表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
2/98

2. 精霊メルヴィルとセレナの魔法

「魔法少女? 俺が?」


 俺が呆気にとられてオウム返しに尋ねると、彼女は「ええ」とニッコリ微笑んだ。


「意味がわからん。いきなり人の前に現れて、魔法少女になれって……。もっとちゃんと説明したらどうだ!」


 そうやって俺が彼女に詰め寄ると、彼女の足元から、猫ともリスともつかない、両者を足して二で割ったような摩訶不思議な生き物が現れた。


「それは僕が説明するワン」


「うわああああ!」


 もう何が起きても驚くまいと思っていた俺だったが、またもぶったまげることが起こった。


 リスが……いや、リスかどうかはわからんが、種族のよくわからん動物が目の前で喋ってやがる。


「何を驚いてるワン? 目の前に箒で空を飛ぶ魔法少女がいるなら、動物が喋るくらい何でもないんじゃないかワン?」


「ななななな、何だ、お前は!? いつからそこにいた!?」


「僕はずっとセレナと一緒にいたワン。セレナと一緒にルナのことを見てたワン」


「セレナ?」


「私の名前ですよ。 (ひいらぎ)セレナといいます。どうぞよろしく」


「そして僕はメルヴィル。人間の女の子に魔法少女の力を与える精霊だワン」


「なんでリスみたいな姿なのに語尾が〝ワン〟なんだ! 犬の鳴き声だろ、それは!」


「人間界の常識で僕を測らないで欲しいワン。僕は生まれた時からこの容姿だし、物心ついた時からこの喋り方なんだワン」


「うっせー! 」


 ドガッ!


「ぐええええ! 痛い、痛いワン! ひどいワン! この娘、怖いワン! 仮にも魔法少女候補なのに、マスコットキャラを足蹴りしたワン! セレナ、助けてワン!」


 と、セレナに泣きつくメルヴィルだったが、セレナは別に俺を責める様子もなく、相変わらずニッコリしていた。


 その表情にはどこか余裕があった。


 まるで、俺がこれから何をしようとも、自分たちの手からは逃れられないと確信しているかのように。

 ……一体何なんだ、この状況は。まるで意味がわからん。


 何で俺はこんな訳のわからん連中に足止めされてるんだ?


 魔法少女になれ?


 ふざけるな。なんで俺がこいつらの願いを聞かなきゃならん。


 よし、逃げよう。


 そう決心すると、俺はくるりと体の向きを変え、一目散に走り出した。


「あっ、逃げたワン! セレナ!」


「はいはい。しょうがないですね。……〝ウォレ・ロフティオ!〟」


 セレナが何やら訳のわからない呪文のような言葉を発していたが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 ともかく逃げることだ。


 こいつらは色々やばい気がす……。


 ゴン!


「ぐあっ!」


 何かに思いっきりぶつかった拍子に、俺の思考は中断し、反動で身体は後方に飛ばされた。


「くそ……痛え……。一体、何が……?」


 尻餅をついたまま、俺は前方を呆然と見つめた。


 そこには何もなかった。先ほどと変わらない、ビルとビルの谷間の路地が続いているだけだ。


 だがしかし、そこには確かに強大な質量を持った何かがあった。俺はそれにぶつかったのだ。


「これは……壁……?」


「その通りです。ビルと同じくらいの高さまでそびえ立つ透明な壁を出現させました。これでもうルナさんはどこにも逃げられませんよ」


 そう言いながら、セレナはゆっくりと、こちらに近づいてきた。


 見ると、いつの間にか彼女の右手には箒ではなく、よくアニメや漫画なんかで魔法少女が持っているステッキのような物が握られていた。


「はは……これも魔法か。その杖を握って呪文を唱えれば魔法が使えるんだな? さっきの箒がどっかに行っちまったのを見ると、あれも呪文の力か何かで杖を空飛ぶ箒に変形させてたんだろ?」


「ええ。そうですよ。私たち魔法少女はこのステッキと呪文がないと、魔法が使えないんです」


「だったら、俺がセレナの杖を奪うか、喉を潰すかしてやれば、こっちにもまだ勝機があるってわけだな?」


 俺が強がってそう言うと、セレナは「はぁ」と溜息をついた。


「無理ですよ。箒の魔法も壁の魔法も、基礎的な汎用魔法……私の属性にあった専用魔法はもっと威力が上です。現状、何の力もないただの非力な女の子であるルナさんに為す術はありません」


 ちくしょう、余裕な態度だったのはそういうわけか。


 詰まるところ、こいつは俺を殺そうと思えば殺せるくらいの力はあるし、どこに逃げようとも、すぐに居場所を割り出せる魔法もあるんだろう。


 最初から俺に逃げ道などなかったのだ。


「一体お前らは何なんだ!?」


「だから、さっきも言ったでしょう? あなたを魔法少女にしたいと思ってスカウトに来たんですよ」


「何で俺を魔法少女なんかにしたがるんだよ!?」


「僕らはそれをさっきから説明しようとしてるのに、ルナが逃げるからいけないんだワン」


 いつの間にかメルヴィルまでも俺の傍に来ていた。


 ここまで来ると、とりあえず、こいつらの話を聞いたほうが賢明だな。


「わかったよ。さっさと説明でも何でもしてくれ」


「なんで追い詰められてる側だっていうのに、そんなに横柄なんですか、ルナさんは」


 そのまま地べたにアグラをかいて開き直る俺にセレナは心底呆れていた様子だった。


「さあ、メルヴィル。早くルナさんに説明を」


「…………」


「メルヴィル?」


「……悪いけど、説明は後回しだワン」


「え?」


「……来るワン!」


 その刹那――。


「〝ビュレ・フォイエルム!〟」


 ドゴオオオオォォォン!


 まるで、爆弾でも爆発したかのような凄まじい轟音と熱風が、俺たちに襲いかかって来た。



   ☆☆☆☆☆


「ルナさん、メルヴィル! 私の傍に! 〝シルディア!〟」


挿絵(By みてみん)


 セレナが呪文のようなものを叫ぶと、魔法陣のような模様をした円形の盾が俺たちを守るように出現し、爆風を防いでくれた。


「ふう。危ないところでしたね」


「今のは防御魔法なのか?」


「ええ。私が持っている唯一の防御魔法です。こんな基本魔法で防げたのも、敵の攻撃が最初にさっき出した壁に当たって威力が落ちてたからですね。グッジョブですよ、ルナさん」


 どうやら、さっきの俺の逃走が思わぬところで役に立っていたようだった。それはいいが、問題は……。


「あれ~。防がれちゃったよ~。結構強い呪文だったんだけどな~」


 セレナが出した盾が消え、俺たちの前に姿を現したのは、少女だった。


 俺たちと同年代くらいの背の低い女で、赤いコスチュームに身を包み、手には赤いステッキを持っている。


 どう考えても、こいつが俺たちを攻撃してきた張本人だろう。


「誰ですか、あなたは?」


 セレナが赤服の女をキッと睨みつける。


「決まってんじゃ~ん。あんたと同じ魔法少女だよ~。名前はアカネだよ~。よろしくね~。ま、あんた達すぐに死んじゃうから名乗る意味ないけど~」


「戦いに来たんですか?」


「当たり前じゃ~ん。殺しに来たんだよ~。それがこの戦いのルールでしょ~」


「話し合いは?」


「無~理~」


「そうですか、残念です」


 一拍の間の後、二人はステッキを互いに向けて、


「〝ビュレ・フォイエルム!〟 」


「〝アンデュ・ライティア! 〟」

挿絵(By みてみん)


 アカネと名乗った少女のステッキからは、火炎弾のような物が発射され(たぶん、さっき俺たちを攻撃したのもこの魔法だろう)、セレナのステッキからは光の波動のような物が出た。


 二つの呪文は両者の中間地点でぶつかり合い、轟音と共に相殺され、土埃が舞った。


 俺が思わず目をつむると、次に目を開けた時には二人は互いにスタートダッシュを切っていた。


「〝グラディア!〟」


「〝グラディア!〟」


 二人が全く同じ呪文を唱えると、彼女たちのステッキは一瞬で剣に変化した。


 ガキン、ガキンという剣同士がぶつかり合う金属音が路地裏に響く。


 二人共、本気で相手の肉体を斬りにかかっており、その攻撃には一切の躊躇がない。


 マジで相手を殺そうとしてやがる。


「…………なんだよ、これ。一体なんなんだよ」


 俺は目の前で繰り広げられる死闘に、精神の糸が切れてしまったのか、膝から崩れ落ちてしまった。


 そんな俺の視界に、一匹の奇妙な犬が現れた。


「あんたは戦わないのかい?」


 喋りやがった。


「……お前も、メルヴィルの仲間かよ?」


 強気に尋ねたのは、今にも泣きそうな俺の精一杯の虚勢だった。


「仲間? これはお笑いだねぇ。逆だよ。メルヴィルとあたしは敵同士。あたしはあそこで戦っているアカネの精霊なのさ」


「敵……?」


「そう。にっくき敵同士さ。この手で殺してやりたいくらい。もっとも、精霊同士の戦闘はルール違反だけどねぇ」


「ルール? ルールってなんだよ!?」


「あら? あんた何も知らないんだねぇ。あんた、魔法少女じゃないのかい?」


「ルナはまだ魔法少女じゃないワン」


 と、言って呑気に現れたのは、メルヴィルだった。目の前ではセレナとアカネがまだ死闘を繰り広げているというのに、助けに行く様子もない。


「お前……、何やってんだよ! 早くセレナを助けに行ってやれよ!」


「ダメだワン。それはルール違反だワン。僕の役割はキミ達に魔法の力を与えるだけだワン。戦いに干渉してはいけないのワン。だから、バビロンも僕もこうして見てるしかないのワン」


「バビロン? ああ、こっちの犬ッコロの名前か」


「ふふふ。よろしくね、人間のお嬢ちゃん」


 バビロンは俺に挨拶すると、後ろ足で器用に背中を掻いた。


 どうやら、こいつもアカネを助けにいくつもりはないらしい。


 その間も、セレナとアカネはボロボロになりながら戦っている。


 くそ……。畜生……。


「何だよ……。何なんだよ、これは!? 魔法少女っていうのは、悪い怪人を倒したり、困っている人を助けてやったりするもんなんじゃないのか!? なんで魔法少女同士でこんな殺し合いをしたりするんだよ!?」


 俺がそう言うと、バビロンは何がおかしいのか、「ククク」と笑った。


「あんた、本当に何も知らないようだねぇ。そんなに知りたいなら、教えてあげるよ。あたしは優しいからね。これはね、あたしら精霊の世界の〝ウォーゲーム〟なのさ」

・オマケ:呪文紹介コーナー


 今週の呪文

  ウォレ・ロフティオ: ビルの高さまでそびえ立つ透明な壁を出現させるぞ。(使用者 柊セレナ)


  ビュレ・フォイエルム : ステッキから強力な火炎弾を発射するぞ。

             (使用者 アカネ)


  シルディア: 魔法陣のような模様の円形の盾を出すぞ。

         (使用者 柊セレナ)


  アンデュ・ライティア: ステッキから強力な光の波動を発射するぞ。

            (使用者 柊セレナ)


  グラディア: ステッキを剣に変化させるぞ。

       (使用者 柊セレナ、アカネ)



・次回の更新は一週間後を予定しています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ