11. ライカ登場!
夕食の後、俺はセレナと石化の解けた阿保リスを自分の部屋に招いた。
客間も空いていたが、二人には少し話があったので、今晩は俺の部屋で一緒に寝てもらう。
ちなみに俺の部屋は本が至る所に散乱していたため、それを見たセレナは目を丸くしながらも、布団を敷くスペースを作るのを手伝ってくれた。
一応客人なので、ベッドを譲ったのだが、セレナは遠慮して布団の方を選んだ。
そんなわけで、俺はベッド、セレナとメルヴィルは布団に入り、後はリモコンで部屋の電気を消し、目を閉じるだけという状態になると、俺は天井を見つめながら、セレナとメルヴィルにこう切り出した。
「明日、三人目を捜すぞ」
「三人目? 三人目の魔法少女ですか?」
「そうだ。俺がアカネを倒して手に入れたマナ・クリスタルで、メルヴィルはもうひとり魔法少女を追加できる。しかし、その期限は十三日……いや、もう残り十二日か。とにかく、あまりグズグズしてはいられない。戦力的にも、仲間を増やすに越したことはないからな」
「なるほど。昨日ルナさんが言っていた〝帝国主義ゲーム論〟ですね」
「ああ。国の兵力は高ければ高いほどいい。戦の基本だ」
「でも、明日は学校がありますよ」
「だからいいんだよ」
「え?」
「学校なら、俺たちを同年代の女がたくさんいるだろ? あれだけいりゃ、魔法の素質を持った奴もきっといるさ」
と、ここで俺はメルヴィルに話を振った。
「魔法の素質を持った奴は、どうやったら見分けられる?」
「キミらには無理だワン」
「ってことは、お前になら見分けられるんだな?」
「そうだワン。僕なら精神を集中させれば、強い魔法の才能を持った子の大体の位置はわかるワン」
「レーダーみたいなものなのか?」
「ちょっと違うけど、似たようなものだワン。人間は誰しも魔力を持っているのワン。ただ、多くの人はそれが弱すぎて、互いに感知できないし、強弱の区別も合ってないようなものなのワン。いわゆる、どんぐりの背比べみたいなものなのワン。僕たち精霊は、その僅かな魔力を感じ取って、この人は魔力が強い、とか、あの人は弱い、とかの判断ができるワン。でも、人がいっぱい場所では、魔力がたくさん混じり合っているから、精度は落ちてしまうのワン。ちなみに、その学校っていう所には、何人くらい人がいるワン?」
「一学年300人以上で、三学年あるから、教師も合わせたらザッと1000人近くいるな」
「そんなに人がいるなら、流石にピンポイントでの特定は無理だワン。少なくとも半径10メートル以内にはいないとワン。もちろん、直接会うことができれば確実だワン」
「なるほど……。わかった。明日、お前を学校に連れて行く。授業が始まる前に校舎をグルリとまわれば、一人くらい見つかるだろう」
「わかったワン。それでいいのワン」
「よし、決まりだ。セレナもそれでいいだろ――って、あれ?」
「すー……。すー……」
セレナの方を向くと、彼女は寝息をたてていた。
「寝てるワン。きっと今日は色々あって疲れたのワン。僕もそろそろ寝るワン。ルナも、セレナとの戦いのダメージがまだ残っているはずワン。早く寝たほうがいいのワン」
そうメルヴィルに言われると、身体が疲労を思い出しでもしたかのように、疲れがドッとぶり返してきた。瞼が重く、どんどん意識が遠のいていく……。
流石に、ちょっと無理しすぎたかな……。
まあいいや。寝よう……。
……………………
…………
……
…
☆☆☆☆☆
翌朝。
よほど疲れが溜まっていたのか、許容起床時間ギリギリまで、俺とセレナは夢の中にいた。
なかなか起きてこないのを見かねた母さんが、鬼の形相で俺たちを叩き起し、洗顔やら朝食やらを急かしてくれたおかげで、遅刻こそは免れることができそうだったが、それでも、いつもより早足で登校するはめになってしまった。
「窮屈だワン。とっても窮屈だワン」
学校への道中、メルヴィルはずっとそうボヤいていた。
まあ、無理もない。なんせ、俺の小さな通学鞄の中に、猫と同じくらいの身体を無理に詰め込んでいるんだからな。
「こんな仕打ちはあんまりだワン! マスコットキャラクター虐待罪で訴えてやるワン!」
「うるせえ! 黙って大人しくしてやがれ! 学校はペットの持ち込みは禁止なんだ!」
「ペット!? 僕はペットじゃないワン! 精霊界では知らぬ者のいない、それはそれは由緒ある家柄の嫡子なんだワン!」
「何が由緒ある家柄だ! 人間様からすりゃ、お前はただのリスだ!」
生意気なマスコットキャラを黙らせるため、腕を大車輪のようにグルグル回転させ、鞄の中身をシェイクしてやる。
「ぐえええええ! やめるワンんんん! 乗り物酔いするワンんんんん!」
「ふん。だったら、大人しくするんだな」
吐かれて鞄を汚されても困るので、程々でやめてやる。
「ぐううううう。目がグルグルして、頭がグアングアンするワン! もうルナの鞄は嫌だワン。セレナの鞄に行くワン。セレナ~、助けてワン!」
と、救いを求めるメルヴィルだったが、セレナは申し訳なさそうに両手を合わせて、
「ごめんなさい。私の鞄は教科書とかノートでいっぱいなんです」
「そ、そんな~。あれ? でも何でルナの鞄には教科書が入ってないワン?」
「俺のは全部学校のロッカーに置き勉してあるんだよ」
「不真面目な生徒だワン! そんなことしてると、家で復習ができないから、成績が下がっちゃうワン!」
「はっ! 俺をそこら辺の馬鹿共と一緒にするな! 中学で習うことなんて、当の昔に頭に入ってるぜ!」
「不公平だワン! 神様はとっても不公平だワン! なんでルナみたいな子の頭がいいんだワン!」
ほっとけ。恨むなら、そんな不公平なパラメーターを配分した神を恨むんだな。
「中学生でアメリカの大学に入れるほど頭が良くて、誰もが振り向く美少女で、オシャレな洋館に優しいお母さんと住んでいて、おまけに魔力が滅茶苦茶強い魔法少女……。プロフィール上は完璧ですね」
「でも、性格が滅茶苦茶悪いワン」
「あはは。誰にだって欠点くらいありますよ」
「それもそうだワン」
セレナとメルヴィルは何が楽しいのか、そう言って笑っていた。
……こいつら、俺に何か恨みでもあるのか?
そんな感じで歩を進めていると、いつの間にか校門が目に入ってきた。
あっという間に着いたな……。
いつもより時間が早く感じられるのは、遅刻になりそうで急いだせいか、はたまた他の誰かと一緒に登校したせいか……。
まあ、おそらく前者だろうが、後者の可能性も無きにしも非ずだ。
そういえば、小学生の頃は、まだ学校にもちゃんと行っていたから、友達と一緒に行くのと一人で行くのとでは、時間の感じ方が違っていたのを憶えている。
ずいぶん前に読んだ心理学の本にも似たような現象が図入りでわかりやすく説明してあったっけ。
本当かどうかは知らないが、あのアインシュタインも子供に相対性理論について訊かれた時に、同じような説明をしたとか……。
そんな風に、俺が昔読んだ本の内容に思考を巡らせていた時だった。
「ルナせんぱ~い!」
ドタドタと地面を駆ける音と共に聞こえてくる黄色い声。
その声はドップラー効果によって、こちらに近づくにつれ、だんだんと甲高くなっていく
。
「ルナせんぱ~い!」
身の危険を感じた俺は、サッと脇に避けた。
「ルナせん……きゃあああああああああ!」
俺に抱きつこうとしていたそいつは、目標を失い、思いっきり地面にヘッドスライディングをかました。
「ちょっとルナ先輩! どうして避けるんですか!」
そいつはウサギみたいにぴょんと起き上がると、長いツインテールを揺らしながら、俺に詰め寄ってきた。
……ちっ、やっぱりこいつか。
そこに現れたのは、俺の一学年下の後輩、時峰来果だった。
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