34. 二組ともピンチ!
鵺明け執筆の為、従来の読者様用の方は今週もお休みです。
「りゃああああああ! 」
マキと名乗った敵の魔法少女が、棍棒に変化させたステッキで殴りかかってくる。
「〝ビアブルム!〟」
間一髪、ステッキを箒に変え、俺は闇夜の空に舞い上がった。
「ちっ! 飛行魔法か! 箒で空を飛ぶなんて、随分可愛い魔法を使うじゃないか!」
マキがギラついた目でこちらを見上げる。
さっきまで俺がいたコンクリートの地面には、敵のステッキの先端部分――刺付きの鉄球がめり込んでいた。
長さ八十センチくらいの棍棒の先端に、金属を付けた武器……メイスか!
メイス……。
日本語では鎚鉾という名のこの武器の発祥は、中世ヨーロッパ。
あの時代の騎士が身を包んでいた鉄の鎧に対抗すべく、鎧を砕き、ダメージを与えることができる武器として開発された、と何かの本で読んだことがある。
ゴルフクラブなんかがそうであるように、先端に重さが偏っている棒状の物体は、武器に使用した場合、遠心力でかなりの威力が出る。
そのパワーをもってすれば、こんなふうに、コンクリートの地面を砕くくらい朝飯前だ。
流石は甲冑の上からでも人間を殴り殺せるように作られた画期的な武器だけのことはある。
だが! 所詮、それは800年も前の話!
飛び道具が発達した現代では時代遅れの骨董品だ!
マキから十分距離を取った位置に着陸し、箒をステッキに戻す。
この距離なら、メイスのような近接武器は意味をなさない!
加えて、こちらには離れた位置からでも敵を攻撃できる魔法があるぜ!
闇の魔導波よ! マキの野郎を吹っ飛ばせ!
「〝マギア・テネブラム!〟」
「ちっ!」
ドゴォン!
闇の魔導波によって大破したのは、マキの背後にあった倉庫の入口だった。
マキ自身は、とっさの判断で真横に飛び、直撃を避けていたようだった。
「ははは!」
衝撃波で地面に転がったマキが、不気味な笑みを浮かべながら、むくりと起き上がる。
「いい魔法持ってるじゃないのさ! 惜しかったねぇ!」
「ちっ! かわされたか!」
まあいい。
問題は、あいつが次にどう出るかだ。
箒の魔法や剣の魔法がそうであるように、ステッキを武器等に変化させるタイプの魔法は、一度変化させたステッキを再び元に戻さなければ他の魔法は使えない。
さあ、どう出る!?
この距離なら、近接武器のメイスは役に立たない!
距離を詰めようとこちらに近づいてきたり、他の呪文を唱えるためにステッキを元に戻したりすれば、その隙をついて、即死魔法であの世に送ってやる!
「ふん。今度はアタイの番だよ。これをくらいな!」
マキはメイスの状態のまま、ステッキを頭上に高々と振り上げる。
何をするつもりだ!? そんな短い武器じゃ、ここまでは届かな……。
「やぁあああああ!」
鉄球の部分が柄から離れ、鉄鎖が伸びる!
「なんだと!?」
メイスの先端、刺のついた鉄球がこちらに飛んでくる。
「ごぶっ……!」
巨大な刺付き鉄球をモロに胴体に喰らった俺は、後方に吹っ飛ばされた。
「ピィー! やったっピー! 直撃だっピー!」
敵の鳥型の精霊が、上空で喜びの舞を踊っている。
くそ、ムカつく鳥だ……。
ルーナ・モルテムで撃ち落としてやりたいが、喰らったダメージが大きく、起き上がることさえできない。
「ルナ! 大丈夫ワン!?」
メルヴィルが顔を真っ青にして駆け寄ってきた。
「……大丈夫だ。お前は安全な所にいろ」
「で、でも、血が出てるワン!」
「刺がちょっと刺さっただけだ。急所は外れてる。心配するな」
俺はふらつきながらも何とか立ち上がり、ステッキを構え直した。
「はぁはぁ……」
荒れる息で、地面に転がる鉄球を観察する。
刺に俺の血をベットリと付けたその鉄球は、マキの右手に握られているステッキと鉄鎖で繋がっていた。
「ちくしょう……。俺としたことが、とんだ勘違いをしていたぜ……!」
あいつの武器はメイスなんかじゃなかった。
棍棒の中に仕込んだ鎖で、先端の刺付き鉄球を相手に飛ばす武器……。
「モーニングスターか!」
「ご名答。ふん、あの攻撃喰らってまだ立ち上がるなんて、やるじゃないのさ」
マキがグリップの部分を勢いよく振り上げると、掃除機のコードのように自動で鎖が回収され、先端に鉄球が戻った。
「まあ、でも、もう立っているだけでやっとのようだねぇ。あんたの仲間も今頃、リカの奴が殺しちまってるだろうし、こりゃ今晩は一気にマナ・クリスタルが三つもゲットできそうだよ」
そうだ……。
セレナと来果……。
あいつらはちゃんと戦えているのか……?
☆☆☆☆☆
その頃、セレナと来果及びバーナードの国の魔法少女リカは、ルナ達が戦っている倉庫街とは海を挟んで真向かいにある対岸の陸地で戦闘を行っていた。
「〝アンデュ・ライティア!〟」
「〝デュア☆トランシア!〟」
セレナの放った光の波動に対し、リカは自分の目の前に魔法陣を出現させた。
「あれは……汎用防御魔法?」
セレナがそう考えたのも無理はない。
リカが出した魔法陣は、確かにシルディアに似ていた。
だが、シルディアが魔法陣全体に文字や図形が描かれているのに対し、リカの魔法陣は真ん中の部分がドーナツのようにごっそりと抜け落ちているのだ。
セレナの光の波動は、その穴の中に吸い込まれていった。
「そんな、アンデュ・ライティアが消えた!?」
「セレナ先輩! 後ろ!」
来果の声で、セレナは振り返る。
そこには、さっきの魔法陣がもう一つ出現していた。やはりこちらも、真ん中にぽっかり穴があいている。
「まさか……!?」
セレナの悪予感は的中した。
その穴の中から、さっき自分が放ったアンデュ・ライティアが襲いかかってきたのだ。
「こ、これは相手の攻撃を別の場所に転移させる魔法!?」
呪文を放ったばかりで無防備な状態のセレナは、立ち尽くしたまま、どこにも逃げることができないでいた。
対抗手段が間に合わない。
「ダメ! やられる!」
オマケ:呪文紹介コーナー
今週の呪文
デュア☆トランシア: 場に出した二つの魔法陣の内、一つに相手の攻撃を吸収し、もう一つから、その攻撃をはき出させるぞ。




