30. 少女はどこに?
その後、セレナがアンデュ・ライティアで入口のシャッターを破壊したのをきっかけに、警察が中になだれ込んできた。
人質は無事救出され、気絶していた強盗団も一網打尽となった。
俺とセレナはその混乱に紛れて銀行の外に出た。人気の無い路地裏で透明化及び、魔法少女の変身を解くと、何食わぬ顔で銀行の前に戻り、救出された来果と感動の再会(?)を果たした。
「来果は信じてましたよ! ルナ先輩ならきっとあんな銀行強盗なんかやっつけてくれるって!」
「しっ! 静かにしろ! 俺たちがあいつらを倒したことは秘密なんだ!」
「あっ、そうなんですか? すみません」
「それにしても、どうしてルナさんから貰ったこのSОSブレスレットを使わなかったんですか? おかげで私、ルナさんから電話があるまで緊急事態だって気づかなかったんですから」
セレナが自分の手首のブレスレットを指差して尋ねた。
「あ、それがですね、実はこの通りなんですよ。あはは」
来果は困ったような顔で袖を捲り上げて、自分の左手首を見せた。
そこには、何もつけられていない。
「おい、俺がやったブレスレットはどうしたんだ?」
「まさか失くしたんじゃ……」
「来果がルナ先輩から貰ったものを失くすわけないじゃないですか! 失敬な!」
すごい形相で力説する来果であった。
「じゃあ、どうしたんだよ?」
「実は……」
来果が語るところによると、整理券を片手に順番を待っていた時、近くにいた六歳くらいの女の子が、物欲しそうな瞳で、来果のブレスレットを見ていたのだという。
そこで、順番を待っている間だけ、貸してあげたのだそうだ。
「――で、その後すぐにあの強盗団が乗り込んできたので、SОSを発信できなかったんです」
「つまり、今もブレスレットはその女の子が持ってるってことか。じゃあ、早くその子に返してもらってこいよ。その子も人質にされていたんなら、まだこの近くにいるはずだぜ」
「いえ、それが来果もさっきから捜しているんですが、見つからなくって」
「その子の親は?」
「あそこにいるオバさんです。あの、派手な格好をした人」
来果の指差す先を見ると、なるほど、確かに派手な格好をしたオバさんがそこにいた。
高そうな服に身を包み、馬鹿でかい宝石をあしらった指輪やら時計やら首飾りやらをつけている。
そのオバさんはオロオロした様子で、一緒にいた背広姿の屈強な男二人に、何やら訴えている。その男たちは彼女に軽く礼をして、どこかに駆け出していった。
来果がそのオバさんに近づく。
「あ、あの~」
「な、何よ!?」
すごい剣幕で睨まれる来果。
「ひっ! ごめんなさい! 娘さんに貸したブレスレットを返してほしいんですけど、娘さんはどこに?」
「っ!?」
その瞬間、オバさんは焦ったような表情を浮かべた。
そして、ヒステリックに叫ぶ。
「私に娘なんかいないわよ! 変な言いがかりつけないで! 」
「ええ!?」
これには来果も混乱したようだった。
「だ、 だって、あの子、オバさんのこと〝お母さん〟って呼んでたじゃないですか!? 来果があの子にブレスレット貸す時も、オバさん側にいましたよね!? 来果に〝ごめんなさいね。すぐに返すからね〟って言ってたじゃないですか!?」
「知らない! 知らない! 知らないわよ! 誰か別の人と勘違いしてるんじゃないの!? 用件はそれだけ!? なら私は失礼するわ!」
有無を言わせぬ調子でそう捲し立てると、オバさんはまるで来果とこれ以上関わると都合が悪いかのように、人ごみの奥へと消えていってしまった。
「何なんですか、今の……」
セレナがポカンとした様子で誰にともなく呟く。
「来果が聞きたいですよ。絶対あの人で間違いないのに」
まあ、確かにあれだけ派手な格好の人を他人と間違えるなんて普通はありえない。
じゃあ何で今のオバさんは、「娘なんていない」なんて嘘をついたんだ?
ブレスレットを返したくなかったからか?
馬鹿な。
あれは俺がそこらの安物を改造して作ったものだ。
あんな高そうな宝石をいくつも身につけている金持ちが欲しがるような物じゃない。
第一、来果がブレスレットを貸したっていうその女の子はどこに消えたんだ?
人質から解放されたのなら、普通は怖がってずっと母親にしがみついていそうなものなのに。
それにあのオバさんの慌てた態度……。
……っ! まさか!
「ら、来果! 強盗団が銀行に入ってきたとき、覆面姿の男は何人いた!?」
「え、え~と、確か五人だったと」
「五人だと!?」
「ええ。でも、それが何か……」
……そうか。
そういうことだったのか。
どうやらこの事件、まだ終わってないみたいだな!
☆☆☆☆☆
人目を避けるべく、ルナたち三人は、メルヴィルを連れて、近くの空きビルの中へと入っていった。
移動しながら、ルナは自分の推理を仲間に話した。
同時にこれからの作戦を伝える。
屋上に出ると、ルナと来果はセレナの服を掴んだ。
「セレナ、準備はいいぞ!」
「わかりました。いきますよ~! 〝クラルティア!〟 アンド 〝ビアブルム!〟」
セレナは透明化魔法と飛行魔法を続けざまに唱えた。
ステッキを変化させた箒に、全員で乗る。
セレナを間に挟んで、ルナが前、来果が後ろ、メルヴィルがセレナの頭の上となかなか豪快な三人乗りである。
だが、これならルナと来果の二人がセレナに体を密着させれば、透明化魔法の恩恵を受け、全員の姿を隠すことができる。
三人と一匹を乗せた箒は、地上に群がる警察と野次馬に気づかれることなく、大空の彼方へと飛び立っていった。
銀行強盗があった現場付近の上空を一匹の鳥が飛んでいた。
その鳥は最初、徐々に増えていく黒山の人だかりを眺めて、愉快そうに旋回していたが、とあるビルの上に、三人の少女と共に、見知った動物がいるのを見つけ、目を見張った。
「あれは……メルヴィルっピー?」
人の言葉を操るその鳥は、半信半疑ながらも目を凝らしてビルの屋上を見つめる。
すると、白いコスチュームに身を包んだ少女が何やら口元を動かした途端、彼女たちの姿が、屋上から消えた。
「ピィイイイイイイイ!!! 消えたっピー! 魔法だっピ―! 間違いないっピー! あれはメルヴィルとその 魔法少女だっピー!」
鳥は、思ってもみない収穫に心を弾ませながら、自分の配下の魔法少女のもとへと飛んだ。
喜びのあまり、歌い鳥の習性から、歌を口ずさんでしまう。
「ピ~♪ ピ~♪ ピ~♪ オイラの名前はバーナード~♪ だっピー!!」




