19. 外道魔法少女vs王道魔法少女
大幅に遅れて申し訳ありません。
とりあえず、イラストは後で追加いたします。
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝レイ・ニルアデム!〟」
先手必勝とばかりに放った俺の闇の魔導波は、敵の魔法でかき消された。
……この呪文はセレナのアンデュ・ライティアと互角だったはず。
それをかき消すとなると、相手の呪文もそれほどの威力ってことか?
いや、もしかすると……。
「ルナ先輩! 来果も加勢します!」
「ダメだ、そこにいろ!」
「ええ!? どうしてですか?」
「お前は今、そこの澪って奴に時間停止の魔法をかけている。そいつを止めているお前の役割は大きい。だから、お前はそのことだけに集中しろ」
……それに、来果はまだ力を手に入れたばかりで、使える魔法は発現呪文のみ。
しかも、こいつは二人の人間に同時にかけることができない。
今、澪の拘束を解除して、俺に加勢しても状況を悪くするだけだ。
セレナも魔力が尽きているこの状況では、俺が一人でこの〝なゆた〟って奴の相手をするしかない。
やってやるさ!
まずは動きを封じて、それからルーナ・モルテムを食らわせてやる!
「行け! 蛇ども! 〝アンギ・フーニス!〟」
「フシャアアアアアアアアアア!(訳:ルナ様のために~!)」
地面から無数の蛇を出現させ、なゆたに嗾ける。
なゆたは最初の二、三匹をジャンプでかわしたが、流石に全部の蛇をかわすのは不可能と直感したのか、
「〝グラディア!〟」
前にセレナがやったように、箒を剣に変形させて、蛇をさばきにかかった。
「俺の作戦を台無しにしやがって! お前は蛇の締め付けで全身の骨を砕いた上で抹殺してやる!」
「やれるもんならやってみてよ! 私はあなたみたいな卑怯な人には絶対に負けないんだから!」
「卑怯? 馬鹿言うな! 俺のどこか卑怯だって言うんだ!」
「卑怯じゃない! 三人がかりで寄ってたかって澪ちゃんを攻撃して! せめて、ちゃんと正々堂々1対1で戦いなよ!」
「ハッ! 何を言うかと思えば! 何が正々堂々だ! 馬鹿かお前は!」
「ば、馬鹿ぁ!?」
「そうさ! 俺たち魔法少女は敵の魔法少女1人を殺し、代わりに1人の仲間を増やす! 全体として見れば、1人が消える代わりに、常に1人が加わる! つまり、人間界に存在できる魔法少女の数は永久に13人! 俺たちはこの13の枠を奪い合っている!」
「…………」
「このルールから導き出されるのは、チーム単位の総力戦だ! かつて帝国主義の時代に、強国同士が地球の土地を取り合ったような国取りゲームさ! 同じ精霊の魔法少女同士が一つの国を構成し、構成要因である魔法少女の数がその国の領土であり、兵力でもある! この戦いの本質は、国の全兵力を率いて敵の領土を確実に奪っていくこと! そうして領土と兵力を着実に増やしていった〝大国〟が、他の国を滅ぼし、全領土を支配する勝者になる! それもわからず、3対1が卑怯だとかほざくお前はどうしようもない馬鹿だって言ってんだよぉ! やれぇ、蛇どもぉ!」
「フシャアアアアアアアアア!(訳:ルナ様の仰せの通りに~!)」
蛇どもをムチのようにしならせ、一気に敵を絡め捕りにかかる。
「この蛇を全部さばけるもんなら、さばいてみやがれー!」
すると、どうしたことだろう。
なゆたは剣を再びステッキに戻した。
「理屈じゃない……! 理屈じゃないのー!」
「っ!」
「〝レイ・ニルアデム!〟」
「ぎゃあああああああああああ!(訳:ぎゃああああああああああああ!)」
なゆたの放った魔法は襲いかかる蛇を迎撃し、一瞬にして全てを消してみせた。
馬鹿な! あの数の蛇を一撃で!?
こいつ、やはり……。
「理屈じゃないんだよ! 確かにあなたは賢いよ! 私はそんな風に考えたことなんてなかったもん! でも、いくら理屈の上で正しくたって、間違ってることはあるんだよ!」
「俺が間違ってるだと……?」
「そうだよ。これは精霊の世界の代理戦争なんでしょ? だったら、精霊たちを説得して、戦争自体をやめてもらえばいいんだよ。そしたら、私達が殺し合うことなんてない。誰も死なずに済むんだよ。だから、私は他の魔法少女に会うたびに、その精霊を説得してるの」
精霊を説得だと?
こちらを油断させる罠か?
……いや、そういえば、確かにこいつは俺からの攻撃を防ぐのに魔法を使うだけで、自分からは攻撃を仕掛けてこなかったな。
セレナの奴もかなりの穏健派だと思っていたが、こいつはそれ以上だ。
「じゃあ訊くが、今までその説得とやらは成功したことはあるのか?」
「う……。ま、まだないよ……」
そりゃそうだろう。そんな馬鹿な話に耳をかす精霊なんているわけがない。
「で、でも、ちゃんと話せばきっとわかってくれるよ! 話し合いもせずに戦争で白黒つけようなんて、絶対に間違ってる!」
こ、こいつやはり馬鹿だ……。
そんなのは綺麗事。
画に描いた餅。
机上の空論。
話し合いで解決しないからこそ戦争が起きるんだ!
宗教の違いや領土問題、圧政からの解放、民族独立……等々、人が争う理由なんていくらでもあるが、共通しているのは当事者双方が自分の主義主張を身勝手な論理で塗り固め、自分たちこそが正しい、悪いのはむこうだ、これは聖戦だ、なんてほざいていること!
自分たちの方が悪いなんて発想は絶対に出てこない。
いくら話し合いをしたところで、そんなのは永久に水掛け論だ。
だから、いつまでたっても世の中から戦争はなくならない。
「おい、そこの精霊……確かルーニャとかいったか?」
俺はなゆたの肩に乗っかっていた、猫だか虎だかよくわからん容姿の精霊に話しかけた。
「なんだニャー?」
「お前だって、国の代表でこの戦いに参加してるんだろ? お前は……いや、お前の国は本気で和平なんか望んでいるのかよ?」
「それは微妙なのニャー。勿論、自国の利益になる和平協定なら願ってもないことニャーが、誰かが得をするということは、誰かが損をするということニャー。和平をするにしても、どこかの国を犠牲にしなきゃいけないのニャー。だから、俺っちも最初、なゆたの考えは実現不可能だと思っていたニャー」
「だったら……」
「でも、話し合いで解決しようと頑張っているなゆたを見ていると、なんだかこの子を応援したくなっちゃったのニャー」
っ! なんだと!
「ルーニャ君、ありがとう」
「安心するニャー。俺っちは、なゆたの味方だニャー」
……マジかよ。ほ、本気なのか、こいつら?
本気で誰とも戦わずに、この戦いを終わらせるつもりなのか?
いや、そんなのは無理だ!
そんな理想論がまかり通るのはテレビの魔法少女アニメの中だけなんだよ!
「ほら、ルーニャ君はわかってくれたよ。だからあなたも……ルナちゃん? って言うの? さっきあっちのツインテールの子がそう呼んでたよ。ルナちゃんも、ルナちゃんの精霊も、私たちに協力して欲しいの。そしたら、澪ちゃんをイジメたことも許してあげるから。だから……」
「ふざけるな!」
「っ!」
「お前みたいな 脳内お花畑女の戯言に、誰が耳をかすかぁぁぁ!」
「このわからず屋ぁぁぁ! 」
「〝マギア・テネブラム!〟」
「〝レイ・ニルアデム!〟」
俺たちが放った魔法はちょうど中間地点で激突し、混ざり合い、辺りの土埃を巻き上げ、そして……。