36. 推論戦
「紫苑総合病院って、廃病院に集まってた不良どもを殺したのはアンタ達かい?」
「な――」
どうして、こいつがあの病院のことを――?
「その反応……やっぱりあいつらを殺したのはアンタらなんだね?」
「ふん。だったら、どうだってんだよ。まさか、あの中にお前の恋人でもいたって言うんじゃないだろうな?」
「恋人ぉ? あっはっはっは!」
マキは腹を抱えて笑った。
「そんなふざけたもんアタイにいるわけないだろぉ? こう見えてもアタイは硬派で通ってるんだよ。魔法少女になる前は、レディースのヘッドをやってたくらいさ」
レディース……女の暴走族か。見た目通り過ぎて、驚きも何もないな。
「あの病院に屯ってた不良連中には、レディース時代に少々借りがあってねぇ。近々、お礼に乗り込んで皆殺しにしてやろうと思ってたところだったのさ」
……ようするに、不良同士の昔のいざこざに、魔法で報復して決着をつけようとしていたってことだろう。
「なるほどな。それなのに、俺たちに先を越されたってわけか」
「まあ、そういうことさ。警察は誤って仲間を殺しちまったことを後悔しての自殺だなんて発表していたけど、あの連中を知っているアタイからすりゃ、奴らが人を殺したことを悔いて自殺するなんて、到底信じられなかった。どんな魔法を使ったかは知らないが、警察を騙すなんて、なかなか見事な偽装工作だったねぇ。でも、アタイはすぐにピンときたよ。これは魔法少女の仕業に違いないってね」
「…………」
「それ以来、アタイはあの病院がある街とその周辺をバーナードに調べさせていたのさ。そしたら、その街で銀行強盗があった日、現場の近くでそこのメルヴィルとかいう精霊と一緒にいるアンタらを見つけてくれてね」
「なんだとっ!?」
くそ……迂闊だった。
まさか、あの現場をあの鳥に見られていたとは……。それで、俺たちの身元がバレ、今回、ここに先回りをされ……。
……いや、待て。
おかしいぞ。
確か俺たちはあの時、すぐにセレナの呪文で透明化し、誰にも見られないように廃工場に向かったはず。銀行の付近で俺たちを目撃したとしても、あとを追うことはできない。
一回姿を見ただけでどうやって身元を特定したっていうんだ?
混乱する俺を尻目に、マキは話を続けた。
「調べれば調べるほど、あの銀行強盗事件は奇妙だったねぇ。警察が突入する前に中にいた強盗団が全滅してるし、主犯格の男も、少し離れた場所にある廃工場で死んでいるのが見つかるってる。これもアンタらの仕業だったんだろ?」
「…………」
「でも、おかげで一つ確信したことがあったよ。あの強盗事件は発生後、かなり早い段階で解決していた。テレビのニュースで籠城の中継が取り上げられるような暇もなくね。つまり、アンタらは事件を知ってから現場に駆けつけたんじゃなく、事件が起きる前、最初からあの銀行内、もしくはその近辺に偶然いたってことになる」
っ! なるほど、そういうことか!
こいつ……! 見た目は馬鹿そうなナリをしているが、なかなかデキるじゃねえか!
「なるほど、それでお前は俺たちがあの場所に気軽に出かけられる区域に住んでいるんじゃないかと考え、あのバーナードとかいう鳥を使って、俺たちをもう一度見つけたんだな!」
「その通り。小学生から中学生くらいの女が三人ってバーナードは言ってたからねぇ。あの辺りの小中学校を片っ端から調べさせたのさ」
「捜索範囲さえわかれば、一度顔を見ているから、お前らを見つけるのは簡単だったっピー!」
バーナードが闇夜を旋回しながら胸を張る。
ウゼェ。魔法で撃ち落としてやりたいが、こんな鳥ごときのために、魔力を無駄使いできない。
「ここまで言えばもうわかってると思うけど、この場所に先回りできたのは、アンタらが数日前に下見に来ていたのをバーナードが空から見ていたからさ。その時の会話で日時もしっかりわかった」
「…………」
「アンタらは随分用心深く三人で行動を共にしていたみたいだったからねぇ。一人になったところを闇討ちするのは諦めて、正々堂々、真正面から戦いを挑んだってわけさ。もっとも、人数的にはこっちが不利だから、リカの魔法でパーティーを分断させてもらったけどねぇ」
パーティーを分断……。
その言葉で、セレナと来果がここにはいないことを改めて自覚する。
「一人きりの戦い、か……」
「そうさ! あんたは一人で戦うしかないんだよ! 今頃、あいつらは遠~くの方まで飛ばされて戦ってるさ! とても助けになんて来れないくらい遠くにねぇ!」
そう言って、マキは哄笑する。
……俺も、舐められたもんだな。
「ふん! 俺を不安にさせて戦意をそごうって作戦なら、もっとマシな嘘を吐きやがれ!」
「っ!? な、何が!? 何が嘘だっていうんだ!?」
「断言してやる! セレナと来果はそんなに遠くには行っちゃいねえ! 飛ばされたのはせいぜい数キロ! 飛行魔法を使えば、すぐに飛んで来られる距離だ!」
「な、何を根拠に……」
「ちょっと考えればわかることだ! リカとかいうお前の相棒の魔法がどこにでも遠くに瞬間移動できるなら、極端な話、セレナたちを地球の裏側にでも置き去りにして、自分はここに戻ってくればいいじゃねえか! そうすりゃ、2対1で俺との戦いを有利にできる! それをしないってことは、あの瞬間移動の魔法には、距離制限か使用回数制限のどちらかがあるということ! だが、リカはこの戦いが始まってすぐに、二回もあの魔法を使っている……となると、距離制限があるという説が濃厚! しかも、その距離はセレナたちがここに戻って来ようと思えば、すぐに俺を助けに駆けつけられるくらい短い! だからこそ、リカは今も二人がここに来ないように足止めをしている!」
「ピィイイイイイイ! こいつすごいっピー! 大当たりだっピー!」
「黙りな、バーナード! わざわざ正解だって教えるんじゃないよ!」
マキが鳥の精霊に怒声を浴びせかける。
やはり、俺の思った通りだったか。ようやく確信が持てたぜ。
これでこの戦いに本腰を入れられる!
マキさえ倒しちまえば、すぐにでもセレナたちに合流できるんだからなぁ!
「ちぃ! おしゃべりが過ぎたねぇ! アンタらがアタイの獲物を横取りした犯人ってこともわかったし、遠慮なく最強魔法でぶっ飛ばさせてもらうよ! くらいな!」
マキのステッキが強い光を発した。
く、来る! 強力な魔法が!
「〝マキズ・ドルアムズ!〟」




