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外道魔法少女ルナ  作者: door
<第1部>
16/98

16. 逆転! ライカン・クロノシオ!

「ルナ先輩がピンチ? なんとなく、ルナ先輩たちがあの丸い光に包まれた女の子から逃げてるっていうのはわかるけど」


 まだ事態が飲み込めていないのか、それともまだ夢の中だと思っているのか、切羽詰ったメルヴィルとは対照的に、来果はのんびりした受け答えだった。


「そうだワン! 敵の魔法少女に追いかけられているんだワン! 捕まると死んじゃうんだワン!」


「ええ!? 死んじゃうって……嘘でしょ!? っていうか、魔法少女ってなんなの!?」


「もう! 時間がないから、ざっくり説明するワン! よく聞くワン!」


 よほど焦っていたのか、メルヴィルの説明は本当に〝ざっくり〟であった。


 自分が異世界から来た精霊であること。精霊界で勃発した大戦の代理戦争をこの人間界でやっていること。


 そのために人間の少女に魔法の力を与えて殺し合いをさせていること。そして、ルナとセレナは自分の配下の魔法少女であり、今、彼女たちが戦っているのが敵の魔法少女であること。


 ……等々。


 細かな点は後回しにして、重要な点だけを切り取って伝えた。


 しかし、簡単な説明の方が来果の脳の処理能力に適していたのか、彼女はなんとか事態を把握したようだった。


「つまり、あなたは来果にも魔法少女になって、ルナ先輩たちと一緒に戦ってほしいんでしょ?」


「そうだワン! お願いだワン! もうこの状況を覆すには、来果の力を借りるしかないのワン! ルナとセレナを助けてほしいのワン!」


「いいよ」


「そんなこと言わずに、頼むワ……え!? いいのワン!?」


「何驚いてるの? 助けてほしいんじゃないの?」


「そ、それはそうだワンが……。本当にわかってるワン? 一度魔法少女になったら、この戦いに勝つまで、来果は命懸けの戦いを義務付けられてしまうワンよ?」


「だって、ここで来果が戦わないと、ルナ先輩が死んじゃうんでしょ? そんなの絶対イヤ! ルナ先輩がいなかったら、来果は意地悪な先輩たちにイジメられて自殺してたかもしれないんだ! ルナ先輩は来果が守る! 来果に力を頂戴、メルヴィル!」


「わかったワン!」


 ☆☆☆☆☆


「セレナ! もっとスピード出さないと、だんだん距離が詰まってきてるぞ!」


「すみません、ルナさん! 私、もう魔力の限界が近いみたいなんです!」


「なんだって!?」


「魔法の力だって無尽蔵というわけじゃありません! 連続で使うには限界があります! さっきのアンデュ・ライティアの連打と、この全力疾走で、殆ど魔力が尽きかけています!」


「何とかして充電みたいなことはできないのか!?」


「魔力の回復には時間がかかります! 回復魔法で戻すこともできますが、今の私に残された魔力では、それの発動すらできるかどうか……!」


「わかった! なら、操縦は俺が変わる! 止まっている暇はないから、空宙で乗り換えるぞ!」


「〝ビアブルム!〟」


「……って、あれ?」


 俺は我が目を疑った。


 ちゃんと呪文を唱えたのに、ステッキが箒に変化しないのだ。


「え? おい、一体どうしたんだ? ビアブルム! ビアブルム!! ビアブルムー!!」


 何度やっても、ステッキは箒に変化しなかった。


 ま、まさか俺の魔力がもう尽きてるって言うのか!? そんな!? 一体どうして!?


「ルナさん、今日ルーナ・モルテムを何発打ちました?」


「え? 確か3発……かな」


「あれだけ強力な魔法を短時間でそれだけ使えば、そりゃ魔力が尽きるのも早いですよ!」


「しょうがないだろ! 知らなかったんだから! というか、魔法の使用回数に制限があるとか、そういう大事なことはもっと早く言えー!」


 俺がそう叫んだ時、箒のスピードがガクンと下がった。


「ルナさん、すみません。もう限界みたいなので、このまま着陸します!」


 セレナの不時着宣言と共に、箒は一気に急降下。


 ジェットコースターに乗った時のような、内蔵が上に上ってくる感じが押し寄せる。


 飛行機の着陸時の侵入角度は地面に対して3°だと、航空力学の本で読んだことがあるが、俺たちの箒の侵入角度はどう見積もっても10°はあった。


 そんな急角度で地面に突っ込んだら、とても安全な着陸は期待できないだろう。


 案の定、地面に箒の柄が接触し、蹴躓 (けつまず)いたような格好で俺たちは前方に放り出された。


 数メートル地面を転がり、ようやく体が止まる。


「セレナ、大丈夫……っ!」


 セレナの無事を確認しようと顔を上げた俺は、愕然とした。


「……これで、終わり」


 今にも俺に触れそうな距離に、敵の魔法少女が迫っていた。


「ルナさん!」


 俺の更に後方で、セレナが俺の名を叫ぶ。


 しかし、彼女には何もできない。


 魔力が殆ど残っていないのは言わずもがな、さっき地面に接触した時に、箒になっていたステッキがどこかに吹っ飛んでしまったのだ。


 俺はステッキこそしっかりと握りしめているものの、魔力が全く残ってないので、何もできない点ではセレナと同じだけどな。


 さて、これで万策尽きた。


 後は――。


「……大丈夫、死ぬのは一瞬。すぐに体が凍りついて、意識はなくなるから」


 後は大人しくこいつの絶対零度領域に引きずり込まれ、殺されるのを待つだけだ。


 死への恐怖はないと言えば、流石に嘘になる。


 だがな――。


 戦いで殺される覚悟なら、あの時――。


 この手でアカネを殺した時からできてんだよ!


 全てを諦め、目をつむる。


 その刹那――。


 それは起こった。


「〝ライカン・クロノシオ!〟」


 どこからか聞こえてきた呪文。


 それに目を開けると、目の前には信じられない光景があった。


「…………」


 敵の魔法少女が、まるでマネキンにでもなったかのようにその場に固まってピクリとも動かないのだ。


 さっきと違う点はもう一つあった。


 彼女を包んでいた絶対零度の光球は健在だったが、その上から更に一回り大きいオレンジの光球がすっぽりと彼女を覆っていたのだ。


「これは……一体……」


「ルナせんぱ~い!」


 黄色い声がした方を向くと、そこにはいつの間に目を覚ましたのか、来果がいた。


 いや、あいつが目を覚ましたことは大して重要じゃない。問題はその格好だ。


 来果は俺やセレナと同じように魔法少女のコスチュームに身を包んでいた。


 手に握られたステッキは、しっかりと敵の方に向けられている。


「……マジかよ」


次回の更新は一週間後を予定しております。

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