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騙されることの意味

だいたい、直して入りました。(3:33再掲)


中途半端で読まれた皆様、本当に申し訳なかったです…。


「キーラン。今ちょっといいかい?」


 マリウスは魔道省にあるキーランの個室を、ノックもせず扉を開けて入ってきた。


「…マリウス…また逃げてきたんですか…?いい加減、ノックくらい覚えてくださいよ。魔術の発動中だったらどうするんですか?」


「その時は扉の外で待ってるよ」


 何を当たり前なことを、とマリウスに返され、キーランの方が驚く。


「…長年の癖?みたいなものだよ。キーランが魔術を発動してるときには、扉の外にいても僅かな魔力の揺らぎを感じるんだ。だから、開けない。揺らぎがなくなってから、開ける」


 確かに、今まで一度も魔術の発動中に開けられたことはない…とキーランは改めて思う。

 その思いが顔に表れているのを見たマリウスが、宥めるように言う。


「まぁ、そういう感覚は長年のものだ。気にするな」


「…気にはしませんが…」


「気に入らないんだろ?」


「…いえ、発動が分かる術があるというのは、魔術を扱う者として対策を考えなければいけないな、というだけです」


 ふぅん…と呟くと、マリウスは遠慮なく長椅子に座り、昨日からの疑問を率直にぶつけた。


「キーラン、マリエルにいったいどんな施術をしてるんだ?」


「……それは…」


「昨日、婚約者から顔の作り変えに関する魔術の禁忌について聞かされたらしくてね、あの子は君に騙されていたのか、それとも違法な事をさせて法を犯させてしまっていたのか、と昨日から悩んで落ち込んでるんだよ。それで、どうなのか聞きに来たんだ。…どうなの?」


「ああ!…ふっくくっ…ええ、まぁ、騙していたかと言われれば………騙していたでしょうねぇ」


「なっ!キーランっ!」


 否定されるとしか思っていなかったマリウスは、キーランがすんなりと肯定したことに驚いて言葉が続けられなかった。


「まぁ、何をしていたか見せても構いません…そうですか…マリエルは落ち込んでいましたか…きっと、あの子のことだから、私が騙しているなどと考えもしなかったんでしょうね…さあ、どうぞ、こちらへ…」


 キーランは執務室の隣に設けてある休憩室へとマリウスの移動を促す。


「貴方がお屋敷に帰って、本当に私に騙されていた、と言われたら…彼女はどうなりますかね…泣くかな?…くくくっ…ああ、それは見たいなぁ。今日はお宅にお邪魔させてもらいたい、とすら思いますね」


「キーラン…お前本当に…騙していたのか?あの子を……何故?…」


「まぁ、まぁ、いいから、その椅子に座ってください」


 キーランは、いつも施術の時にマリエルが座る鏡台前の椅子にマリウスを座らせると、鏡に掛かっていた覆いを外す。


「さて、そこに何が見えますか?」


 マリウスはキーランが何をしたいのか分からないままに、鏡を見る。

そこにはいつも通りの自分の顔が映っていた。


「僕の顔だけど…」


「そうでしょうね。確かに私から見てもいつもの貴方の顔に見えます。………ところで、貴方はお兄様ですから、きっとマリエルの泣き顔は何度も見たことがあるんでしょうね?」


「あ?ああ、まあ…」


「あの子の泣き顔は…本当に可愛いですよね?ここでもね、実は施術の度に毎回泣くんですよ。…自分の醜さが辛いと言って…」


「えっ?」


「多分、お屋敷以外で唯一泣く場所なんじゃないですかね?…あの顔は、誰にも見て欲しくないくらい、可愛いですよね…」


 キーランが、マリエルの傷つくことを夢見るように、うっとりと話す姿を見て、マリウスに寒気が走った。


「お前…まさか、そのためにマリエルをっ?」


「…ふふっ…さあ?どうでしょう?でも、あの子が騙されていたと知ったときにどんな顔を見せてくれるのか…それはとても知りたいですね。きっとひどく胸を痛めて泣くのでしょうね…あの子は綺麗な顔立ちのせいか、傷ついた顔が何より美しい。私のせいで傷ついて泣くのかと思うと本当に楽しみです。ぜひ、見たい!あぁ、こうして知られてしまったなら、次からどうやって痛め付ければいいか考えてしまいますね…次から」


「キーランっ!お前、そんな事のために、あの子をっ!」


「…今です!マリウス、鏡をもう一度見てください!」


 突然キーランに鏡を見るように言われ、怒りのままに鏡を見る。キーランは、同時に術式を唱える。

 そこには、顔を真っ赤にして、憤怒の顔をした悪魔のような顔が映っていた。


「くっ…こ、これが僕の顔?…」


「ええ、今、貴方の心の中には私に抱いている憎しみや怒りが渦巻いているでしょう?その感情が、そのまま映っているんです。とはいえ、普通は映りませんよ?今はマリエルの経験を疑似体験していただいているので、その顔が映っていますが」


「は?マリエルにはいつもこんな顔が見えているというのか?」


「まぁ、正確には、マリエルの場合はあの日に見た赤黒く腫れ上がった顔なんですが…あの子は何故か、あの日の顔が本来の自分の顔だと思い込んでしまっています。そしてあれ以来、あの日の顔が繰り返し繰り返し、毎日鏡を見る度に映っていることに耐えられなくなってました」


「いや…だってあれは、あの子の体が異物に反応して起きた拒絶反応だった、とカルロ様にも医者にも言われた。本人にも言ってある!実際にあのあと何が原因か、試した結果、あの日食べたナールが原因だったと分かった。だから、あれ以来我が家にナールが運び込まれたことは一度もない!何に反応したか試した時だって、皮膚で試したんだ。あんな顔になったのはあの日だけだった。なのに、何故あの日を再現できるんだよ!」


「それだけ、あの日のことが心に深く根付いてしまったんでしょうね」


 グッとマリウスは息を飲む。自分の力不足を改めて思い知らされる。


「…私がマリエルに施術をかけ始める頃、彼女は毎日の鏡に映る姿に怯えて、消えてしまいそうでした。…そこで、私は逆の事をしました。鏡に映るマリエルの顔が正しい元の顔に見えるよう、彼女の心に…つまりは頭にということですが、魔術を施しました。マリエルは何も変わっていませんが、施術で顔が綺麗に戻ったと信じたので、外に出ることも人と会うことも苦痛じゃなくなりました。それでも時間が経つと、思い込んだあの日の顔が見えてきてしまうので、定期的に魔術をかけ続けました。私は、あの子の心が落ち着いて、本来の自分の姿が見えるようになるまで、ずっと付き合うつもりでした。…しかし、彼女の思いとは違うことをしていたのは事実です。騙していたかと問われれば、騙していたとなるでしょうね」


「違っ…キーラン!それは…やっぱり騙してなかったってことじゃないか!…本当なら、お前だって、あの子の泣く様を見るのは辛かっただろうに…ありがとう!マリエルの兄として、心から感謝をする。本当にありがとう!」


 マリウスは泣き出さんばかりにくしゃくしゃの顔で、きつくキーランの手を握りしめた。

 キーランは苦笑しながら、自分の手を上から握るマリウスの指をそっと握り返す。


「…マリエルは、私にとっても生まれときから見ている、大事な子なんですよ」


「そう、そうだよな!…良かった…あの子はキーランを信じていたし、信じたがっていた。もちろん、僕もだ。…でも国家法違反というのは、確認しないといけないくらい、重い話だっただろ?…良かった…やっと力が抜けたよ…昨日から身体中が力んで強ばってたんだよ…」


「ふふっ…マリウスらしい」


 実際、安心して肩の力が抜けたのか、座る姿も先ほどよりだらしない。


「…そう、それで?昨日の婚約者…ヨルゲン子爵令息との話は進んだのですか?」


「うん?ああ、何でもあいつに他に想う人がいたらしくてね、無事別れてきたそうだよ?」


「それは…また…」


「な?どうかと思うだろ?でも、まぁこれで、これからまたしばらくは、次の相手探しだなぁ」


「え?…今回が最後だったんじゃないんですか?」


「うん、そのつもりだったんだけどね、マリエルが想像以上に頑張って、しかも本気で向き合う姿を見てたら、父上も母上も絆されちゃってね。だからもう少し時間をあげることになったんだ。…僕としては、もうどこにも行かないで、領地経営を手伝ってくれればいいと思ってるんだけどね」


「…ああ…やっぱり…あの領地か…」


「あの男とは円満に別れたのは、領地が隣同士という点でだけは良かったけどね。この間、キーランが言ってたみたいに、あの領地はキーランに持っていって欲しかったよ!そしたら、こんな思いしなくて済んだのに…」


「本当にね…私が買いたかったですよ…」


 昨日からの重荷が取れたマリウスには、キーランの苦々しげな顔は目に入らなかった。

 

 その後、早くマリエルにつたえなければ、と心の軽さを表すように足取りも軽く部屋を出ていったマリウスには、その後ろ姿を見送りながら


「…頭もキレる次期宰相が、妹のことになるとこうも何も見えなくなるものですかね…。私は嘘はついていませんが…全てを話したわけでもない…。矛盾点に気づきもしないで帰るとは…」


とキーランが呟いたことに気づくはずもなかった。

という訳で、気づいてらした方もいらっしゃるかと思いますが、マリエルの顔の原因はアレルギーです。

実際、バナナアレルギーの方は、いらっしゃいますが、症状の表れ方は様々です。


私はバナナではないですが、やはりアレルギー持ちなので、こんな風に早く原因が分かって排除できれば…と思ったりもします。


さて、キーランのヤンデレはどこまでいきますことやら…

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