捜索
今回の頭を読んで『?』となった方…お手数ですが、二つ前…もしくは一つ前を読んで見てください。
『読んだことない話になってる!』じゃありませんか?
申し訳ない…。
何しろよく分かってない私めが、親族イベントに翻弄されてる間にとんでもなく変な状態でアップされてましたので、元の話を直して、付け足して、書き換えております。
で、やっとここからが通常モードになる次第です…
「…何か一つでも分かったことはないのかっ!」
行方が分からないマリエルの捜索を初めて半日が経とうとしていた。
各騎士隊を始め城内警備員総出の捜索にも関わらず、その行方は杳として知れなかった。
自分が所属する第一騎士隊からの『令嬢の行方が見当たらない』という報告に、つい気が緩んだのかユースタスは声を荒げた。
「いや…すまない。皆が必死に捜索していることは分かっているのに、つい大声を出してしまって…デルフォイ隊長、申し訳ありません…」
「お気持ちは分かっておりますので、お気になさらず。我らも心して探しております。何の痕跡も残さず連れ去るなどあり得ません。人間ならば何かしら跡を残しています。今は魔術省からも新たな捜索隊を出しています。どうか、今しばらくお待ちください!」
「分かりました。頼みます、デルフォイ隊長」
ユースタスは前副隊長で恩師でもあり、現第一騎士隊隊長デルフォイに頷きながら頭を下げる。
普段は上司になる第一騎士隊隊長でも、今は指揮権が王太子であるユースタスにある。
お互い状況に応じて立場が変わることには慣れていたが、今回ばかりはユースタスが上手く切り替えられていない。
話しているうちに立場が上がったり下がったりしているのは、やはりユースタスのデルフォイへの信頼と甘えからなのだろう。
(やれやれ…まだまだ修行が足りないようだな…まぁ、王子最愛の公爵令嬢が城内で行方不明とあっては仕方ないか…とは言え、指揮官がこれでは困る。ここは一つ気合いを入れ直しておくか)
「殿下!私は前にも言いましたね。『気を緩めるは命の終わり』と。これは何も戦っている本人だけに当てはめる言葉ではありません。周囲の者にも言えることです。我らが気を緩めれば、ご令嬢の命もそれだけ危機に曝されるのですよ。指揮の乱れも気の緩みと同じこと。冷静に、確実に進めてください!」
隊長の言葉にユースタスは、ハッと息を飲む。
「分かった。…自分を見失っていたようだ。感謝する」
「…いえ、では、公爵令嬢の行方以外でご報告できる事がいくつかございますので、改めて申し上げます」
ユースタスの眉がくっと上がる。
(報告できることがあるなら、何故早くしない!と思ってるのが顔に駄々漏れだな…うちの秘蔵っ子はまだ苛めがいがある)
デルフォイはユースタスが落ち着いて話ができるようになるまで様子を見ただけだったのだが、ユースタスから見ればこんな時に遊ぶな、と言いたくなる気持ちをグッと押さえていた。
「…先程聞いた魔道省長の話によると、殿下が申されました通り、確かに私的面会室の中に魔力を感知した、とのことでした。しかし、微量過ぎてどの類いの魔力か判断をつけかねるそうです」
「…どの類い、とは?」
「私も詳しいわけではありませんが、魔力には術者の傾向が見えるのだそうです。我が国の傾向や他国の傾向も魔道士には見ることが出来るのだとか…殿下も魔力鑑定を受けられてますよね?」
「あぁ…あれか。確かに、魔力が発現したあとに鑑定は受けた。私の属性色は橙色だったかな。赤みが強いのは戦闘向きと言うことで、騎士隊への参加も認められたはずだ」
「それは、まぁ…戦いの赤と君主の黄色…なんとも王太子向きの色ですなぁ…ま、それはさておき、我が国の登録魔道士なら全員個人認証として当然登録されています。通常はそれで登録魔道士の関わっている犯罪かどうかを判断するそうです」
「なるほど、それが分からないわけか…」
「はい。さらなる問題がありまして、我が国のものだけではない他国の魔力も感知したとか…」
「っ!…どこのだっ?」
「…それも判然としないのだそうです。少なくとも我が国と隣接する国々ではないようだ、とのことでした」
「…戦になど発展させるわけにはいかないな…」
「はい…ですから、冷静に、と申し上げました」
「分かった。落ち着いて見極めるようにする」
ユースタスが硬い顔で頷くのを見て、もう大丈夫だろう、と判断したデルフォイは
「では、わが隊は捜索に戻ります」
と言うと、礼をして執務室を後にした。そのため
「…俺はあいつを守ると誓ったんだ…目の前で拐われるなど許せるわけがない。…例え、相手が誰であっても!」
壁にかかった大陸全地図を見ながら、静かに闘志を燃やしているユースタスを、デルフォイが見ることはなかった。
☆☆☆☆☆
マリエルが意識を取り戻した時、自分の置かれた状況がさして変わっていないことに安堵した。
相変わらず体は台の上に転がされ、手足は縛られ、口にはスカーフがしっかりと巻かれていた。
少し開いた扉の向こうからボソボソと話し声が聞こえることから、向こうにももう一部屋あるのだろう。
さっきヒューバートが話していた、マリエルを売り渡す相手がすぐそこにいるのかと思うとゾッとする。
(怯えている場合じゃないわ。早めに目が覚めて良かった…どうやって逃げ出すか考えないと…今はまだ、私が目覚めていることにヒューバートは気づいていない。これをどう利用するか…)
下手に体を動かせば、台の軋む音でヒューバートをこちらに呼びかねない。
マリエルは、ソッと少しずつ台の端に向けて体をずらしていく。
足の先が台の端をとらえると、足の裏で端を押し出すようにして上半身も端に寄せる。
膝から下が台の下に出るほど縁ギリギリまでくると、足を下ろして肩と手で台を押して体を起こそうとする。
台がギシギシッと音を出す。
僅かな音にすら神経質になっているマリエルにとっては、その小さな音でもヒューバートが来るのではないかと気が気ではない。
もう一度お腹に力を入れ、肩と痛む手で台を押すと、上半身が起き上がり台に腰かける形になった。
ふぅっと息を吐いて、後ろ手に縛られた手を動かすと痛みが走る。
マリエルは床に足をつけると、縛られた手を体に沿って下げていく。
手が下に行くに従ってしゃがむようにして体を小さくする。
やがて、足首に手を縛る縄がかかると、マリエルは大きく息を吐いてさらに体を縮こまらせて、縛られて輪になった手で足をらせ始めた。
体と手の間接がギシギシ痛み、足もプルプルと震える。
しかも、スカートが邪魔をして思うように手が潜り抜けない。
マリエルは体をさらに丸めて、息も苦しいなか足を輪から引き抜くと、手が前に回り少し楽になる。
そのまま足の縄を解こうと、後ろにある結び目を前に引っ張り出す。
縄が擦れて、マリエルの柔らかな肌が裂けるのが分かった。
(痛いっ!…ヒューバート覚えときなさいよっ!)
マリエルはわざと意識してヒューバートへの怒りを高める。
その怒りが、逃げ出すための活力になることを知っているからだ。
固い縄に爪も割れ、指先の滑りに血が出ていることを感じるが、こちらはわざと意識しないようにする。
血はマリエルに恐怖を呼び起こしてしまうからだ。
マリエルはふと気づいて、それまで縄の縛り目を引っ張って解こうとしていた手を止めて、逆に結び目からでた縄を押し込むようにする。
すると、固かった結び目が少しずつ押し出されて浮いてきた。
そのまま押し上げて、結び目を弛めると足の拘束を解くことができた。
次に取れるのは口元ののスカーフだが、マリエルは少し考えてスカーフはこのままにした。
逃げてる時にうっかり何かで声が出そうになっても、このスカーフが吸収して消してくれるのなら利用できる、と考えたからだった。
本当は手を一番解きたかったが、解く術のない今は諦めて脱出口を探すことにする。
部屋の奥に灯り取りの窓があったが、その高さまで届いたとしても通れるかどうか、ギリギリの大きさの窓だった。
他に外に繋がる所がないか、マリエルは必死に考える。部屋にあるのは、棒と椅子と荷運び箱…そして寝かされていた台だけだ。
(この台…もしかして隠し収納…?脇に押込み口がある。じゃあ、ここを押して飛び出した引き口で戸が開けば中に隠れられるかも!)
隣の部屋からはヒューバートが何か怒鳴っているのが聞こえる。さらにドタバタと動く音も聞こえてきた。
(時間がないわね…逃げ出すには…逃げ出すには………いえ…逃げ出すのは…無理ね。…じゃあ、逃げ出せないなら、逃げたと思わせればいいのよね…)
マリエルは考えを切り替えることにした。
壁に立て掛けてあった棒は、灯り取りの窓を明け閉めするためのものらしい。
それならば、とそれで窓を大きく開けた。
次にスカートの下に穿いていたペチコートの裾を破り取り、棒に絡ませると窓枠の金具に引っ掻けた。
そして、さっきまでヒューバートが座っていた椅子を窓の下に置くと、その下には足を縛っていた縄を落とす。
だめ押しとして、椅子の上に部屋のすみに置いてあった荷運び用の箱を乗せて置く。
そこまでしてから出来映えを確認すると、マリエルは自分の寝かされていた台の脇から戸を開けて中に入りこんだ。
中からソッと戸を閉めて、気配を消すように膝を抱えて小さく横たわった。
(こんな子供騙しに引っ掛かってくれるかしら…お願い引っ掛かって!…どうか…今だけでもいい、ヒューバートが馬鹿になりますように!)
マリエルは息を殺して台の中で身を固くして、部屋の様子を伺いながら見つからないことを祈るばかりだった。
マリエルなかなか酷い。
あんまりないと思うよ?
神頼みに『○○が馬鹿になりますように!』ってお願い。
さて、今回少し短めです。
やっとこれで、0時更新に戻れるかな…




