表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/52

正しい逢い引きとは?

マリエルは訓練だと思ってます。

ユースタスはデートだと思ってます。

他人は『密かな逢い引き』だと思ってます。

 ユースタスは、本当に次の日から昼食後を狙って毎日迎えにきた。


 最初の頃は、人の少なさそうな所での散策がほとんどだった。

 それは本来ならご令嬢と行くには向かない、疑われてしまうだろう所ばかりだったが、今のマリエルには気を楽に過ごすことができた。


 自然の中をゆっくり歩いていると、体と心の強張りが解けてくる。


 散歩の間、ユースタスは真横ではなく、まるで護衛騎士のようにマリエルの少し斜め後ろを付かず離れずついて歩いた。


 途中、マリエルが足を止めてユースタスを見ると、彼は彼女の顔を見ながらそっと抱きしめてくる。

 それから甘やかな声で、囁くように耳元で言う。


『お茶、飲むか?』


 そして敷布を広げてマリエルを座らせると、必ず持参してくる第一騎士隊愛用の遠征用携帯保温水筒に入れてきたお茶を、小さな携帯用カップに注いでマリエルに飲ませる。

 マリエルがお茶を口に運び、十分喉を潤すのを待って、同じカップを使い自分も飲む。

 どうやらユースタスにとって、散策、抱きしめてからのお茶、までが毎回一つの流れとなっているらしい。


 また、マリエルは出かける際にベールを手放さなかったが、馬車から出て誰もいないと分かるとユースタスは


『俺しかいない。顔を見せろ』


と言って、ベールを上げた。

 しかし、ユースタスはベールそのものを奪うようなことはしなかった。


 そして帰る前には必ず、思い出したようにマリエルの顔をじっと見ると、ニッコリ微笑んで


『心配するな、今日もきれいだ』


と言って、軽い口づけをしてくることも忘れなかった。


 そんな風に戸惑うことばかりの二人の散歩だったが、意外なことにマリエルにとってユースタスと一緒の時間を過ごすことは、気を遣わずに済む楽な時間となった。


 元来、兄と一緒に遊びながら育ったマリエルは細かい性格ではない。

 むしろ、自分についてウダウダ考えてしまう今の方が彼女にしては珍しい状況とも言える。


 一方のユースタスは、彼を大事に思いつつも、構い方と構うタイミングを外しまくった国王夫妻によって、騎士隊で育ったと言える根っからの(騎士の礼節という皮を被った)大雑把さで対応してきた。


 その二人の湿度の低いところが、お互いに近いものを見出だしたのかもしれなかった。



 やがて、マリエルが野外散策に馴れてきたある日、


『今日は違うところに行こう』


と、ユースタスが言い出して、少し人のいる公園に行き先を変えてきた。


 マリエルは、初日こそ緊張からくる胸のムカつきに必死に耐えたが、数日もすると次第に落ち着いてきた。

 というのも、野外とは違いユースタスが必ずマリエルの横を歩くようになり、前から人が来るのが見えると、さりげなく自分の体でマリエルを隠して、人目に触れないようにして守ってくれたからだった。


(…何かしら……やっぱり、殿下というより騎士の方が全面に出されている行動よね?…でも、ちょっと…ふふっ…忠犬みたい…)


などと、不届きなことをマリエルが考えていたことは、もちろん秘密である。


 公園に慣れたら、次は散歩の後にあまり人目につかない店でお茶を飲むようになった。


 店そのものも、奥まった静かな所にあるというのに、さらに気を遣ったユースタスは、必ず店内の一番人目につかない所に席を取った。


(よくまぁ、こんなお店を次々見つけてくること…)


 そんな感心をしつつ、どうにかお茶の時間まで楽しめるようになってきた頃、当然と言えば当然の事態が起きた。



 今日の散歩とお茶も終わり、さすがに最近は人目があるので馬車の降り際になった、きれいだ、という言葉と口づけも済み、マリエルが公爵邸のエントランスに入ってターシャに迎えられた時のことだった。


 父、グイドが憤懣やる方なし!といった感じでドタドタとマリエルの後ろから入ってきた。


「お帰りなさ…お、お父様?」


 スラッとしてるグイドは、普段なら所作は優雅だと言われる。

 しかし、今のグイドにはその欠片も見られず、マリエルは言葉に詰まる。


「なんだ、マリエルも今帰ったのか?…キーラン君の所に行かなくなってもう二ヶ月以上か…どうだ?少しは慣れたか?」


「ええ…まだ不安ですけど、慣れるように頑張ってますわ」


「そうか!…ほら、みてみろ!うちの子は、可愛い上に、なんてがんばり屋なんだ!…全くうちの娘の努力をあの馬鹿に見習わせてやりたいもんだ!」


「…はい?お父様?…何かございましたの?」


 怒りだけではなく、壊れたか!?と言いたくなるほどのグイドの乱れっぷりに、おろおろしながら問いかける。


「もう、本っ当にうちの娘、天使!…あの馬鹿なんぞ…うぅっ…下手な呪いの言葉は自分に返ってくるようで言えんとは…く、悔しいっ……聞いてくれ!マリエル、それがなっ!」


「はい?」


「あの馬鹿は、このところ午前中しか仕事をせんのだ!」


「馬鹿とは……殿下のことで…」


「馬鹿は馬鹿でいい!…とにかく、あやつめ騎士隊の訓練すらも全部午前に回しやがった。しかも、午前中で処理し切れなかった書類仕事があっても、全て夕方以降しか見らん!」


「そこまでしても()()やらねばならないことがある!と言いやがってな、しかもそれは()()()()()()だ!とまでぬかす。そこまで言うのなら、余程のことだろうと様子を見ておれば…あ、あのっ、…あの馬鹿はっ、毎日どこぞの未亡人と逢い引きに(いそ)しんでると言うではないか!…ふっ…これで、仕事が滞っていたならば、切って捨てようほどに、一応書類は朝には片付いているので、今までは、あの馬鹿も年頃か…と我慢していたわけだ。…どこの馬の骨かは知らんが、歳かさの未亡人なら都合よく遊んでも問題はないのだろうと、そこまで、私は我慢していたのだぞ!」


 グイドは、一気に捲し立てて息が切れたのか、深呼吸を一つ吐く。


「聞けば、毎日公園で会っては誰にも顔すら見せない構いよう。どこぞの店に入れば奥まった人気のないところでイチャついてるという。日々、そんな噂やら報告やらが次々上がって来るんだ。もはや誤魔化しようもない!…あの馬鹿はいったい何をしてるんだ!これのどこが()()()()だ!」


マリエルは父の言葉にいたたまれなくなり、


「あ、あの…お父様、その馬の骨は…」


と自己申告しようとしたところを、ターシャが腕を引っ張って、頭をふるふると振って止められる。


「…馬の骨がどこの奴かはまだ調べがついてはおらんが、奴は余程ご執心と見える。…まぁ、国さえ滅ぼさなければ、奴がどうなろうと知ったことではないと言いたいが…そうなると、後始末は私かっ……くぅっ…それなのにっ!それなのにだっ!あいつめ、国王を通して直々にマリエルを嫁にしたい、と言ってきやがった!自分を最後の婚約者にして欲しいだと!?………馬鹿は死んでも直らんと言うが、あの馬鹿は頭だけではなく、体全て馬鹿だけでできているに違いない!誰が許すと思うんだ!別の女と良からぬ浮名を流すような馬鹿だぞ?ただでさえ、うちの天使を傷つけた過去があるくせにだ!何様だ、あの馬鹿は!」


「お馬鹿様ですね」


「お兄様!」


 いつの間にかエントランスにはマリウスが立っていたが、父の話を聞いてか、その顔は憤怒の形相だった。


「父上、レイモンド国王から私にも、馬鹿をよろしく頼む、とお言葉がありました。もちろん、その場であり得ません、と即答しましたよ!」


 二人が、仮にも王太子であるユースタスをボロ雑巾のように扱き下ろしているところへ、ターシャが救いの女神を連れてきた。


「二人とも、一度その辺で終わらせなさいませ。いつまでもそこで文句を言ってらっしゃるから、使用人達も仕事ができず困っているじゃありませんか!まずは、お着替えになられて、お茶でもいただきながら、私にも分かるように、ゆっくりお話を聞かせてくださいな。…いいですね?グイド?マリウス?」


「はい…母上…」

「…分かった…」


 二人はしぶしぶ頷いて、それぞれ着替えに自室に戻っていった。

 リンデルは人差し指を口の前に立てると、ターシャとマリエルにそっと目配せをしてグイドと共に下がった。


 マリエルはターシャと自室へ向かいながら


「何あれ…え?何なのあれ!どう言うこと?…わたくしが毎日出かけていることは皆知ってるのに、殿下と出かけていることはお父様達は知らなかったの?…わたくし、伝えたわよね?」


「奥方様がご自分の所でお留めになったのかと思われます」


「ええ?…お母様が…どうりで。殿下と出かけるというのに、誰も何も言わないな…と思ってたのよね…」


「それにしても…チッ…本当に間の悪い奴め…アホですか!」


「………」


(…ターシャったら、また舌打ち…それにしても改めて殿下の我が家での地位って、最底辺ね…)


「どこの馬の骨って…そんな噂が流れていたの?ターシャ知ってた?」


「…ええ、まぁ。その…お嬢様はベールで顔を隠されてらっしゃいますが、()()は堂々と出してますからね。本人も隠す気はないようですし…今や、王太子の初恋はどこの未亡人か!?実は略奪愛ゆえに未亡人の振りをさせているらしい、などと話題になっているようですよ?」


「…あぁ…」


 マリエルは頭を抱えた。


「大丈夫ですよ、本人喜んでやってるんですから」


「でも、仮にも王太子よ?わたくしの都合に巻き込むわけにはいかないでしょう?しかたないわね…明日、話してみるわ…」


「多分、否定して終わると思いますけどね…奴はお嬢様しか見えてませんから…」


 二人は、父と兄の剣幕に押され、さらには噂話に困惑していたので、一番面倒な内容は耳から通り抜けてしまい、忘れ去っていた。


 実に、そのことを思い出すのは、退っ引きならなくなってからのことだった――――。




前半、お話を開いて書いてみたら、もうベタ甘、激甘の山で、しかも長くなっちゃうので、ざっくり縮めて書き直しました!


(とは言え、耳元で『お茶』って囁く甘い声って…やっぱりマヌケでしたよね…反省…)


ラブくしたい。でも、そうすると長くなっちゃう…でもラブ欲しい。

そんな悩んでる私を横目に、気を抜くと好き勝手しやがるんですよ、ユースタス!

書いてる側が言うのもなんですが…何故か、王子と戦ってる私めなんです…


ユースタスめ、ざまぁみろ!マリエルとの幸せタイムカットだ!

王子の思い通りには、ならんからな!


(あ、あれ?王子が、私にざまぁされた?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ