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王太子の懇願

ユースタスの懇願は囲い込み?

「…あんな面会初めて聞いたぞ…」


 ユースタスが不機嫌そうに言うと、マリウスも頷く。


「ああ、まぁその…斬新だった」


 ダグラスまで呆れたような顔をしている。


「…お兄様?わたくし、何かいたしまして?」


 面会室から出たマリエルに、全員が不服そうに言い募ってくる。


「マリエル。私はね、ヒューバートからお前に直接会って謝りたいと聞いていた。もちろん、事件の証言を取りたい気持ちもあったけれど、本来の彼自身は危険思考の持ち主では無いことも知っていたから、護衛付きでなら…と許可したんだよ」


 兄が『私』と言っている。

これは本気で怒ってる…でも何に?とマリエルは先ほどの面会内容を遡って考える。


「もちろんですわ。わたくし、ちゃんとしてましたでしょ?お兄様に怒られるようなことはしてないと思いますけど…」


「いや、私は怒ってるというより、呆れてるんだよ…。何故、謝罪をしてきた犯罪者と恋愛談義になるんだ?まぁ、百歩譲って、彼がロバートの事を兄として取りなしたい気持ちもあったのは理解できるが、そこから何故ああなる?」


「…ねぇ?…わたくしにも、分かりません」


「お前は全く分かっていないようだが、あそこで話された内容は一時的とはいえ全て記録されている」


「ええ!…じゃあ…」


「魔術記録機も記録係もいない犯罪者面会なんて許されるわけがないだろ?…しかもだ、今や正式な結婚の申し込みが二家から来ていることも知られている」


「あ!ああ…」


「思い出したか?つまり、お前があの部屋で話に出した相手が誰なのか全員が知っている、と言うことだ。これは人としての誠実さの問題だよ。…マリエル、王太子に謝りなさい」


「殿下…申し訳ありませんでした…」


 マリエルは真っ青になってユースタスに謝った。

つまり、一犯罪者との面会で王太子であるユースタスを晒し者にしてしまった、ということにマリウスに言われて今初めて気がついたのだ。

 心底、申し訳なさがマリエルを襲う。


「わたくし…犯罪者との面会というより、元婚約者のお兄様として話をしてしまった気がしますわ。…それにこのところ…特に今朝からは、今後をどうするかということで頭が一杯でしたから、つい…」


「はぁ…とにかく、今回は事件の取り調べとは関係ないと言いきって、記録は要約したものだけを提出するように掛け合うよ。護衛も騎士隊の数人だけだし信頼しても大丈夫だろう…殿下、申し訳ないですが、それでもよろしいでしょうか?」


 マリウスが、ユースタスに伺いを立てると、彼は頷いてマリエルに真剣な顔で告げた。


「マリエル、少し時間をくれないか?話がしたい」


「…はい」


 マリエルは自分のしたことに怯えながら、ユースタスについて幽閉棟を後にした。


 ☆☆☆☆☆


 ユースタスに連れられて、マリエルは久しぶりの『裏庭』にやって来た。

庭の中程にある四阿に入り、ユースタスは先に座るとマリエルにも隣に座るように促した。


「マリエル…さっきの面会室の件は、俺はコケにされたとかは思ってない。だから気にしなくてもいい。マリウスが言ったように、あれくらいの書類はどうとでもなる。ただな…お前から何とも思われていなかったのかと思うと…苦しい。まぁ、分かっていたはずなのだがな…お前に憎まれていないだけでも感謝するべきなのかもしれないのだが…」


「殿下…」


「俺は、やはり間違っていたのだろうか?…お前と共にある未来を夢見たのは間違いだったか?それとも、やはり憎まれていたか?」


「殿下、わたくしは殿下を憎んでなどおりません。むしろ、わたくしの弱さがそう私に思い込ませていたと、今なら理解しております。ただ…」


「ただ?」


「先ほどヒューバート様に言われてハッキリと気がついたのですが、わたくし…『恋』をしたことがないみたいですの…」


「今まで一度も?」


「はい。ですから殿下とキーランから想いを告げていただいたのに…お返事ができずにいました。わたくしは…わたくしの気持ちで決めていいと言われても、肝心のわたくしの気持ちが分からないのです。…申し訳ございません…」


「それは、俺に『恋』してないから断る、ということか?」


「いえ、そうではなくて…なんて申し上げたらいいのかしら…もし、わたくしがお二人のどちらかに『恋』をしていたら答えは簡単でしたわ。でもわたくしはその気持ちが分かっていないんですの。…じゃあお二人の違いを、と考えてみると、わたくしにとってキーランはもう一人の兄で、大事な『家族』なんです。彼とはきっと今と変わらない生活が続けられます。そして殿下は、ずっと恐ろしいと思い込んでいましたが、いろんなお話をさせていただいて、過ごした時間のぶん今は恐くもないし素晴らしい方だと思っています。でも、殿下と共に歩むということは、国を背負う覚悟が必要ですわ。わたくしなんかにできるかどうか…不安です」


「なるほど…決定打が見つからないんだな…分かった。少し、俺の想いを話してもいいか?」


 突然、ユースタスはマリエルの手を握ると彼女を熱く見つめながら問いかけ、それにマリエルは顔を赤く染めながら頷いて返した。


「王族というのは、確かに責任が重い。よく説明に使われるように、権力だけで言えば三角形の頂点が王だろう。それを支える臣下がいて、国民がいる。しかし、同時にそれを逆さにした三角形も考えて欲しい。逆さの三角形の一点が国民が背負うものだ。逆に一番上の大きな辺が王の背負う責任だ。俺はそう思っている。だから、俺と共にいて欲しいということは、その責任を背負わないまでも共に見届けて欲しい、ということになるし、国民や一般貴族よりは責任を背負わせることになるだろう。…すまんな、俺はお前に嘘は言わん」


「分かっております」


「その責任を見届けるには、誰でもいいと俺は思っていない。多分、政治で結ぶ婚姻ならば、お前より好条件はあるだろう。これでも、俺にすり寄ってくる令嬢には事欠かない」


「それも、分かっておりますわ」


 マリエルが眉を寄せて言った言葉に、ユースタスは微笑する。

そして自分の親指が手の甲を撫でる、繋がれた二人の手を見ながらユースタスは続けた。


「ナイトリッジに比べると、全てにおいて俺は条件が悪い。あいつは昔からお前を守ってきた男だし、魔力も半端なくあって、新しい術式を編み出す技術は、もはや才能と言ってもいい。あいつなら、どこの国に行ってもやっていけるだろう。前にお前がここで倒れてマリウスの執務室に運んだときも、寝言でお前が呼んだ名はあいつのだった…。胸が痛かったよ。それに、あいつは見た目もいいしな。…でも、俺は自由に使えもしない権力くらいしか持っていない。責任やら義務やら、煩わしいことしかない男だ。…それでも、俺はお前がいいんだ。何故なら、国を背負うということはエリアーデの民を幸せにすることだ、と気づかせてくれたのはお前だからだよ、マリエル。俺がお前を傷つけた後、お前が幸せにならないと自分の幸せもないと気づいたから、それが王として目指すべき道だと気づいたんだ」


「え?」


「…それに、さっきのモールズリーの話でいくならば、俺の『恋』はお前で始まった。つまり…その…初恋ってやつだ。その相手を傷つけたのだから、この想いは叶わないとずっと思っていた。でも、ここしばらく一緒に出かけて共に過ごしたことで、増長していたのかもしらん…」


「初恋…って…」


 マリエルはさらに顔を赤くした。


「それでも、何がなんでも俺はお前がいいんだ。わがままだと言われても。お前がいい。まだしたことがない『恋』なら、俺としてみることはできないだろうか?」


「な…あ、あの…それは…」


「やはり、俺みたいに条件が悪い男では相手にならんか…」


「いや、あの…殿下が、ご自分の条件が悪いって言ったら、他の方々泣きますよ?…まぁ、良いとも言えませんが…」


「正直だな…」


「殿下に嘘を言っても仕方ないので…」


「いや、普通、俺にだからこそ嘘をつく奴が多いんだけどな…だから、お前がいいんだ」


「も、もう、ちょっとお待ちくださいませ!わ、わたくしの頭がついていきません!」


「お前の気持ちが…か?」


「そうです!」


「くははっ…何度でも言うがな、俺はお前がいい。多分、お前もそんなに俺を嫌っていないように見える。どうだ?嫌か?」


「いっ…嫌とか、じゃありま…せんけど…」


「うん。今までに何度も口づけしたが、もし本当にお前が嫌がってたらできなかったことだからな。…ほら」


 ユースタスがそう言って、マリエルの手の甲に唇を寄せた。

それから手首に、手のひらにと続けて唇を落とす。

どうしていいか分からず、口をはくはくしているマリエルに、ふわっと笑いかけると軽く唇に唇を重ねた。


「気持ち悪かったか?」


「…は………え…?」


「恥ずかしいと思っても、俺をはね除けたいほど気持ち悪くはなかっただろ?」


「え…ええ…」


「だから、多分、俺に嫌悪感は無いと思うんだよ。きっと…この先だって、気持ち悪くはなかったよはずだよ」


「なっ!…殿下っ!も、もう手をお離しください!わたくしは真剣に悩んていましたのに…」


「俺だって真剣だよ!さっきから言ってるだろ?どう考えても、ナイトリッジの方が俺より上にいるって!…格好悪くたってなんだって、お前を俺の所に引き留めたいんだよ!」


「殿下…」


 言葉通りの必死の叫びに、マリエルは胸が苦しくなった。


「…殿下。母はわたくしを幼いのだと申します。おそらく、その通りなのですわ。わたくし…感情が…未熟だったのでしょう。実際、今まで何度も婚約破棄を繰り返してまいりましたが、わたくしは多分相手の方のことをきちんと考えて来なかったのだと、ヒューバート様と話をしていて思いました。…きっと頭で自己完結した婚約だったのです。ですから、今初めて相手を思って考えることになって、どうしたらいいか分からなくなってしまってますの。…ここまで来て初めて相手が居ることに気づいたんですのよ?ひどい話ですわ…でも今、わたくしの中身は急成長中だとも思いますの。だから、もう少しだけお返事にお時間をいただけないでしょうか…」


「…マリエル…なかなかに…お前、ずるいな」


「え?」


「そんな風に言われたら…分かったって、待つって、言うしかなくなるじゃないか…」


「わたくし、そんなつもりじゃ…」


「ああ、分かってる。だから…本当はもっと駄々をこねてお前を引き留めたいけど、ここは聞き分けのいい振りをするよ。…元々、ウィルフォード公爵からはモールズリーの判決が出るまでは進めない、と言われていたしな。それまでは、大人しく待つ」


「ありがとうございます。…では、わたくしはこれで失礼いたしますわ」


「…マリエル…」


 早く頭を静めたくて、この場を辞しようと立ち上がったマリエルの手を引いて、ユースタスは自分の腕の中に落とし込んだ彼女をしっかりと抱き締めた。


「殿下っ!」


「しっ!静かに…当分、最後の駄々だから…」


 ユースタスはマリエルの耳元に唇を近づけて囁くと、耳、頬、額へ順に唇を寄せた後で、唇に長く深く口づけた。


(本当に形振り構わずだな…情に絡めて(ほだ)そう、なんて…でも今となっては他の奴には渡せない。嫌われてると思っていたときには受け入れていたことも、今は無理だ!ずるくてもなんでも、触れあって少しでも俺に馴染ませてやる…)


 口づけに翻弄されているマリエルは、ユースタスの黒い心に気づくはずもなく、少しずつ頭のなかが白くなっていくのを感じていた―――



必死なんです、ユースタス。

情に訴えて、絡め取ろうとして、手なずけようとしてます(苦笑)


これに見事ハマっていってるマリエルは、今やっと第二次成長期って位に成長が遅いです。チョロインとか、言われそう…



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