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曙光

今回、子どもに関する発言があります。

もしかしたら不快に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、マリエルはいい加減に考えているわけではないので、ご容赦いただけたら…と思います。


それでも、もし不快に思われたら、ごめんなさい。

 マリエルは公爵邸に帰りつくと、ターシャに裁判室での詳細を話した。

毎日、事件のあらましは話してきたが、しでかした彼らの自業自得とはいっても、判決内容を話すのはやはり気が重いものでもあった。


 判決が出るまでの一ヶ月、マリエルはほぼ毎日裁判室に通ってモールズリー家の話に曝されてきた。

当然、被害者とはいえその犯罪全てにマリエルが関わっているわけではないが、そこに自分の名前が呼ばれる時がくると分かって聞いている裁判はかなりの緊張が伴っていた。


(もし、誰もあの家の犯罪に気づかず、私が嫁いでしまっていたらどうなっていたのかしら…)


 そう思うとゾッとする。

しみじみと行かずにすんで良かった…と安堵する気持ちと、僅かであっても交流のあった人達の行く末に心安かれと思う気持ちが交錯する。


 そんな日々がようやく終わり、この一ヶ月の心の疲れが一度に押し寄せてきていた。


 事件の話を終えると、今夜は夕食は控えて自室で軽食だけにする旨をターシャに伝える。


(本当に…疲れたわ…でも、今夜はもう一山越えないと!)


 今夜中に決着を着ける、と自分で決意したのだ。

自分で決めた以上、今夜決めなくてはならない。


 そんなマリエルの様子を見つめるターシャは、彼女がいつもの頑固さを遺憾なく発揮していることを感じながら、全てマリエルの思うように整えることにした。


 今夜は一睡もされないかもしれない…と、その頑なな主の姿に、侍女もまた覚悟を必要としているのだった。


☆☆☆☆☆


 ターシャの想像通り、マリエルは一晩中自分の頭と格闘していた。


 感情、考え、義務…そういうあれこれを並べては打ち消して悶々と悩み続けた。

昼間の疲労も重なって、何度も放り出そうと決めた。

しかし、そんな時には決まって目の前にある二つの山がマリエルを責める。


 一つはキーランからの花言葉が書かれた便箋。

もう一つはユースタスからの手紙だった。


 キーランの想いを乗せた花言葉は、厚めの白く輝く高級便箋に、彼らしく綺麗に粒の揃った読みやすい字で丁寧に書かれていた。

二つ折りにされたその便箋には、花の名前と花言葉の僅か二つだけしか書かれていない。


 それでも、人の文字というのは不思議なもので何よりも彼の想いが見えてくる。

キーランは心からマリエルに想いを受けとめて欲しいと願っているのだ。


 長年知っている『妹のような』マリエルではなく、一人の『女性』としてのマリエルに想いを返して欲しいと。


 一方、ユースタスからの手紙は定期的に届いていたので枚数は多い。

しかし、彼の送ってきた便箋は騎士隊が遠征地から家族に送る時のそれで、嵩張らないように極限まで薄く漉かれた紙に男らしい線の太い文字で、彼の想うがままの言葉が綴られたものであった。

 そこには手紙を書いているまさにその瞬間のユースタスが閉じ込められていた。


 忙しくて顔を見に行く事もできないのが辛い、忘れられてはいないか不安だ、気持ちは本当に伝わっているのだろうか、美しい夕日を共に見たいと願った、美味しいお菓子を見つけた…と再現なく続く彼の想いは、とても素直なものだった。


 人を想うと言うことは、何を見ても聞いても、その人が思い浮かぶくらい強烈なものなのか…と教えてくれるものでもあったし、その対象が自分であることに面映ゆさも感じていた。


 そんな文字の山々が、投げやりになった自分に語りかけてくるようにマリエルには思える。

そして、また考え直してしまうのだ。


 マリウスが言った日常に当てはめることも、母が言った支えたい人のことも、どちらもやった。


 なんなら、母が言った最後の究極の方法たら言う恐ろしい発言のことも考えた。

恐ろしい発言、それは―――

『五つ目はね、子どもを生みたい人は誰か…よ?』だった。


 そんなこと想像もできない!と当初は憤ったマリエルだったが、後で裁判の傍聴している時に『もし誘拐されていたときに辱しめを受けて出来た子どもでも産みたいか』と考えたことがあった。


 その答えにマリエルは欠片も自信がなかった。

きっと産むしかない。

でも、産みたいか?と聞かれれば産みたくない、と答えてしまうかもしれなかった。

その子どもを愛せるのかと聞かれれば、愛せる!とも思うし、難しいかもしれない…とも思う。

 結局は仮定の話ゆえのいい加減さで、答えは見つからなかったのだ。


 しかし、誰に売られるか分からなかった状態では、そうなる可能性もきっとあったはずだ。

そうならずダグラスが買い手に選ばれていたことは幸運以外の何物でもない。


 そこで、初めて母の言葉を理解できた。

確かに子どもを産むと言うことは、誰でもいいわけではなかったのだ、と。


 マリエルも現実味の無さから、簡単に誰しも嫁げば子どもを産むものだ、と思っていた。

でも本当は、自分が産むことができる体かどうかは分からない。

もしかしたら産めないのかもしれない…

何という傲慢な考えだったのだろう、と今なら思う。


 とても貴重な命を紡ぐと言うことを当たり前に思っていたのだ、と気づく。

大事な貴重なものだからこそ、自分の命をかけて、体を使って繋ぐことは、誰の子どもでも良いわけではなかったのだ。

 そう思ってから、この事に対するマリエルの考え方も、見る目も変わった。


 とはいえ、具体的な相手として考えてもピンとこないのは現実味のない現状では、致し方のないことだったのかもしれない。


 結局、一晩中マリエルは一睡もせずグダグダと考え続けて、夜が白んできてしまった。


 もうそろそろ家人達も起きて働き始める。

いや、部署によってはもう、起きているかもしれない。

そう思いながら、マリエルは立ち上がって体を伸ばす。

 一晩中長椅子の上で座り続けたせいか、体が強ばっていた。


 痛む背中を楽にしようと、マリエルがひっそりと庭に出ると、東の空が赤く広がり出していた。


(綺麗…。でも不思議だわ…同じ赤く染まった空なのに、何故夕日と朝日では違うように感じるかしら。同じ赤でも色味が違って見える。夕日と朝日は違うとハッキリ分かる…何故?………夕日は隠して包んでくれるような温かさを感じるけど、朝日は全てを(つまび)らかにしてしまう強引さと、朝露に光るお花のように明るく輝いた新しいものをもたらす光にも思えるわ。でもこれは私の感じ方よね…他の人にはどう見えているのかしら…)


 マリエルが朝の光の中に輝く、木々や花の上に踊る朝露を眺めながらそんなことを考えていた時に、それはやって来た。


 胸に光ったその思いに、マリエルは笑みをこぼす。


(うふふ…そうよね、考えても分かるわけがなかったんだわ!…ああ、なんて簡単なことだったのかしら)


 まさに朝の光が差し込むように、マリエルの胸の中は光に照らし出されて一片の曇りもなく晴れ渡っていた。


(少し早いけど、お話をするために伺う準備をしよう。まずは一晩中座って出来たしわくちゃドレスを着替えて、しっかり朝御飯も食べて、彼とお話をしよう)


 朝日に浮き出されたマリエルの苦悩の後とも言えるドレスのしわをパンパンと叩くと、顔を上げて晴れやかに部屋へと歩き出した。


 ☆☆☆☆☆


 マリエルが自室に戻ると、ターシャがすでに起きて朝の支度の準備を整えていた。


「あら、ターシャ、早いのね…わたくしが起きているのが分かったの?さすがターシャね」


「それは、もちろんでございます。お嬢様の動きを把握できて初めて侍女足るかと…」


「うふふ…できてなくても、わたくしはターシャがいいのだけどね…」


「っ!?」


 マリエルの言葉に一瞬固まったターシャだったが、すぐに自分を取り戻してに微笑むと何もなかったように続けた。


「お嬢様、今朝はご機嫌ですね。…お気持ちが決まりましたか?晴れ晴れとしてらっしゃいますが…」


「分かる?…うぅん…やっぱりターシャね!そうなの、ついさっきね」


「じゃあ、どちらか決められたんですね?」


「ううん、…決めてないわよ?」


 ターシャの嬉しそうな問いに、マリエルはけろっと屈託なく返す。


「え?」


「決めてはいないの。でも、分かったのよ。…うふふ…ああぁぁ、久しぶりに清々しくて気持ちがいいわぁ!ね、ターシャ。今朝は綺麗にしたいの。いつもより綺麗に整えて、しっかりご飯をいただいて…それから彼に会って話をしてこようと思うのよ。だから、お願い。綺麗になるのに協力してくれる?」


「そ、それは…もちろん致しますが…」


「ありがとう!じゃあ、まずは顔を洗ってくるわね!」


 困惑したターシャを残したまま、ウキウキと楽しそうにマリエルは水差しのある方へと向かっていった。


 それからマリエルはターシャの手を借りて、念入りに髪を梳かして綺麗な艶を出してもらう。

そして両脇を丁寧に結い上げると、後ろは艶やかな銀髪が流れるように下ろしたままにすることにした。


 ドレスは今朝の朝日のように鮮やかな濃い黄色を選び、念のために薄い朱色の濃淡が波のように広がったストールも用意した。


 朝食の席には昨日からマリエルを心配していた両親と兄が、気合いの入った身なりで登場したの娘に、これは何事かやらかすな、と覚悟を決める。


「マリエル、今朝はスッキリしているみたいね。決めたのね?」


という母の問いかけにも


「いいえ、決めてはいませんけど、分かりましたの。ですから、これから彼に会ってきます」


と何の気負いもなく答える。


「えっ?彼って?誰?どっち?」


 カシャン!とカップを乱暴に置いたマリウスが、焦ったように聞いた。

マリエルは艶然とした微笑みで、マリウスを見つめて言った。


「そんな慌てなくても…おかしなことはしてきませんわよ?…誰の所か?…うふふ…特別な方の所ではありませんわ、お兄様、貴方の友人の所です」


「ええっ!?」


「何故驚くのです?」


「マリエル…貴女それで、いいの?」


「そうだよ!お前、よく考えたのかい?」


「…?何故お兄様もお母様も驚いてらっしゃるのか分かりませんけど…もちろん、毎日よく考えましたし、何の問題もありませんわよね?」


「ああ、問題はないよ。ないけど…」


「おかしなお兄様ね…問題はないのなら、何故そんな顔をなさってるの?」


「…僕は…今どんな顔してる?」


「うんんん…複雑なお顔…ですわね?」


「うん。そうだろうね…実際、とても複雑な気持ちなんだよ」


「そうですの?…何故?」


「何故…何だろうね…」


 その顔のまま固まってしまった兄や、ただマリエルをじっと見つめる母、さらには口を開くことすらできずに固まっている父を横目に、しっかりたっぷりと朝食を取ったマリエルは意気揚々と魔法省へ出掛けていった。



やっとここまできました!

明日で終わるはずです!

詐欺じゃないはずです!


ちなみに、マリエルは朝日と夕日は一緒の赤だと言ってますが、実際は夕日は赤いですが朝日は黄色が強いんですよね。

だから、朝日と夕日は分かるんです。


自分でも自然と黄色のドレスは選んでるから、感覚では分かってるけど、言葉は赤になっちゃってるんだと思います。


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