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うちの侍女は世界一!

侍女と令嬢のお話です。


前回よりは短めですが、このくだりとしては思ったより長引いてしまった気が…

「お嬢様、髪型はこれでよろしいですか?髪飾りはどうなさいます?」


 脇をしっかり編み込んで、後ろは緩くまとめた柔らかめの髪型。

 その髪型を飾るのに、金細工に繻子(しゅす)の房飾りがある華やかな髪留めと、木彫りに貝を嵌め込んだキラキラしてる割りに、素朴な髪飾りのどちらにするか、ターシャが聞いてくる。


「そうねぇ…お兄様の所に伺う為には城内に入ることになるから、余り華やかな物は付けたくないわね。木彫りの方はどうかしら?」


「左様でございますね、城内では目立たない方がよろしいでしょう。ではこちらに致しましょう」


 (良かった…選択は間違っていなかったらしい)と安堵する。

マリエル的には、どうせ自分には見えない後ろの飾りなど、本当はどうでも良かったりする。自分の目的のためにおしゃれはするが、所詮自分のようなものがおしゃれして何になる、と内心は考えている。

 だが、こういう選択も礼儀作法のうちらしく、マナー指導に厳しいターシャに掛かると、今のような簡易試験となるのだ。


「ターシャはマリウスお兄様と同い年よね?」


「左様でございます」


「と言うことは、私より三つ上なだけなのに知識豊富よね…」


「お嬢様。それは暗に、私が年寄りだと仰っていらっしゃるのですか?」


「っ!…ち、違うわ!逆よ!わたくしの勉強不足を…ねっ?」


不快に怪しく光ったターシャの目に、慌てて勘違いを訂正すると、ターシャはにこやかな顔に戻って言い切った。


「左様でございますか。大丈夫でございますよ、私の知識習得量が多いのは、(ひとえ)に専門教育開始の時期が早く、少しばかり記憶力があっただけにございます。ですから、お嬢様は私のようになるのではなく、私のような者を使いこなすことが出来ればよろしいのです」


「はい…ごめんなさい…」


逆に(これは暗にわたくしの頭が悪いと言われてるの?本気で怒らせたかしら?)と軽く思いながらも素直に頷く。


「ですから、お嬢様はきちんと何が正しくて、何が間違っているか、取捨選択が正しく出来るようにだけおなりください。よろしいですね?」


「はい」


(あぁ、確かに)と、ターシャの真意が分かると、マリエルはホッとした気持ちになる。


 ターシャが、マリエルの侍女兼教育係として仕えるようになったのは、まだマリエルが4歳の頃だ。

 親戚一同で唯一の女児と甘やかされていたマリエルに、年の近い侍女として着任したのがターシャだった。それが、いつの間にやら王城の侍女認定試験に合格し、いつからでも王城で働く資格を得ていた。

 しかもそれは、任務年数さえ満たせば侍女長に、更には女官長にも立候補できる高級女官として働く事が可能な、一番高度な資格試験だった。

 そんないい職場に就くことができるなら、早晩、ターシャは自分の元を離れてしまうのだろう…とマリエルは彼女を尊敬すると共に、離れてしまうことを寂しく思っていたが、ターシャは何でもないように『お嬢様の為に必要と思い取っただけの資格です。王城には行きません。』ときっぱり言ってのけた。


 そんなターシャが、マリエルの教育係も任されるようになったのは、ごく自然なことだったのかもしれない。

 一方のマリエルは、子供の頃から一緒にいてくれて、しっかり寄り添っては助け、諭し導いてくれるターシャを、侍女と言うより姉のように慕い、率直に何でも話すようになっていた。


 だから鏡の中の自分を見て、マリエルは他人には決して洩らさない隠れた言葉を素直に言った。


「…ターシャ…口元にヒビが入ってきたように見えない?」


「いいえ、いつも通り綺麗なお肌をしてらっしゃいますよ?」


「そうかしら?…ううん、やっぱりヒビ割れてきてるわよ。前回お願いしてから一週間が過ぎたものね…もうそろそろ行くタイミングなんだわ」


「キーラン様の所でございますか?」


「ええ…。そうね、丁度いいわ。今日、お兄様の所の帰りに、魔道省に寄って、キーランに施術をお願いしてくるわ」


「…私はお嬢様に、美顔施術など必要ないと思いますけれど…」


「ターシャは小さい頃から私を見てるし、わたくしのこと嫌いじゃないでしょう?」


「それは、もちろんでございますが…」


むしろマリエルを大事に思うからこそ、ターシャは子供のうちから頑張って資格を取ったのだ。

 とは言え、そんなターシャが贔屓目に見ずとも、マリエルは子供の頃から十分に美しかったし、今ではどこに出しても恥ずかしくない公爵令嬢だと思っている。


「だから、そう言ってくれるのよ。もし、わたくしが本当の顔で…素顔のままでいたら、例え公爵家の旨味があったとしても、こんなに婚約の申し込みなんて来なかったと思うわよ?」


「そうでしょうか?」


「そう思うわ。…そうなのよね…わたくし本当はすごくズルいことしてるのよね。その意識はあるの。……でも花の命は短いと言うじゃない?今だけは許して頂こうかと…いえ、これはやっぱり甘えよね…」


 マリエルは下を向いて、軽く目を閉じたままフゥっとゆっくり息を吐いた。

時間をかけて吐ききると、今度は素早く息をスウッと吸い込み、先程とは一転、勢いよく顔を上げた。


「いや!やるだけやるって決めたんだから、前向きに頑張るわ!お兄様の所に行ってきます!」


 (これは…前を向いてる前向きなのか、後ろを向いてる前向きなのか…この違いは大きく、また良し悪しの判別は難しいものね…)とターシャは思いながらも、大事なお嬢様が気分よく出掛けられるように、気持ちよく送り出すことにした。


「お気をつけて、いってらっしゃいませ。城内では、()()()()も慌てて粗相なさいませんよう、ご注意の程を!()()()()も、ですよ?よろしいですね?」


 もちろん最後にしっかり釘を指すことは忘れたりしない。

 なにしろ、ターシャは最高の侍女なのだから。









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