18. ライバル登場!?
「あなた、いったいどこに消えていたの?」
俺の姿を目視した敵は、相変わらずのか細い声でそう尋ねた。
「さあな。タイムスリップでもしてたんじゃないのか」
「つまらない冗談」
「おいおい、もしかしたら本当かもしれないだろ?」
「だとしても、また戻ってくるなんて馬鹿。あなたにはもう魔力が残ってないのは確認済み。私には勝てない」
「それはどうかな?」
「?」
「〝マギア・テネブラム!〟」
「っ!」
俺のステッキから放たれた一撃を敵は間一髪でかわす。
だが、その表情には明らかに焦燥と狼狽の色が浮かんでいる。
無表情のクール面が崩れてきてるぜ!
「魔力が回復してる……! ありえない……!」
「もう一つ、気づかないか? お前の身体、何かが変わってるぜ」
「……? ……っ! 絶対零度領域が消えてる!」
これで敵の焦りはピークに達した。
今だ!
「来果ぁ!」
「〝ライカン・クロノシオ!〟」
俺の合図と共に、反対側の岩陰に身を潜めていた来果が〝時間停止の魔法〟を放つ。
その呪文は見事、敵を再びオレンジ色の球体の中に閉じ込めた。
「これで終わりだ! 今度こそ死にさらせ!」
焦り顔のまま固まっている敵に俺は止めの呪文を放った。
「〝ルーナ・モルテム!〟」
☆☆☆☆☆
遡ること一分前。
俺は岩陰で二人+リス一匹に作戦を話した。
「来果、まずは現在〝時間停止〟で拘束しているあいつに、〝時間逆行〟をかけろ」
「敵の時間を戻すってことですか?」
「そうだ。できるか?」
「はい。あのオレンジの球体に閉じ込めている内は、時間を止めるも戻すも進めるも、来果の自由ですから」
「よし。戻す時間は10分目一杯だ。そうすりゃ、あいつは絶対零度領域の魔法を使う前の身体に戻る」
「あ、なるほど。ルナ先輩さっすが。あったまいい~」
「あいつの身体を10分前に戻したら、その後すぐにあいつの拘束を解く。そして、この岩陰に隠れたまま、今度は俺に〝時間逆行〟をかけろ」
「ええ!? ルナ先輩に!? どうして!?」
「俺の魔力を回復させるためだ。今は魔力が尽きた状態でも、10分前はまだかなり残っていたからな。ルーナ・モルテムも、1、2発打てるだろう」
「な、なるほど……」
来果によると、時間操作の球体の呪文は、一度に一人の人間にしかかけることができず、また呪文を発動している間は、他の呪文を使うことはできないそうだから、俺の魔力を回復させるには一度、敵の呪文を解除しなければならない。
警戒心の強そうなあいつのことだ。
普通にやったのでは、もう一度来果の呪文にかかってくれるかはわからない。
しかし、方法がないわけじゃない。
「次に、セレナ」
「は、はい」
「お前もだいぶ魔力が減ってるみたいだが、魔法はもう使えないか?」
「いえ、弱い魔法一回くらいなら」
「よし。なら、俺の魔力が戻り次第、透明化魔法を使って、敵に見つからないように来果を反対側に運んでくれ。あれは術者の身体に触れている人間も、一緒に透明化するんだろ?」
「は、はい」
「お前たちの移動が完了するまで、俺が敵の目の前に出て、敵の注意を惹きつける。魔力が尽きたと思っていた俺が魔法を使えば、敵は焦る。そこへ、背後から来果が〝時間停止〟の魔法をかける。ここまでくれば、もうこっちのものだ。身動きのできない敵に俺がルーナ・モルテムを放つ。来果のオレンジ色の球体は外部からの攻撃を受け付けないらしいが、そんなものは攻撃が当たる直前に、来果が〝時間停止〟を解除すればいいだけの話だ。意識を取り戻した時には、目の前に攻撃が迫っているんだから、敵は防ぎようがない」
注意を惹きつけるのは、来果かセレナに任せ、俺が直接岩陰からルーナ・モルテムを撃ち込むという手もあるが、さっき見たところ、命中率という意味では、ステッキでロックオンした敵をいきなり拘束できる来果の呪文の方が、ルーナ・モルテムより適している。
つまり、ここは一度来果の呪文で敵の動きを再び封じてから、確実にルーナ・モルテムを命中させるのが得策!
それで俺たちの完全勝利だ!
「…………」
「…………」
「…………」
俺の作戦を聴き終えると、二人+一匹は口をあんぐりと開けたまま固まっていた。
「ん? どうした? どこかに穴があるか、この作戦」
「いえ、完璧ですよ! ルナさん!」
と、セレナ。
「完璧すぎて、来果たちは感嘆していただけです!」
と、来果。
「流石だワン! ルナ! 悪知恵を働かせたら、ルナに勝てる魔法少女はこの世にはいないワン!」
と、メルヴィル。
よし。自分では気づかない穴があるかとも危惧したが、大丈夫そうだ。
今度こそ、あいつの息の根を止めてやる!
☆☆☆☆☆
……………………
………………
…………
……そう。
俺の作戦は完璧だった。
実際、ルーナ・モルテムを放つ所までは全て計画通りだった。
後は攻撃の当たる直前、来果が魔法を解除すれば、決着がつくはずだった。
しかし……。
しかし、こんな土壇場になって、俺が最初に気にかけていた事項が介入してくるなんて、完全に予想外だった。
俺がルーナ・モルテムを放った直後、どこからともなく猛スピードで飛んできたそいつは、一瞬で俺と敵の間に入り込み、
「〝レイ・ニルアデム!〟」
放った魔法でルーナ・モルテムを相殺した。
突然の出来事に俺が呆気にとられていると、戦いに乱入してきたそいつは、肩に乗っけた猫と虎を足して二で割ったような小動物に話しかけた。
「ふ~、何とか間に合ったね。ルーニャ君」
「そうだニャー。よかったのニャー。でも、なゆたは飛ばし過ぎなのニャー。おかげで俺っちは何度も振り落とされそうになったのニャー」
「しょうがないでしょー。澪ちゃんがピンチだったんだからー。……って、わー! 澪ちゃんが固まってる! ど、どうしたらいいのー!?」
「落ち着くのニャー、なゆた。これは時間停止の魔法だニャー。おそらく、あっちのツインテールの魔法少女がかけた魔法だニャー」
「な、治るんだよね?」
「勿論だニャー。この手の魔法には制限時間があるから、ほっといたら治るのニャー」
「はぁー。よかったよー。安心した。じゃあ、とりあえず……」
そいつは顔を俺の方に向け、キッと鋭い視線を送ってきた。
「よくも澪ちゃんをイジメたな! 許さないからね!」
……最悪だ。
想定していた中で、最悪のパターンが現実の物になった。
敵の仲間の魔法少女が駆けつけてきやがった。
次回の更新は一週間後を予定しております。
感想・評価・レビューなどをいただけると大変うれしいですし、励みになります。




