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シルバーハイブ亭へようこそ

裏切りと毒と

作者: 羇流 遼

G.O.Dという名の水晶がある。

ドラゴンの死骸が地中で千年経て結晶体となった希少水晶である。

膨大な魔力を秘めると言われ、魔術師たちが喉から手が出るほど欲しがる代物だという。


人を寄せ付けぬ天然の魔境、ゴンドビーナ山岳でそれが出た。

そんな噂が、冒険者たちの間でまたたく間に拡散した。

一攫千金を夢見る、腕におぼえがある冒険者たちはこぞってゴンドビーナ山岳へ出かけていった。


シルバーハイブ亭

その日も店は常連客たちで賑わっていた。

と、店の壁が突然光り出し、それはやがて魔法陣を形作り始める。

そういえば昔、常連様特典としてここへの転送護符を配ったことあったな。

マスターのトゥラムは、形作られてゆく魔法陣を見ながらそんなことを思い出していた。


そして、

冒険者風の男が転送されてきた。

男は、常連客のフォルゼフィーだった。

だが、なんだか様子が変だ。

床に崩折れ小刻みに痙攣している。


その様子に何人かが駆け寄った。

客たちが心配そうに見守る中、トゥラムが抱き起こす。

すると顔面は蝋のように青白く、弱々しく吐く息からは甘ったるい匂いがした。

この症状にはおぼえがある。

彼は間違いなく毒に侵されていた。


トゥラムは急いで解毒呪文をかけた。

が、それだけでは足りない。

小間使いのポックルに薬草を持ってこさせると、それを煎じて飲ませる。

顔に赤みがさしてきた。もう大丈夫。



それから一刻の後、

だいぶ落ち着きを取り戻してきたフォルゼフィーが

気付けの茶を飲みながら、事の顛末を話し始めた。


特定のパーティーを持たないフリーの冒険者であるフォルゼフィーは、

ギルドの『G.O.D水晶探索』クエストに挑む際、フリーの冒険者達でパーティーを組んだ。


彼ともう一人、ファイター系が2人。

ソーサラー一人。

レンジャー一人。

レンジャーが探してきたガイド役の現地民族の5人組だ。


紆余曲折

他の冒険者の痕跡に焦ったり、

モンスターと戦闘したり、

ゴンドビーナ山岳の奥深くにしか成らないという甘い果実に舌鼓をうったり、

ムードメーカーのレンジャーが要所要所で芝居っ気たっぷりにガイドをからかったり、

色々な出来事を経て、ついに、G.O.D水晶を発見することに成功した。


喜びに湧く5人。

苦労したかいがあった、これで一攫千金だ!

ガイドがお祝いにと、途中で採取しておいた例の甘い果実を仲間たちに差し出した。

芳醇な香りと味に包まれて疲れと苦労が吹っ飛ぶ。

と、レンジャーが顔をしかめて、ぺっと果実を吐き出した。

「苦ッ! なんだこれ」

「ゴメンナサイ、果実を間違えました」

「わざとだろ」

ガイドは今までのお返しとばかりにフフフと笑った。

その様子がなんだか滑稽で笑いが起きた。

「まあいいや。それよりも預けておいた酒、出してくれ。あらためて乾杯しよう。」

ガイドがポーションの空瓶に詰めておいた酒を5本取り出して皆に渡した。

あらためて乾杯!

クエスト成功の一杯マジ最高!!


と、レンジャーが突然苦しみ出した。

「どうした!」と言おうとした矢先、

フォルゼフィーは全身の血液がいきなり沸騰するような感覚に襲われた。

バタバタと倒れのたうち回る仲間たち、脳裏に浮かんだのはシルバーハイブ亭だった。転送の護符を無意識に発動させたのは、フォルゼフィーの生存本能がそうさせたと言ってもいいかもしれない。


最後に視界に映ったのは、ガイドの不敵な笑い顔だった。



「くそう! サズカヒの野郎!! あのクソガイド!!!」

フォルゼフィーが怒りを露わにした。

奴はお宝を独り占めするつもりだ。

話を聞いていた客たちは、同情したり一緒に怒ったりした。


「たぶん、そのレンジャーもグルだね。いや、どちらかというと首謀者はレンジャーなんじゃないのかな」

トゥラムの言葉に、みながキョトンとした顔をした。

「ゴンドビーナ山岳の奥地にある甘い果実。それはフォカブラスの実のことだろう。あれはアルコールと混ざると猛毒になる。それにレンジャーが最後に食べた苦い果実ってのは多分マタンゴの実じゃないのかな。あれは解毒効果がかなり高いからね、今回のことは十中八九レンジャーの仕組んだ事だろう」

「な!?」

絶句するフォルゼフィー。

「しかしあの苦しみ方は・・・」

「芝居っ気たっぷりにからかうのが好きなんだろ?」

無言

そして、その表情に怒気を浮かべ始めた。

「そいつの持ち物はあるかい?」

トゥラムの言葉に、転送された時に握りしめていた、酒が入っていたポーションの小瓶を差し出す。

「ガイドかレンジャー、どちらかにはたどり着くだろう」

そうつぶやくと、トゥラムはその小瓶に呪文をかけた。

するとその小瓶は形を変え、ゆらゆらと揺らめく実態のない影になった。


『シェイドアローTHEポリドック』

持ち主のところへ導いてくれる追跡の魔法だ。


「ゴンドビーナ山岳の一番近場なら、イルロー街の酒場に転送ゲート開けるが、どうする? 裏切り者を追うか、G.O.D水晶を諦めるか」

「やられっぱなしは性に合わねぇ」

フォルゼフィーは燃えるようなギラついた瞳で力強く答えた。


トゥラムがゲートを開くと、彼は影と共にゲートへと飛び込んでいった。


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