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こんな朝食会議は不要です

会話が多くなるのは、この人たちがおしゃべりなんです。


朝は無口が平穏無事のもと!

下手に口きくと喧嘩になる。皆、朝は気持ちが忙しいからね…

「お父様…今なんと?」


「…正式な結婚の申し込みが届いてしまったんだよ。王家とナイトリッジ伯爵家から。…お前には時期を見て…と思っていたのだが、先日のうちでの会談の時にな、王子とキーラン君の二人からお前への想いと結婚の意思は聞いていたんだが、せめてあの事件でモールズリーが起訴されるか裁判が始まるまではマリエルのことは何も進めない、と言ったんだよ。そしたら、申し込みだけでも…と言うことらしくてな…各家から正式なものが届いてしまったんだよ………ふぅ…」


「父上…それを受け取ってしまわれたんですか?」


 ため息を吐きながら説明したグイドに、追い討ちをかけるようにマリウスがきつく言う。


「マリウス、落ち着きなさい。そんなの、お父様だって受け取らないわけにはいかないでしょう?…マリエル…どうやら、早速答えを出すときが来てしまったみたいね?」


「お母様…」


 朝食を囲む穏やかな朝の家族団らんの時であるはずが、こんな不穏な話をする場に変えるとは!とマリエルは少し腹を立てたが、いや考えたくなくて逃げていたのは自分か…、とすぐに思い直す。


 思い出してみれば、確かにユースタスもキーランも『自分との将来』を考えて欲しいと言ってきていた。

それに対して自分の気持ちが分からず、グズグズと考えることを先伸ばしにしてきただけなのだ。


「だっ…でも、二人とも焦らなくていいって言ってましたのよ?慌てずに、結婚相手に見られるかだけ、考えて欲しい、って…」


「ええっ?マリエル、お前いつの間にそんなこと言われてたんだ?しかも、二人って…王子だけじゃなくて、キーランからも?いつ?」


 マリウスはマリエルがすでに結婚話をされていたことに驚きつつも、何より自分がキーランから何も聞かされていなかったことに衝撃を受けていた。


「キーラン?…あの…ヒューバート様から助けていただいた後に『山猫亭』で、事件について話してくださっていたときに…」


「…僕たちが着く前か…」


「ええ…あの…でも、ヒューバート様の思い込んでいた内容とか、過去の話とかで言わないと分からなかったから、ついでに言われたような感じでしたわよ?前もって、言おうとしてた感じでは…」


「いや、お前…ついで、って…それはあんまりだろ…」


「かっ、軽く考えているわけじゃありませんわ!…ただ………ただ、本当に考えたことなどなかったんですの…キーランと歩む人生なんて…だって子どもの頃から近くにいましたでしょ?特に魔術師で長年ご迷惑をおかけしていたわけだし……恋情より感謝の方が先に立ってしまったのも、致し方ないかと……」


「なるほど…貴女はキーランのしてくれていた施術を『助けてくれた』のではなくて『迷惑をかけた』と感じているのね?」


「え?…ええ…そうですわね…もちろん、助けていただいたと思っているんですけど………そうですわね、確かに忙しい中でわたくしのために時間を割いて施術してくれて…ご迷惑をおかけしたな…と言う気持ちが先にあるみたいですわ」


 考えずに使った言葉を捉えて追及してくるリンデルに、マリエルは改めて自分の真意を考えさせられる。


 これはリンデルが、子ども達が小さい頃からよくやってきたやり方だった。

 何か問題があった時にリンデルとじっくりと話をすると、今のように言葉の端々に引っ掛かった所を細かく突いてくる。


 二人は、そうやって突き詰められることで逆に自分の気持ちが見えてくる、ということを何度も経験してきていた。


 一度不思議に思ったマリウスが、何故そうやって僅かな言葉尻を突き詰めるのか?とリンデルに聞くと

『人はね、考えて話しているようでも、ちょっとした言葉尻に本意が漏れだしているものなのよ。自分でも気づいていなかった本意がね。だから、冷静な周りの人間がそこを突いてあげると、その人も自分のことに改めて気づくようになるものなのよ。これ、貴方も覚えておくと便利よ?…馬鹿な人ほど自分の秘密は隠せていると思っているものですもの。そんなの、少し話をしていれば駄々漏れになるのにね』と、リンデルが鮮やかに笑った。

 母から聞いたその事を、忘れていない出来の良い息子は、今やそれをしっかりと仕事に活かして『千里眼の宰相子息』などと言われているが、それが自分のせいだとはリンデルは知らない。


「キーランは近い存在過ぎたのね…」


「じゃあ、殿下は?…殿下はいつ?お前はどう思ってるんだ?」


「殿下?…それこそ、考えたこともありませんでしたわ!わたくしにとって殿下は、逃走対象でしたもの」


「そうだよな…でも、最近…そうだよ!最近、お前はあいつの顔を見ても倒れないじゃないか!」


「ええっと……で、殿下に言われたのは…トール様と婚約破棄する…少し前?ですかしら…」


「っ!…あの日か!?」

「………あれか…偶然会って倒れたって、うちであいつがお前を抱えていた…あの日か!」


 グイドとマリウスが一斉に気づいて、声をあげる。


(まったく…要領の悪い子だこと…誰に似たのかしら?他の大事なことが知られる前に目を反らさせないと…)


 リンデルは軽いため息をお茶を飲む振りをしたカップで隠す。


「まぁまぁ、いつ言われたかよりも、マリエルの気持ちの方が大事でしてよ?」


「そ、そうだな!で、マリエル、あれのことはどう思ってるんだ?」


「………殿下のことは…今は恐くはなくなりましたわ」


「何でだ?…自分の顔に問題がないと理解できたからか?」


「…顔の問題は現在進行形で乗り越え中です。ただ、前ほどは周りの目を疑ってはいませんが…」


「当然だな。元々お前には何の問題もなかったんだから…まさか、ナールがお前の体に合わないなんて誰にも分からないことだったんだから」


「え?ナール?」


 グイドの言葉に初めて聞いたかのようにマリエルがきょとんとした顔で聞き返した。


「え?お前、忘れたの?…あの時、お前の顔が腫れ上がったのはナールを食べたせいだ。お前の体にはナールの持つ何かが合わなくて、拒絶反応を示したんだよ」


「そ、そうだったんですの?」


「………また、人の話を聞いてなかったんだな…」


「マリエルお父様のお話しは、本当に大事な話の時もあるのよ?そんな時のためにも、ちゃんと聞くようになさい!」


「母上…中々ひどい…父上が傷ついてますよ?」


「あら、グイドだって、皆が全部聞いているとは思っていないでしょ?それにね、お城で皆がお父様の言うことをハイハイ聞くから、家にいるときはこれくらいでいいのよ。ね?」


「あ…ああ、まぁ、そうかもしらん…」


 少し俯いた父の姿を見ながら、マリエルの頭に浮かんでいたのは


(じゃあ、私の悩みはもっと早くに解決できたと言うこと?ナールさえ食べなければ良かったということなの?…そういえば、いつだったか殿下がお兄様に持っていったケーキにナールが入ってるか聞かれたわ…あれ、私のことを心配しての言葉?……ああ、確か…私検討違いのことを思って腹を立てていたはずだわ…)


という反省のような、自らの過ちに気づいた恥ずかしさから来る煩悶のような思いだった。


「…ごめんなさい…と、とにかく、わたくしが顔を出していられるのはキーランの施術のおかげと思っていた時に、魔術の聞かない王族である殿下が大丈夫だって、言ってくださったの。それと何より…あの日のことをちゃんと謝ってくださって、何故あんなことを言ったのか、という話を丁寧にしてくださったからかしら…うん、それが一番大きいかもしれませんわね」


「…あれが、何でひどいことを言ったか?…って理由があるのか?」


「ええ、まぁ…詳しくはお話しませんが、何故そう言う言葉が出てきたのか…ということについて個人的なお話を伺いましたわ。多分、あまり人にはお話しになりたくないことだったと思います。でもそれを謝罪するために話してくださったので、恐さも怒りも消えてしまいましたの」


「そう…殿下がされたご自分のお話を、貴女は受け止めることができたのね」


「そんな偉そうなことではないのですが…何でしょう…殿下も辛かったんだ、と言うことがわたくしにも伝わったのだと思います」


「ふぅん…なるほどねぇ」


 マリエルが母の方を見ると微笑を浮かべていた。同じように父と兄を見れば、二人とも眉間にシワを寄せて不機嫌そうだ。


(ふふっ…いやだ、本当にこの二人って親子!…シワが寄ってるお兄様って、お父様にそっくり!)


 そんなことを考えているマリエルは、相変わらず一人だけズレていることにも当然気づいていなかった。




何かマリエルがどんどん鈍感力のある子になってる。

何故かなぁ…


でも、とにかくあとちょっと!


お付き合いくださってる方、本当にありがとうございます。

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