嵐の前のにぎわい
後少しで終われると思います!
(それと余談を少し)
今回は終わる終わる詐欺じゃないはず!
ですが…今日から数日ほど掲載時刻が早朝になります。
できるだけ0時アップを目指しますが、現在『家族会議』勃発中なもので…すみません。
私も普通の常識的な叔父さん夫婦が欲しかったよ…orz(涙)
≪ウィルフォード公爵令嬢拉致誘拐事件≫から、二週間が過ぎた。
手首を縛られてできた傷と、縛られた足首の縄の跡。
自分でつけた手の甲の傷。
それらと合わせて『精神的負担の看護をする時間を要する』と言う家族の強い要望により、マリエルが自宅療養することを認めさせ、度重なる王家からの登城依頼をはね除けていた。
その間でも、事件の事情聴取は受けなければならず、本来なら王城の騎士隊本部まで行かなければならないところを『娘は療養中!』という父の権限によって、自宅での聴取となった。
もっとも、それに否を唱える者などおらず、騎士隊員は嬉々として公爵邸へ足を運んだ。
なんとすれば、誰しもレンガ造りの殺伐とした中で、渋くて苦味が際立った不味いお茶を飲みながら話を聞くより、明るく綺麗な庭も見える邸内で、美味しいお茶とお菓子を食べながら綺麗な令嬢と話ができる方が嬉しいに決まっているからだ。
結果、ウィルフォード公爵邸に行くことができるのは、前日に行われる鍛練の模擬戦での激しい争奪戦を勝ち得た者だけ、という臨時規則を設けられたほどだった。
本来、違う隊員が行くというのにはれっきとした理由があった。
それはこの国の事情聴取のやり方として、毎回違う人間が何度も話を聞くという規則があるからだ。
なぜならば違う人間が話を聞くことで、一方向に片寄らない最大公約的内容を最終的書類に記載する、という基本から来るものであった。
そんな公爵邸来訪争奪戦中において、模擬戦にも出ず、必ず毎回聴取組に参加しているのが第一騎士隊隊長デルフォイとユースタスだった。
毎回違う人間が聴取するとしても誰かが統括しなければならないので、大抵は聴取の責任者も兼ねて隊長もしくは副隊長が通して付き添うのが常だった。
なので、隊長であるデルフォイが毎回参加しているのは当然なのだが、王太子とはいえ一騎士であるユースタスが毎回参加しているのは異例としか言いようがなかった。
☆☆☆☆☆
「マリエル嬢、おはようございます。本日が最後の聴取となりますが、よろしくお願いいたします」
「デルフォイ様、騎士隊の皆様、ご足労ありがとうございます。本日もよろしくお願いいたします」
この一週間、公爵邸エントランスで毎日のように交わされる挨拶だったが、マリエルは騎士隊の面々に丁寧に頭を下げる。
「マリエル、今日は?…具合の方は大丈夫か?」
ユースタスが足を前に出そうとした途端
「エリアーデ一番隊隊長。今は勤務中である、控えよ!」
と、デルフォイに厳しく窘められる。
「はっ!…申し訳ありません…」
生まれは王太子でも、勤務中の今は上司であるデルフォイの立場が上になるのだ。
つい気安く声をかけてしまったユースタスは、少しばつが悪そうに頭を下げながら大きく一歩デルフォイの後ろになるように後ずさる。
「マリエル嬢、失礼をいたしました。…では、お部屋へ参りましょうか」
デルフォイに促されると、マリエルが後ろにいたターシャに目線でお茶を頼む。
「はい。こちらへどうぞ…」
マリエルが騎士隊を連れて、臨時の取調室と化した応接室に向かう。
部屋に入って長椅子にマリエルが座り、その前の椅子にデルフォイが座った。
それを合図に、残りの騎士隊員が定位置に着く。
ユースタスはデルフォイの斜め後ろに立ち、小机の前には書記担当が座る。
書類を持った担当官がその横に立ち、聴取書類の作成準備を始めた。
その頃にはターシャがお茶を全員に配り終えて、最後の聴取が始まった。
「では、昨日の続きから伺います。…モールズリーが貴方の売却相手…この場合はモルゲイン第二王子になりますが…あ、書記、今の名前は記載しないように…その相手と交渉している間に、自分が寝かされている台の中に隠れたと言うことですね?間違いありませんか?」
「ええ。…それが、ただの台じゃなくて隠し収納台だと気づいたものですから中に入れるかな、と思って。だって、直接逃げ出す道がなかったんですもの…窓までは届かなかったし、例え届いたとしても…通り抜けられたか疑問の大きさでしたしね…本当に…少し痩せる努力をしなきゃ駄目ですわね…」
マリエルが両手を自分の腰に置き、改めて自分の腰の幅を見てはため息を吐く。
「何をおっしゃるんですか!お嬢様はそのままで問題ありません!痩せるだなんて、とんでもないです!…あ、あの…余計な口を挟みまして申し訳ございません…」
ターシャが思わず、と言った感じで口を挟んでは、頭を下げる。
「あぁ…いや、私もそう思いますよ。マリエル嬢が痩せる必要はありませんね。そもそもまた誘拐されることなんて、あってはなりませんし」
デルフォイがそう言うと、部屋にいた人達が一斉に頷く。
ユースタスにいたっては、腕を組んで睨んでいた。
(なんで?…なんで睨むかなぁ…)
「まぁ…確かにもう誘拐されたくはないですわね」
「もちろんです。…さて、その後はどうなったんですか?」
「えっと…それから…台に隠れる前に窓から逃げたように見える偽装をしてから隠れました。上手く信じてくれて良かったですわ。…もうその後はご存じの通り、ダグラス様とキーランが見つけ出してくれたので、助かりましたの」
「…逃げたように見える偽装…ですか?」
「ええ、でも大したことはしてませんのよ?窓を開けて、その下に椅子と荷運び箱を置いてよじ登ったように見せかけて、足を縛ってあった縄もそこに落としておきましたの。あぁ、それから下着を破いて窓枠に引っ掻けておきましたわ」
「下着をっ?」
「なっ!…下着!?」
ターシャとユースタスが目を剥いてきたので、マリエルは慌てて訂正をする。
「いえっ、言い方が悪かったですわね、あの…下着といってもペチコートですわ!よじ登ったら破れそうなものって、それくらいでしょ?」
「お嬢様…ペチコートよりも外のドレスの方が破けるのではありませんか?」
「まぁ、それも思ったけど…でも一人で逃げだそうと思ってたのよ?…もし、外を走って逃げるときにドレスが破れてるのなんて嫌じゃない?…私は嫌よ?だからペチコートにしたの。それにドレスは厚いから破くのは手間だし、ペチコートは白いから目につくだろうしね」
「驚きましたな…マリエル嬢は中々の策士と見える。…騎士隊で働いてみますか?」
「っ!…本気ですの!?」
デルフォイの言葉を聞いたマリエルの顔が、ぱあっと輝く。
「もちろん!マリエル嬢なら、いい間者になれそうだ」
楽しそうに笑いながら言うデルフォイに、ターシャとユースタスだけが首を横に振り続けていた。
☆☆☆☆☆
事情聴取も無事に終わり、騎士隊が帰った後で、ユースタスだけがすぐに戻ってきた。
服務規程上、一度は本部に帰隊した上で戻ってきたらしい。
「マリエル嬢と話をしたい。お目通り願う」
あまりに堂々と正面から来たユースタスに、当主の帰還と間違えて出迎えた使用人一同は固まった。
そこにターシャに連れられたマリエルが来ると、全員がホッとしたように頭を下げて散らしたようにいなくなる。
(ちょっと待って…これ、みんな私に押しつける気!?)
「先触れもなくすまない。聴取が一段落するまでは個人的に会うことはできなかったので我慢していたのだが、今日で一旦落ち着いたので、会いに来た。どこか話をする所はあるだろうか?」
「…では、庭の方で…」
相手がこの国の王太子とはいえ、未婚の男女が個室で二人きりになるわけにはいかず、かといって応接室では聴取の続きのようでウンザリしていたマリエルは、歩きながら話のできる庭を選んだのだ。
夕方、日も暮れ始めるなか茜色に染まり出した木々が、一段落した今の気持ちと重なってホッと落ち着かせてくれる。
「マリエル…本当に申し訳なかった。改めて謝罪する。すまない!」
「殿下…もう、よろしいのですよ。わたくしは気にしておりません、と申し上げましたでしょう?」
「聞いた。確かに、そう言われてありがたいのだが、俺の不甲斐なさは変わらんからな…オスカー王子の話も聞いたし、何より王子が提供してくださった証拠で今度こそモールズリー家全員を処断できるだろう…」
「まぁ、本当ですか!良かった…」
「…いくら頭が良かったとはいえ、学者肌なのは変わらないからな…結局、ヒューバートは悪事に向いていないんだよ。証拠を消すことなんて考えずにあれこれ動いた上に、ロバートの黒幕を探すために動いたことで父親や兄達の関与も浮き彫りにしたんだけど、どうもそれには気づかなかったらしい。ある意味ヒューバートのおかげで全員処分できる。何とも皮肉な話だな…」
「そうでしたの…。…わたくし、今回始めてロバートをちゃんと知ろうとした気がしますわ…そして、今までずっと、自分のことしか見ていなかったんだと気づかされましたの…」
「…そんな状態に俺がしてしまっていたからな…」
ユースタスが苦笑しながら言う。
「…いえ、殿下のせいと言うより…わたくしが目に見えたものだけに囚われすぎていたんですの。自分の見た目の恐ろしさから逃げたかったから、見えたものだけが全てになってしまっていました。…でも、人や物事ってそれだけじゃありませんでしょう?本当に狭量でしたわ…」
「狭量か…俺はそうは思わなかったけどな…」
「そうですか?」
「うん…どちらかと言うと何でも簡単に許してしまう寛容と言うか、度量が広いと言うか…甘い?大ざっぱ?…ま、そんな感じだな」
「何ですの?それ、どんどんひどい言葉になってるじゃありませんか!」
「いや、実際そうだろ?…俺の事も簡単に許しすぎだと思ったし、かつてロバートの時も一度も責めてないよな?今回のヒューバートのことも怒ってない。俺はむしろその方が不思議なんだよ。あれだけされて、何故腹が立たない?」
「ヒューバートにですか?…あら、もちろん腹を立てたこともありましてよ?…わたくしを偽公爵令嬢と言った時や畜生扱いされた時には蹴り飛ばしてやろうかと思いましたもの」
「…それは…よく我慢したな、と言うべきか…」
「だって隠れていた時だから…そんなことしたら見つかってしまうじゃないですか!」
「なるほど…でもマリエル」
ユースタスがスタスタと近づいてきて、マリエルの肩を掴みクルッと自分の方へ体を向ける。
「本当にすまなかった。…お前が無事だったことを女神に感謝するよ。大事な人が訳のわからない状態におかれるって、こんなに辛いんだな…自分が連れ去られたり、刺されたりする方がよっぽどいいよ」
「何を言って…殿下!貴方、ご自分が何を言ってるかお分かりですか?…曲がりなりにも一国の王太子が、刺されたり誘拐されたりしたら、大問題になるじゃありませんか!」
「いや、でも…」
「でもじゃありませんよ!本当に…回りの迷惑を考えてくださいませ!…って…きゃあっ」
「あぁ、…くくっ…なんだそれ…くくくっ」
ユースタスがマリエルに抱きつくようにして体を寄せて腕を回すと、自分の頭を彼女の肩に乗せ、そのまま笑いだす。
「殿下…何で笑って…」
「いや、お前おかしいだろ。…何で誘拐してお前を売ろうとした男に寛大で、心配した俺には怒るんだよ…ふくくっ…」
「…そっ…それは…殿下が刺された方が良かった、とか言うからじゃありませんか!」
「『お前が拐われるくらいなら』と俺は言ったんだよ?お前が辛い思いするより、俺が痛い方がマシって話だろ?なのに…何で俺が怒られてんだろうなぁ?…ふはは…お前、本当に可愛いよ…」
「うっ!…ちょっ…ここ、うちの庭なんですけど…人がいますのよ?」
「知ってる。…だから?」
「だから、じゃなくて…」
「気にするな。誰も見てないよ」
ユースタスが背中に回した左手でマリエルの腰を引き寄せ、右手が頤を掴むとマリエルはきつく目を瞑った。
ユースタスの息がふわっと頬にかかる。
マリエルが次の行動を予期した瞬間
「そこまで!」
という大きな声によって、マリエルの予期したものは止められた。
ユースタス、すんどめ(笑)
止めたのは、だーれだ!




