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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
28/98

28. 魔法が出ない!?

 さて、どうするか……。


 トイレの個室で息を潜めながら、俺は考える。


 いくら俺が魔法少女とはいっても、単身で銀行強盗たちの占拠するフロアに乗り込んだら、蜂の巣にされかねない。


 相手が何人いるかもわからないこの状況で、役に立つのは俺の闇魔法というよりは、むしろ……。


 俺はスマホをポケットから取り出すと、セレナを呼び出した。


「ルナさん!? どうしたんですか!? 急に銀行のドアが閉まって、シャッターが降りたんですが、一体中で何が!?」


「銀行強盗だ」


 単刀直入に、小声で状況を伝える。


「ええ!? 銀行強盗!?」


「ああ。来果は人質にとられたみたいだ。俺は、偶然トイレに入っていたから無事だったんだが」


「ど、どうしましょう!? 警察に通報しますか!?」


「いや、もうとっくにされてるさ。行員の誰かが非常ボタンを押してるだろうからな。そうでなくても、シャッターが降りたことに異常を感じた誰かが、通報してるだろうぜ」


 案の定、パトカーのサイレンが徐々にこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。


「あ、本当ですね。今、警察が来ました」


「異変が起きる前、怪しい連中が銀行に入っていかなかったか?」


「いえ、私、ガードレールに寄りかかって本を読んでいたものですから」


 となると、セレナも強盗犯の人数はわからないってことか。


「メルヴィルは何か見てないか訊いてみてくれ」


「あ、はい。ちょっと待ってください」


 しばらくの沈黙の後、


「『僕もずっとアイスクリーム屋さんの方を見ていたから、わからないワン』だそうです」


 くそっ! いつも肝心な時に役に立たないリスだ!


 魔法少女の使い魔って奴は、もっと優秀なもんじゃないのか?


 ……って、メルヴィルに過度の期待をしてもしょうがないか。


「今、警察の人が無線で何やら話してますね。この銀行強盗事件、結構長引きそうですよ」


「人質を取って銀行内にたてこもりか……。まあ、最初から籠城が計画に入っていたのかどうかは知らないが、今時、銀行強盗なんて非効率的なことをやる連中だ。そんなに頭は良くないだろう。だが、実験ネズミにはちょうどいい。人質救出がてら、魔法でお仕置きしてやるとしよう」


「お仕置き? 処刑の間違いでは?」


「さあ、どうかな。警察が本格的に包囲網を敷く前に、セレナもこっちに来てくれ。女子トイレの窓を開けておく。お前の体格なら、そこから入れるだろう。人に見られないよう、透明化クラルティアの魔法を使え。あ、メルヴィルはいても邪魔になるだけだから、そのままそこにつないでおけ」


「わかりましたよ。すぐに行きます」


 そこで通話を終了すると、俺は個室の中で、ふぅと息をついた。


 ひとまず、これで第一条件はクリア。


 セレナを巻き込んでしまうのは不本意だが、こういう状況では、あいつの魔法が一番役に立つからな。



   ☆☆☆☆☆



 女子トイレの窓から入ってきたセレナに、これからの作戦を伝える。


「まずはクラルティアを使って、二人とも透明化し、現場の状況を探る。強盗犯に見つからないことも重要だが、防犯カメラに映るのも厄介だからな」


「そうですね。銀行は防犯カメラの数が多いって聞きますし」


 まずは、俺が魔法少女に変身し、セレナと手を繋ぐ。


 そして、


「〝クラルティア!〟」


 セレナが透明化の呪文を唱えて、準備は完了だ。


「よし、行くぞ!」


 女子トイレを出て、強盗犯一味の占拠するフロアに足を踏み入れようとした時だった。


 覆面姿の男が一人、拳銃片手にこちらへ近づいてくる。


 随分な慌て用で、鬼気迫るものを感じた。


「(ば、馬鹿な!? 今、俺とセレナの姿は見えないはずだぞ!?)」


 一瞬、かなり焦ったが、すぐに男の目的は別にあることに気づいた。


 男は俺たちの横を素通りすると、さっき俺たちがいた女子トイレのすぐ横にある、男子トイレへと入っていった。


 ……なんだ。ただのトイレか。


 脅かしやがって……。


 ……待てよ? トイレには当然、防犯カメラはついていないよな?


 犯人が何人いるのかまだわからないが、ここは確実に一人潰しておいて損はあるまい。


 いや、むしろ、潰しておくべきだ!


「セレナ、作戦変更だ。このまま男子トイレで、あいつを潰す」


「え? ええ!? でも、私、男子トイレなんて入ったことないですし、それにあの人、今、用を足しているところでは!?」


「なに照れてんだ! そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」


 顔を真っ赤にするセレナの手を無理矢理引いて、男子トイレの前まで来た。


 そっと扉を開け、中に入ると、男は小便器の前に立って用を足しながら、ブツクサ文句を言っていた。


「はぁ、まったく冗談じゃねぇよ。すぐに金奪って逃げるつもりが、なかなか金は出てこねえし、警察は呼ばれるしよぉ。これからどうする気なんだよ、まったく」


 どうやら、あまり計画性のない行き当たりばったりの犯行だったようだ。


 そりゃそうだ。


 一昔前ならともかく、今の時代に銀行強盗なんて成功するわけがない。


 逃げ遅れたら最期、こんな風に篭城するしかないんだからな。


 金が欲しいなら、もっと別の効率的な犯罪がいくらでもあるだろう。


 ようするに、力任せに人から金を奪うことしか考えられない馬鹿連中だ。貴様らなど、生きる価値はあるまい。ステッキのさびにしてやる。


 俺は背後からステッキの照準を男に合わせた。


 敵の数もわからないし、来果の魔法で魔力の回復がおこなえない以上、魔力消費の激しい即死魔法は温存しておきたい。


 ルーナ・モルテムは最期の切り札だ。


 とりあえず、こいつには無様な格好で固まっていてもらおうか!


「〝オクルス・メドウセム!〟」


 ……………………


 …………


 ……あれ?


 呪文を唱えたにもかかわらず、メデューサが出ない!


 ば、馬鹿な!? 


 何で魔法が出ない!? 


 今日はまだ一回も魔法を使っていないから、魔力はまだ十分にあるはずだぞ! 


 どういうことだ……一体……!?


「ん? 今、何か変な声が聞こえたな」


 俺の呪文の声に反応して、男が振り返る。


 くっ! 殺せない以上、姿を見られるわけにはいかない!


 ええい! 魔法が使えないのなら、物理攻撃あるのみ!


「くらえ!」


 ドガッ!


「ぐえっ! 」


 ステッキの先の満月で側頭部を思いっきり殴ると、男は顔を便器に突っ込むような形で気を失った。


 男の頭に、トイレの水がジャーっと滝のように降り注ぐ。


「男子トイレって、こんな風に水が流れるんだな……」


 俺はこんな所で新たな発見をしたのだった。


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