういうことだい、ルナァ!」
「ふん。精霊が死んでも代わりの精霊が派遣されるってことは俺もメルヴィルから聞いて知っていたさ! 俺はこの鳥に何もしない! ただ、人の目につかない所に永遠に閉じ込めて、一切の外界との接触を断つ!」
「? それが一体―― っ!」
俺の言葉に、マキは一瞬戸惑いながらも、すぐに自分たちがどれだけマズい状況に陥っているのかを悟ったようだった。
「ああああああああ! しまった! その手があったか!」
ふん。すぐに気づく当たり、こいつもそれなりに頭は回るようだ。
だが、もう一人の方はそうでもないらしい。
「どういうこと☆ 意味わかんなーい☆ マキちゃん、早く逃げようよ☆ 呪文唱えてもいいよね☆」
「馬鹿! やめな! ここで逃げたら、アタイたちは二度と領土を増やせなくなる!」
「え☆ どういうこと☆」
リカはまだ状況がわかっていないようだった。
やれやれ、仕方がないな。
「俺が代わりに教えてやるよ、リカ。魔法少女になるには、精霊からマナ・クリスタルを貰って契約をする必要があるってのはわかるな?」
「うん☆ だけど、それがなんだっていうの☆」
「じゃあ、人間の少女と契約しなきゃいけない精霊が、人が誰も寄り付かないような場所にずっと閉じ込められたらどうなると思う?」
「え……? あっ―― !」
ようやく気付いたようだな、リカァ!
「そう! 俺はこの鳥を今後一切人間の少女と接触させない! そうすりゃ、お前らの国は今後、新たに魔法少女と契約を結ぶことができなくなる!」
「っ!? それって本当なの、マキちゃん!?」
「ああ。新しい精霊が派遣されるのは、あくまでも前の精霊が死んだ時だ。殺されずに隔離されちまったら、どうしようもない。しかも、それだけじゃない!」
そう、マキの言う通り。
精霊が敵に監禁される弊害はそれだけじゃない。
「お前らも知っているだろ? 新たにマナ・クリスタルを手に入れた場合、13日以内に精霊は人間の少女と契約しなければならない。そうしなければ、そのマナ・クリスタルの所有権は放棄されたとみなされ、地球上にいる少女の一人に渡り、その少女と最初に契約した精霊のモノになる」
「っ☆ ってことは~☆」
「そう。このままバーナードが隔離されれば、この先、お前らがいくら他国の魔法少女を殺してマナ・クリスタルを得ようと、14日後にはどこか見知らぬ少女の元に飛んで行ってしまう。仲間を増やせない上に、いくら敵を倒しても、敵の数は永遠に11人のまま動かないんだよ!」
「ヤバイじゃん! マキちゃん、どうするの!?」
「うるさいな! アタイだって、今必死に考えてんだ! けど、まさか、こんな手でアタイたちを追い詰めてくるなんて! くそう! バーナード、そいつから逃げることはできないのかい!? もっと必死に暴れな! 」
澪に鷲掴みにされたバーナードに向かって、マキがヒステリックに叫んだ。
「だ、そうだが? バーナード。逃げようと思えば逃げられるだろ? 澪はそんなに力を入れてないハズだぜ?」
「ピィー……」
「何してるんだい!? バーナード! 何故逃げない!?」
「フハハハハハハ! 逃げられるわけねえよなぁ! なぜなら、お前ら精霊は俺たち魔法少女の戦いに干渉できない! 偵察や見張りならともかく、こういった戦いの局面を左右する重要な場面において、自ら主体的に行動することは許されない! つまり、精霊は敵に捕らえられた段階で一切の抵抗ができないんだよ!」
「っ! 」
「っ! 」
「マキ、リカ! 逃げたければ、逃げろ! ここでお前らが逃げたら、バーナードの国は完全に行動不能になるぞ! 仲間をこれ以上増やせぬまま、戦いの中で他の国に潰されるがいい! もしくは―― 」
俺は澪、なゆた、セレナ、来果、そして自分自身を順に指差して、
「ここにいる五人の魔法少女を一度に相手にしてバーナードを奪還してみせるかぁ? フハハハハハハ! 」
「このクサレ外道がぁああああああああああ!」
マキの怒声がその場に木霊する。
これで、こいつらに残された選択肢はただ一つ。
だが、今から予言しよう。
それを選んだ瞬間、バーナードの国は完全に死に絶える!




