37. マキズ・ドルアムズ
俺がリカの瞬間移動魔法についての嘘を見破ると、マキは開き直ったように俺に攻撃を仕掛けてきた。
「ちぃ! おしゃべりが過ぎたねぇ! アンタらがアタイの獲物を横取りした犯人ってこともわかったし、遠慮なく最強魔法でぶっ飛ばさせてもらうよ! くらいな! 〝マキズ・ドルアムズ!〟」
呪文とともに、マキのステッキが姿を変える。
先端部分が円錐の形に変化したかと思うと、まるでロケットが打ち上げの時に白煙を吐き出すように、鉄鎖を伴ってステッキの柄から分離した。
打ち上げられた円錐は、上昇するにつれて徐々にその大きさ、質量を増していく。
放物線を描いて地面に落下した時には、高さは俺の背丈の倍はある巨大な鋼鉄の塊となっていた。
耳をつんざくような轟音と共に、その円錐は回転している。表面には、鋭利な刺がついており、触れた者の肉を裂き、骨や内蔵をもズタズタに破壊してしまうのが容易に想像できる。
それくらい、凶悪な武器だった。
「これは……何だ……」
ドリル? ミキサー?
いや……そのどちらでもない。
これは、多分……。
「独楽……なのか? 子供が回して遊ぶ、あの……」
「その通りさ。これがアタイの最強の魔法――鋼鉄の殺人独楽さ!」
「ぐ……」
子供の遊び道具の独楽とはかけ離れた、禍々(まがまが)しい巨大な鋼鉄の塊が俺に襲いかかる。
ステッキの柄の部分に繋がる鉄鎖のおかげで、マキがある程度操ることができるのだろう。
さっきのメイシアとかいうモーニングスター型の魔法と同じように、ステッキと魔法が一体化している近接武器に分類されるだろうか。
だとすると、やはりこいつは近接武器使いか!
「ちっ……」
まさかマキの野郎が、こんな馬鹿デカイ魔法を持っていたなんて!
とにかく、今はなんとしてもこの独楽を止めなければ!
「行けぇ! 蛇どもぉ! 〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアア!(訳:ルナ様のために~!)」
「蛇どもよ、あの独楽の回転を止めろぉー! 」
「フシャアアアアアアアアア!(訳:我らが命に代えても、ルナ様!)」
何匹もの蛇が幾重にも、まるで毛糸玉のように、回転する鋼鉄の独楽を包み込む。
「止められたか!?」
「ふん! アタイの最強の魔法を甘く見るんじゃないよ!」
次の瞬間――。
「ギャアアアアアアアアア!」
蛇どもが、肉片となって飛び散る。
まるでミキサーにでもかけられたかのように……。
くそ! すまない、蛇ども……! ミンチにされちまうとは、俺の判断ミスだ……!
蛇たちの身体を切り刻んだ独楽は、まだ回転している。
いや、それどころか、全く回転の勢いが衰えていない!?
ちっ……。やはり、蛇の呪文じゃ攻撃力不足か……。
ならば、こちらも一番強い魔法で対抗するしかない。
魔力を最大限に練りこんだ闇の魔導波。
こいつであの独楽を破壊してやる!
「闇の魔導波よ、敵の魔法を粉砕しろ! 〝マギア・テネブラム!〟」
闇の魔導波が轟音を鳴り響かせて回転する鉄の塊に激突する。
『いっけえええええええええええ!』
俺とマキの声が重なる。
ほとばしる熱気。
マギア・テネブラムとマキズ・ドルアムズ。
互いの待てる最強の魔法同士の激突。
火花の閃光が夜の闇を切り裂く。
力と力の拮抗により大地は震え、粉塵が巻き上がった。
永遠に続くかとも思えたその衝突は、突然終わりを告げた。
バシュン!
鋼鉄の独楽の回転で、闇の魔導波がかき消された。
「何っ……!? マギア・テネブラムが力負けしただと!?」
「はっ! 闇の魔導波ごときで、鋼鉄の独楽を打ち破れると本気で思っていたのかい!?」
「ぐ……」
「少し威力は衰えたけど、あんたを殺すには十分だ」
マキが、鋼鉄の独楽を操り、俺に嗾ける。
「これで死にな!」
「うわあああああああああああ!」
鋼鉄の独楽が、俺の身体を切り刻まんと迫って来る。
もしも、あの回転に巻き込まれたら、蛇たちと同じようにミンチになっちまう!
まずい! このままじゃ、殺られる!
どこか逃げ道はないか!?
どこか!?




