33. メルヴィルの国vsバーナードの国
深夜の倉庫街。
俺たちメルヴィルの国の魔法少女は実験の最終段階として、近頃この場所で麻薬やら拳銃やらを密売しているというヤクザを討伐しに来た。
だが、そこに先回りして、ヤクザをひとり残らず始末していたのが……。
「オイラの言った通りだッピー! やっぱり来たッピー!」
「へえ☆ バーナードもたまには役に立つネ☆」
「まあ、そうでなけりゃ、とっくに焼き鳥にしてやってるけどね!」
喋る鳥に、妙な格好をした二人の女……間違いない! 敵の魔法少女だ!
「セレナ!」
「はい!」
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝アンデュ・ライティア!〟」
闇の魔導波と光の波動、俺とセレナの二つの攻撃魔法を容赦なく敵に浴びせかける。
側に積まれていたヤクザたちの死体もろとも吹き飛ばし、粉塵を巻き上げた。
「ピィー! 敵とわかるや否や攻撃を仕掛けるなんて、流石、三つも領土を持っているだけはあるッピー」
空を飛んでいたために被害を免れた敵の精霊が無感動にそう言った。
「でも、マキとリカを相手にするには、その程度の攻撃じゃダメだッピー!」
そいつの羽ばたきで土埃が巻き散った。
そこには、さっきの二人の姿は既に無かった。
「そんな!」
「消えた!?」
「どういうことだワン!?」
セレナと来果、そしてメルヴィルも驚いていたが、俺は見ていた。
攻撃が当たる直前、髪の長い方の女が何やら呪文のようなものを唱えていた。
二人の姿が消えたのは、その呪文の効果だ。
ならば!
「セレナ、来果! 今すぐ背中合わせになって、多方面からの攻撃に対処しろ!」
「は、はい!」
「わかりました!」
二人はすぐに俺の指示に従い、俺たちは三人で背中合わせになった。
この態勢なら、一人あたり120度の範囲を担当すれば、全方位からの攻撃に対処できる。
「へぇ~☆ すごいね~☆」
上からソプラノボイスが降ってきた。
見上げると、すぐ傍の倉庫の上に、先ほどの二人の姿があった。
「リカの魔法が瞬間移動だって即座に見破って、咄嗟に多方面からの攻撃に備えるなんて☆ 予定が台無しだね、マキちゃん☆」
「ああ、残念だねぇ。本当なら、慌てふためくお前らの背後から攻撃魔法を打ち込んでやるつもりだったのに」
マキと呼ばれた髪の短い女の方と、目が合った。
こいつの目、明らかにこの前戦った澪やなゆたとは違う。
平気で何人もの人間を殺してきたかのような、邪悪で冷たい目だ。
マキの方も、何かを感じ取ったのか、俺に話しかけてきた。
「そこの金髪の女。お前がそっちのチームのリーダーかい?」
「ああ。そうだよ」
「ふん。気に入らないねぇ。その何もかも見透かしたような、人を馬鹿にした冷めた目つき。気に食わないったらありゃしない」
「ふん。俺からすればお前のバカ面の方がよっぽど気に食わないぜ!」
「ちっ。とことんムカつくガキだね。おいリカ、アタイがあの金髪の女を殺る。残りの二人は任せるよ」
「は~い☆ オッケー☆ 〝リカル☆テレピア!〟」
呪文と共に、リカと呼ばれたギャルっぽい格好の女が姿を消す。
ちっ! さっきの瞬間移動の魔法か!
どこに行きやがった!?
「捕まえた~☆」
背後から、ムカつくソプラノボイス。
一瞬で俺の後方に移動したリカは、セレナと来果の腕を掴んでいる。
まさか!
「二人共、そいつから離れろぉ!」
「〝リカル☆テレピア!〟」
急いで二人に駆け寄ったが、遅かった。
セレナと来果は、リカと共に一瞬でどこかへ消えてしまったのだ。
「ハハハハ! これで邪魔者はいなくなったねぇ!」
倉庫の上のマキが嬉しそうに高笑いする。
「やっぱり喧嘩はタイマンじゃないと面白くないだろぉ?」
倉庫から飛び降りたマキは、ステッキを構え、呪文を唱えた。
「〝メイシア!〟」
たちまち、彼女のステッキが棍棒のようなものに形状を変える。
先端はトゲ付きの鉄球になっており、かなりの破壊力がありそうだ。
「殺り合う前に自己紹介といこうじゃないか。アタイはマキ。見ての通りの武闘派魔法少女さ」
けっ、どこが魔法少女だ。
イカれたSMの女王様にしか見えないぜ。
「俺はルナ。お前と違って見ての通りの可愛い魔法少女だよ」
オマケ:呪文紹介コーナー
今週の呪文
リカル☆テレピア: 術者及び呪文を唱えた時、術者が触れていた者を半径五キロメートル以内の任意の場所に瞬間移動させるぞ。
メイシア: ステッキを先端にトゲのついた鉄球になっている棍棒に変化させるぞ。




